監修

  • 谷口 浩也先生

    愛知県がんセンター中央病院
    薬物療法部 医長

  • 加藤 健先生

    国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長

  • 山﨑 健太郎先生

    静岡県立静岡がんセンター
    消化器内科 医長

レポーター (50音順)

  • 新井 裕之先生

    聖マリアンナ医科大学
    臨床腫瘍学 診療助手

  • 川上 尚人先生

    近畿大学医学部
    内科学腫瘍内科部門 医学部講師

  • 中島 雄一郎先生

    九州大学大学院
    消化器・総合外科 助教

  • 成田 有季哉先生

    愛知県がんセンター中央病院
    薬物療法部 医長

  • 宮本 敬大先生

    国立がん研究センター中央病院
    消化管内科 がん専門修練医

  • 山田 武史先生

    筑波大学附属病院
    消化器内科 病院講師

2017年6月2日~6日に米国シカゴで開催された、米国臨床腫瘍学会年次集会(2017 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®)より、大腸癌や胃癌などの消化器癌の注目演題のレポートをお届けします。臨床研究の第一線で活躍するドクターにより執筆、監修されたレポートを楽しみにしてください。

演題レポート

Non-Colorectal Cancer

Oral Abstract #4004
胃癌

切除可能胃癌/食道胃接合部腺癌の周術期化学療法に関するFLOT療法とECF/ECX療法を比較した多施設第III相比較試験(FLOT4試験)

Perioperative chemotherapy with Docetaxel, Oxaliplatin, and Fluorouracil/Leucovorin (FLOT) versus Epirubicin, Cisplatin, and Fluorouracil or Capecitabine (ECF/ECX) for resectable gastric or gastroesophageal junction (GEJ) adenocarcinoma (FLOT4): A multicenter, randomized phase 3 trial.

Al-Batran SE, et al.

監修コメント

加藤 健先生

国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長

 胃癌、食道胃接合部腺癌に対する標準的周術期治療の1つである術前術後ECF療法(Epirubicin+Cisplatin+5-FU)は、MAGIC試験1)の結果より長らく欧米において受け入れられている治療である。今回は、ECF療法のEpirubicinに変えてDocetaxel、Cisplatinに変えてOxaliplatinを併用したFLOTレジメンについて、同様に術前術後に行った治療を比較する試験である。プラチナ製剤+フッ化ピリミジン系製剤へのDocetaxelの上乗せ効果はV325試験2)などで示されている。問題は毒性であるが、前相であるFLOT3試験では、切除可能群、限局転移群、遠隔転移群へ投与され、有効性と安全性が示されている3,4)
 本試験の結果、長らく標準的治療であったECF/ECX群とFLOT群の両群において、同程度の用量強度が保たれ、完遂割合も同様であるが、R0切除割合、主要評価項目であるOS(overall survival)はFLOT群が上回っており、薬剤のパワーとしてDocetaxelの併用がより効果的であることが示されている。毒性については、好中球減少や下痢などが増加しているが、許容できないほどではなく、想定の範囲内と考えられた。2週間毎50mg/m2投与のDocetaxelは、頭頸部癌や食道癌の術前あるいは導入治療として用いられているDCF療法(Docetaxel+Cisplatin+5-FU)と用量強度は同様であり、日本でも忍容可能と思われた。
 一方で、日本を含めた東アジアでは、同じ対象の胃癌に対してはD2郭清を伴う胃切除術ならびに術後のS-1あるいはXELOXが標準治療であり、かつ3年DFS割合は74%と高い数字が示されている5)。今回の試験では、D2郭清が行われている割合はわずか55%前後であり、予後もアジアのものと比較して低い。FLOT4試験は、周術期の化学療法におけるタキサン製剤を含む3剤併用療法の可能性を示したが、日本の現在の標準的周術期治療に取り込むには、何かしらの応用が必要と考えられる。ディスカッションでも、アンスラサイクリン製剤が必要なのか、そもそも毒性が強く投与完遂が困難な術後化学療法は全例に必要か?などの疑問が出ている。現在、胃癌に対するD2郭清を伴う胃切除術と術後補助化学療法への術前SOX療法の上乗せ効果を検討する第III相試験(JCOG1509試験)6)、食道胃接合部癌を含む食道癌に対する術前CF療法とDCF療法、CF-RT療法(CF療法+放射線療法)を比較する第III相試験(JCOG1109試験)7)が行われている。

(コメント・監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健)

欧米における胃癌の周術期化学療法

 欧米ではMAGIC試験の結果より、切除可能胃癌に対しては周術期にECF療法(Epirubicin+Cisplatin+5-FU)を行うことが標準治療となったが、OS中央値は25ヵ月、5年OS割合は36%であり、依然として満足できる結果とは言えない1)。そこで、切除可能胃癌に対する周術期化学療法の第II相試験において周術期FLOT療法(Docetaxel+Oxaliplatin+5-FU/LV)の有効性と安全性が確認され3,4)、有望な治療であるとの判断のもと、標準治療であるECF/ECX療法とFLOT療法を比較する多施設共同無作為化第III相試験、FLOT4試験が行なわれた。

ECF/ECX療法 vs. FLOT療法

 対象は、cT2-4/cNany/cM0もしくはcTany/cN+/cM0で耐術能のある胃癌もしくは食道胃接合部腺癌患者であり、対象患者はECF/ECX療法(Epirubicin 50mg/m2+Cisplatin 60mg/m2+5-FU 200mg/m2, 24時間持続静注またはCapecitabine 1,250mg/m2, day 1-21、3週毎)を術前3サイクル、術後3サイクル施行する群(ECF/ECX群)と、FLOT療法(Docetaxel 50mg/m2+Oxaliplatin 85mg/m2+Leucovorin 200mg/m2+5-FU 2,600mg/m2, 24時間持続静注、2週毎)を術前4サイクル、術後4サイクル施行する群(FLOT群)に無作為に割り付けられた。層別因子は、ECOG PS(0 or 1 vs. 2)、主占拠部位(Siewert I vs. Siewert II/III vs. 胃)、年齢(60歳未満 vs. 60-69歳 vs. 70歳以上)、リンパ節転移(cN陽性 vs. cN陰性)であった。なお、手術は2領域郭清もしくはD2郭清とされた。
 主要評価項目はOSであり、副次評価項目はPFS、完全切除割合、手術合併症および死亡割合、化学療法関連有害事象であった。ECF/ECX群のOS中央値を25ヵ月とし、検出力80%でFLOT群がハザード比0.76、両側検定α=0.05で優越性を示す仮説で行われ、優越性が示されない場合に非劣性を検証する試験デザインであった。

周術期FLOT療法がECF/ECX療法に対して優越性を示す

 2010年8月~2015年2月の間にドイツの38施設から716例が登録され、ECF/ECX群360例、FLOT群356例に割り付けられた。患者背景に大きな差はなく、周術期治療の規定された治療サイクルの完遂割合は ECF/ECX群が術前91%、術後37%、FLOT群が術前90%、術後46%であった。
 手術成績に関しては(ECF/ECX群 vs. FLOT群)、腫瘍切除施行例が313例(87%) vs. 336例(94%)(p=0.001)、R0切除例が276例(77%) vs. 300例(84%)(p=0.011)であり、いずれもFLOT群で有意に良好な成績を示した。2領域郭清施行例、D2郭清施行例はECF/ECX群106例(29%)、192例(53%)、FLOT群113例(32%)、204例(57%)であった。術後合併症(ECF/ECX群 vs. FLOT群)は、188例(55%)vs. 188例(55%)、院内死亡/30日内死亡/90日内死亡は、15例(4%)/10(3%)/26(8%) vs. 8例(2%)/6例(2%)/16例(5%)であった。Grade 3以上の化学療法関連有害事象の発現頻度は、嘔吐悪心、血栓症、貧血はECF/ECX群で有意に高率であり、下痢、感染症、好中球減少、神経障害はFLOT群で有意に高率であった。なお、化学療法関連死亡は両群とも2例であり、治療に関連する重篤な有害事象も両群に差を認めなかった(34% vs. 35%)。
 主要評価項目であるOSの中央値は、ECF/ECX群35ヵ月(95% CI: 27-46)、FLOT群50ヵ月(95% CI: 38-NA)であり(HR=0.77, 95% CI: 0.63-0.94, p=0.012)、FLOT群の優越性が示された(図1)。

図1

発表者の許可を得て掲載(approved by Al-Batran SE)

 PFS中央値は、ECF/ECX群18ヵ月(95% CI: 15-22)、FLOT群30ヵ月(95% CI: 21-42)であり(HR=0.75, 95% CI: 0.62-0.91, p=0.004)、FLOT群が有意に良好であった(図2)。また、OS、PFSともに、すべてのサブグループにおいてFLOT群が良好であった。

図2

発表者の許可を得て掲載(approved by Al-Batran SE)

まとめ

 周術期FLOT療法はECF/ECX療法と比べて、周術期合併症および死亡割合、再手術、入院期間を悪化させることなく、OS、PFSを延長し、R0切除割合を高めた。また、すべてのサブグループにおいてFLOT療法の効果が認められた。以上より、食道胃接合部腺癌および胃癌に対する周術期化学療法はFLOT療法が新たな標準治療であると考えられる。

(国立がん研究センター中央病院 消化管内科 がん専門修練医 宮本 敬大)

References

1) Cunningham D, et al.: N Engl J Med. 355(1): 11-20, 2006[PubMed][論文紹介
2) Van Cutsem E, et al.: J Clin Oncol. 24(31): 4991-4997, 2006[PubMed][論文紹介
3) Lorenzen S, et al.: Br J Cancer. 108(3): 519-526, 2013[PubMed
4) Al-Batran SE, et al.: JAMA Oncol. 2017[Epub ahead of print][PubMed
5) Bang YJ, et al.: Lancet. 379(9813): 315-321, 2012[PubMed][論文紹介
6) 局所進行胃癌における術後補助化学療法に対する周術期化学療法の優越性を検証することを目的としたランダム化比較第III相試験(JCOG1509, NAGISA trial)[UMIN-CTR
7) 臨床病期IB/II/III食道癌(T4を除く)に対する術前CF療法/術前DCF療法/術前CF-RT療法の第III相比較試験(JCOG1109、NExT study)[UMIN-CTR