ESMO2016演題レポート

2016年10月7-11日、デンマーク・コペンハーゲンで開かれた
欧州臨床腫瘍学会(ESMO)学術集会から、
大腸癌や胃癌など消化器癌の注目演題のレポートをお届けします。

NEOCRTEC5010試験

切除可能食道癌に対する術前化学放射線療法+手術 vs. 手術単独の比較第III相試験(Oct.8 611O)

コメント

 欧米では、進行食道癌に対して手術以外の治療による局所制御を優先し、非開胸食道抜去術が多く行われる。また、術前化学療法のメタアナリシス1)やCROSS試験2)(術前化学放射線療法[Paclitaxel+Carboplatin+放射線療法]→手術)の結果などから、術前化学放射線療法が標準治療と考えられている。ただし、CROSS試験のサブグループ解析では、術前化学放射線療法のOSにおけるハザード比が、腺癌(HR=0.73, 95% CI: 0.55-0.98, p=0.038)よりも扁平上皮癌(HR=0.48, 95% CI: 0.28-0.83, p=0.008)の方が良好な傾向が示唆されていた3)
 NEOCRTEC5010試験は、stage IIB/IIIの食道扁平上皮癌に対して、術前化学放射線療法の有効性を検証した第III相比較試験であり、中国から報告された。ディスカッサントからは、試験開始が2007年であるが観察期間中央値が30.6ヵ月とやや短いことが指摘されていた。確かにKaplan-Meier曲線では打ち切り例が多いことが伺える。また、化学放射線療法群のdrop outの割合が17.4%であること、症例数計算に関する情報が提示されなかったことを含め、ディスカッサントからも、試験の質という点ではやや疑問が残るという指摘があった。しかし、CROSS試験で示された術前化学放射線療法の有用性が再現された点において、意義のある重要な試験と考えられる。
 いずれにしても、手術術式が異なる点、コントロール群が手術単独である点、化学療法のレジメンが異なる点などから、本邦に外挿することはできない。本邦におけるstage II/IIIの食道癌に対する現在の標準治療は、術後補助化学療法を検証したJCOG9204試験4)、術前補助化学療法を検証したJCOG9907試験5)の結果から、術前化学療法(FP療法: 5-FU+CDDP)→手術と考えられている。現在進行中のJCOG1109試験(術前FP療法→手術 vs. 術前DCF療法[5-FU+CDDP+Docetaxel]→手術 vs. 術前化学放射線療法[FP療法+放射線療法]→手術)の結果が待たれる。


(コメント・レポート:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 成田 有季哉)

術前化学放射線療法の生存延長効果を検証

 食道扁平上皮癌に対しては術前化学放射線療法により予後改善が期待されるが、既報の試験結果は一致していない。今回、局所進行食道扁平上皮癌に対する術前化学放射線療法が予後改善に寄与するかを検証する第III相比較試験が中国にて実施された。

術前化学放射線療法+手術と手術単独を比較

 対象は、18~70歳、Karnofsky Performance Status 90以上で治療歴のないstage IIB/III(AJCC第6版)の切除可能な食道扁平上皮癌患者であり、頸部食道癌、大動脈・気管浸潤のある症例は除外された。対象患者は、手術単独群(S群)と術前化学放射線療法→手術群(CRT群)に1:1で無作為に割り付けられた。化学放射線療法は、Vinorelbine(25mg/m2, day 1, 8)+CDDP(75mg/m2, day 1 or 25mg/m2, day 1, 4)3週間毎2サイクルと線量40Gy(20回分割)の同時併用が行われた。手術は、McKeownまたはIvor Lewis法による食道切除術と2領域リンパ節郭清+縦隔リンパ節郭清が行われ、CRT群の手術はCRT終了後4~6週間が推奨された。
 主要評価項目はOS、副次評価項目はDFS(disease-free survival)、安全性、R0切除率、CRT後の病理学的CR率であった。

術前化学放射線療法の有効性を示した

 2007年7月~2014年12月の間に451例が登録され、CRT群に224例、S群に227例が割り付けられた。観察期間中央値は30.6ヵ月であった。CRT群/S群の患者背景は、年齢平均値56.0歳/56.9歳、男性84.8%/78.0%、cStage IIIが84.0%/83.7%であり、群間差を認めなかった。
 主要評価項目であるOSは、1年/2年/3年生存割合でCRT群: 90.0%/75.7%/69.6%、S群: 85.8%/72.6%/62.4%であった(HR=0.71, 95% CI: 0.52-0.98, p=0.035)。CRT群における病理学的CR率は43.2%であり、pStage IIIの割合は、CRT群10.8%、S群62.6%であった。R0切除率は、試験登録例全体ではCRT群81.3%、S群91.2%であり、手術を行った症例ではCRT群98.4%、S群91.2%であった(p=0.002)。
 化学放射線療法によるgrade 3/4の有害事象は、白血球減少48.8%、好中球減少45.7%、血小板減少7.2%、貧血4.0%、嘔吐4.0%、食欲低下2.2%、食道炎2.7%、発熱0.9%、倦怠感0.4%、であった。また、手術による有害事象は、CRT群/S群で不整脈13.0%/4.0%、肺炎10.8%/14.5%、縫合不全8.6%/12.3%、気胸4.9%/2.6%、乳び胸2.7%/3.1%、切開部感染1.6%/3.5%、無気肺1.6%/1.3%であった。

まとめ

 Stage IIB/IIIの食道扁平上皮癌に対して、術前化学放射線療法→手術は手術単独と比較してOSの延長を認めた。また、有害事象も十分管理可能であった。

参考文献

1)Urschel JD, et al.: Am J Surg. 183(3): 274-279, 2002[PubMed

2)van Hagen P, et al.: N Engl J Med. 366(22): 2074-2084, 2012[PubMed

3)Shapiro J, et al.: Lancet Oncol. 16(9): 1090-1098, 2015[PubMed

4)Ando N, et al.: J Clin Oncol. 21(24): 4592-4596, 2003[PubMed

5)Ando N, et al.: Ann Surg Oncol. 19(1): 68-74, 2012[PubMed

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