ESMO2016演題レポート

2016年10月7-11日、デンマーク・コペンハーゲンで開かれた
欧州臨床腫瘍学会(ESMO)学術集会から、
大腸癌や胃癌など消化器癌の注目演題のレポートをお届けします。

LUME-Colon 1試験

標準治療不応後の切除不能進行・再発大腸癌患者に対するNintedanib+BSCとプラセボ+BSCの比較第III相試験(Oct.9 LBA20)

コメント

 切除不能進行・再発大腸癌に対する後方ライン治療としては、Regorafenib、TAS-102が既に標準治療として確立されている。しかしながら、いずれの治療もpivotal trialにおけるプラセボに対するOS中央値の差は2ヵ月未満であり、さらなる新規治療薬の登場が期待されていた。
 LUME-Colon 1試験は、主に血管新生に関与する因子を阻害する経口マルチキナーゼ阻害剤Nintedanibの有効性を検証する第III相試験であり、本邦からも約100例が登録された。しかし、残念ながらプラセボに対して有意なOS延長は認められず、Nintedanib療法が大腸癌の実臨床に使用される可能性はないと思われる。
 Regorafenibを除く経口の血管新生阻害剤としては、Brivanib、Cediranibなど数々の薬剤が大腸癌においてnegative trialに終わっており、それらを再現した形となった。今後しばらくは、Regorafenib、TAS-102をいかに使い切るかを念頭においた治療戦略の組み立てが、後方ライン治療において求められる。


(コメント・レポート:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也)

Nintedanibとは?

 Nintedanibは、 VEGFR1-3, FGFR1-3, PDGFRα/β等の血管新生因子を阻害する経口のマルチキナーゼ阻害剤である1)。有害事象としての手足症候群がほとんど生じないなどの特徴があり2-6)、EUでは非小細胞肺癌でDocetaxelとの併用療法として既に承認されている。また、大腸癌では1st-lineとしてのmFOLFOX6併用療法や標準治療不応後の患者に対する単剤療法で有効性が示唆されていた6, 7)。今回、標準治療不応後の大腸癌患者を対象にプラセボ対照の検証的第III相試験が実施された。

プラセボに対するNintedanibの優越性を検証

 対象は、ECOG PS 0-1、測定可能病変を有する標準治療(フッ化ピリミジン系製剤、Oxaliplatin、Irinotecan、Bevacizumab、KRAS/RAS野生型の場合は抗EGFR抗体薬)に不応不耐となった切除不能進行・再発大腸癌患者であり、Nintedanib群(Nintedanib: 200mg bid+BSC)と、プラセボ群(プラセボ: 200mg bid+BSC)に1:1で無作為に割り付けられた。
 主要評価項目としてOSとPFS(中央評価)、副次評価項目としてORR、病勢コントロール率が設定された。期待されるハザード比と検出力はOSで0.77(検出力90%)、PFSで0.75(検出力95%)とされ、必要イベント数はそれぞれ613、687と算出された。

NintedanibはPFSの有意な延長を示すも、OSには反映されず

 2014年10月14日~2016年1月18日の間に日本を含むグローバルから768例が登録され、Nintedanib群386例、プラセボ群382例に割り付けられた。患者背景はNintedanib群/プラセボ群でそれぞれ、年齢中央値62歳/62歳、男性61.1%/57.1%、ECOG PS 0が42.0%/37.2%、Asiaが24.6%/25.7%、Regorafenib投与歴ありが36.5%/37.7%で、両群間に差を認めなかった。
 主要評価項目であるPFSはハザード比0.58(中央値: Nintedanib群1.51ヵ月 vs. プラセボ群1.38ヵ月, 95% CI: 0.49-0.69, p<0.0001)であり、有意にNintedanib群が良好であった。しかし、もう1つの主要評価項目であるOSにおいてはハザード比1.01(中央値: Nintedanib群6.44ヵ月 vs. プラセボ群6.05ヵ月, 95% CI: 0.86-1.19, p=0.8659)であり、有意差を認めなかった。OSのサブグループ解析では、KRAS/RAS遺伝子型、地域、Regorafenibの投与歴などでは交互作用を認めなかった。なお、ORRはNintedanib群0%、プラセボ群/0%、病勢コントロール率はそれぞれ25.6%、10.5%であった。
 後治療実施割合はNintedanib群35.8%、プラセボ群39.8%であり、後治療開始時点で打ち切り例とした場合における探索的なOS解析では、ハザード比0.79(95% CI: 0.65-0.96)であり、Nintedanib群で良好であった。なお、Nintedanib群における有害事象は既報と同程度であった。

まとめ

 標準治療後のNintedanib療法は、プラセボと比較してPFS延長を認めたものの、有意なOS延長は得られなかった。

参考文献

1)Hilberg F, et al.: Cancer Res. 68(12): 4774-4782, 2008[PubMed

2)Bousquet G, et al.: Br J Cancer. 105(11): 1640-1645, 2011[PubMed

3)Ellis PM, et al.: Clin Cancer Res. 16(10): 2881-2889, 2010[PubMed

4)Doebele RC, et al.: Ann Oncol. 23(8): 2094-2102, 2012[PubMed

5)Reck M, et al.: Lancet Oncol. 15(2): 143-155, 2014[PubMed

6)Van Cutsem E, et al.: Ann Oncol. 26(10): 2085-2091, 2015[PubMed

7)Mross K, et al.: BMC Cancer. 14: 510, 2014[PubMed


関連リンク
GI-pedia 第5回「癌分子標的薬の歴史」

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