ESMO2016演題レポート

2016年10月7-11日、デンマーク・コペンハーゲンで開かれた
欧州臨床腫瘍学会(ESMO)学術集会から、
大腸癌や胃癌など消化器癌の注目演題のレポートをお届けします。

GOLD試験

進行胃癌に対する2nd-lineとしてのPaclitaxel±Olaparib療法の第III相試験(Oct.8 LBA25)

コメント

 GOLD試験はPaclitaxel療法に対するPaclitaxel+Olaparib併用療法の優越性を検証した、日本を含むアジアで行われた国際共同第III相試験である。全体集団(FAS:full analysis set)におけるKaplan-Meier曲線を見て筆者が感じたのは、「惜しい」の一言に尽きる。コントロール群であるPaclitaxel療法の治療成績は、OS中央値6.9ヵ月であり、既報と同程度であった。そして、Olaparib併用によりOS中央値で1.9ヵ月の上乗せが認められ、P値は0.05を下回ったが、ATMタンパク発現陰性(以下、ATM陰性)集団のOSを共主要評価項目に設定していたことから有意水準が0.025となっており、有意差なしという皮肉な結果となった。
 ATM陰性例ではOlaparibの効果が高まるというpreclinical dataを再現した形になった第II相試験1)の結果を受け、本試験ではATM陰性集団でのOSが共主要評価項目に設定された。しかし、ATM陰性集団のOSでも全体集団と同程度のハザード比であり、ATMタンパク発現の有無はOlaparibの良好な効果予測因子とは言えない結果であった。
 ディスカッサントは、DNA修復機構に関わるATM以外のp53やBRCA機能異常(BRCAness)などもOlaparibの効果に影響を与える可能性を指摘していた。本試験を通じて、改めて胃癌の分子標的治療薬の開発の難しさを感じさせられた。本試験がnegative trialとなったことから、胃癌2nd-lineにおいて最も推奨される治療レジメンは依然としてPaclitaxel+Ramucirumabのままである。


(コメント・レポート:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 成田 有季哉)

Olaparibとは?

 Olaparibは、DNA損傷修復タンパクのひとつであるpoly(ADP-ribose)polymerase(PARP)を標的とした阻害剤である。同じくDNA損傷修復に関与するタンパクであるBRCA1/2の機能異常を有するBRCA遺伝子変異陽性進行卵巣癌に対し有効性が証明され、欧米では既に承認されている1)。一方、胃癌におけるDNA修復経路異常としては、ATM、p53などの機能異常がしばしば認められる。
 本試験の前に行われたPaclitaxel±Olaparibの第II相比較試験では、OSにおいて全体集団(HR=0.56, 80% CI: 0.41-0.75, p=0.005)と比べ、ATM陰性のサブグループ(全体集団の50%)で、よりOlaparibの上乗せ効果が認められた(HR=0.35, 80% CI: 0.22-0.56, p=0.002)2)。この試験の結果を受け、検証的試験として第III相試験(GOLD試験)が実施された。

Paclitaxel療法に対するPaclitaxel+Olaparib併用療法の優越性を検証

 本試験は、1st-lineに不応となった胃腺癌および食道・胃接合部腺癌を対象に、Olaparib+Paclitaxel群(Olaparib: 100mg, po, twice daily+weekly Paclitaxel: 80mg/m2, iv, day 1, 8, 15, q28days)とPaclitaxel群(Placebo+weekly Paclitaxel: 80mg/m2 , iv, day 1, 8, 15, q28days)に1:1で無作為に割り付けられた。
 主要評価項目は、全体集団におけるOSとATM陰性例におけるOSの共主要評価項目とした。副次評価項目は、PFS、ORR、健康関連QOL、安全性であった。期待されるハザード比を、全体集団で0.70、ATM陰性例で0.35とし、Hochberg approachにて有意水準を0.025とした。なお、ATM機能異常は、免疫組織化学染色(Ventana, Tucson, Arizona, USA)にて評価し、核への染色が認められる癌細胞が25%未満の症例をATM陰性と診断した。

全体集団、ATM陰性でもPaclitaxel+Olaparib併用療法の優越性は認められず

 中国(202例)、韓国(201例)、日本(102例)、台湾(20例)から525例が登録され、Olaparib+Paclitaxel群263例、Paclitaxel群262例が割り付けられた。なお、ATM陰性集団は全体の18%であった。全体集団におけるOlaparib+Paclitaxel群とPaclitaxel群の患者背景は、年齢中央値58歳/59歳、男性66.2%/70.6%、ECOG PS 0が44.5%/40.8%、胃切除歴ありが48.3%/53.4%、ATM陰性18.3%/17.6%であり、群間差を認めなかった。また、ATM陰性集団でも両群間に患者背景で差を認めなかった。
 全体集団において、主要評価項目であるOSの中央値は、Olaparib+Paclitaxel群8.8ヵ月、Paclitaxel群6.9ヵ月であり(HR=0.79, 97.5% CI: 0.63-1.00, p=0.0262)、事前に定めたHochberg approachによる有意水準0.025をクリアできず、有意差を認めなかった。また、もう1つの主要評価項目であるATM陰性集団におけるOSの中央値は、Olaparib+Paclitaxel群12.0ヵ月、Paclitaxel群10.0ヵ月であり、有意差を認めなかった(HR=0.73, 97.5% CI: 0.40-1.34, p=0.2458)。
 PFSは、全体集団のハザード比が0.84(97.5% CI: 0.67-1.04, p=0.0645)、ATM陰性集団のハザード比が0.74(97.5% CI: 0.45-1.29, p=0.2199)であった。また、ORRは全体集団のオッズ比が1.69(97.5% CI: 0.92-3.17, p=0.0548)、ATM陰性集団のオッズ比が4.24(97.5% CI: 0.95-23.23, p=0.0309)であり、Olaparib+Paclitaxel群で良好な傾向であった。
 Grade 3/4の有害事象は、Olaparib+Paclitaxel群で好中球減少(29.8% vs. 22.8%)、白血球減少(16.0% vs. 10.4%)、貧血(14.5% vs. 7.3%)、食欲低下(4.2% vs. 1.2%)、悪心(2.3% vs. 1.2%)、倦怠感(4.2% vs. 2.3%)が多い傾向にあった。

まとめ

 Paclitaxel+Olaparib併用療法は、主要評価項目である全体集団、ATM陰性集団におけるOSの優越性を検証できなかった。

参考文献

1)Kaufman B, et al.: J Clin Oncol. 33(3): 244-250, 2015[PubMed

2)Bang YJ, et al.: J Clin Oncol. 33(33): 3858-3865, 2015[PubMed

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