ESMO2016演題レポート

2016年10月7-11日、デンマーク・コペンハーゲンで開かれた
欧州臨床腫瘍学会(ESMO)学術集会から、
大腸癌や胃癌など消化器癌の注目演題のレポートをお届けします。

大腸癌の左右の違い

大腸癌における原発巣位置の違いは治療方針に影響を及ぼすか?(Oct.10 Special Session)

コメント

 本年の米国臨床腫瘍学会年次集会でCALGB80405試験における左右別の治療成績が発表されたのに続き、本ESMOでは既報の第III相試験におけるsidednessに関する後解析が実施された。
 その結果、右側結腸はprognostic(予後不良)かつpredictive(抗EGFR抗体薬の効果が乏しい傾向)であることが確認された。Sidednessは治療レジメン選択の上で考慮するべき因子となり得る。しかし、左側は抗EGFR抗体薬、右側はBevacizumabと、通り一辺倒に決まる訳ではない。実地臨床では、治療のゴールや患者の全身状態、副作用に対する考えなど色々な要素から治療レジメンは決定されるべきである。今まで以上に左側は抗EGFR抗体薬、右側はBevacizumabが選択されるケースが増えると考えられるが、最終決着は、現在進行中のPARADIGM試験1)、STRATEGIC-1試験2)などの第III相試験の結果待ちである。


(コメント・レポート:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也)

Sidednessに関するSpecial Session

 近年、第III相試験のサブグループ解析から、切除不能進行・再発大腸癌において、右側結腸(Right)は、左側結腸+直腸(Left)と比較して予後不良であること、抗EGFR抗体薬の効果が乏しい可能性が指摘されていた。今回、Special Sessionとして、様々な第III相試験のRight vs. Leftのサブグループ解析が公表され、Sidednessは治療方針に影響を与えるかどうか議論された。

LeftとRightでの分子生物学的な違い

 HJ. Lenzは、Rightに発生する大腸癌は、女性、CIMP high、BRAF変異陽性、マイクロサテライト不安定性が高い(MSI-H)が多いことを挙げた。一方、Leftに発生する大腸癌は、男性に多く、染色体不安定性(CIN)陽性、HER1/HER2増幅などが特徴的であると述べた。また、RightとLeftの違いとして、発生の違い(Midgut or Hindgut)や腸内細菌叢の違いについても指摘し、これらが予後や抗EGFR抗体薬の効果の違いに影響を与えている可能性があると述べた。

抗EGFR抗体薬あり vs. なしの比較試験より(PRIME試験、CRYSTAL試験)

 M. Peetersは、PanitumumabのPRIME試験PEAK試験20050181試験におけるRight vs. Leftのデータを示した。PRIME試験のRAS野生型におけるFOLFOX4単独群 vs. FOLFOX4+Panitumumab群の比較では、LeftではOS中央値 23.6ヵ月 vs. 30.3ヵ月(HR=0.73, 95% CI: 0.57-0.93)、Rightでは15.4ヵ月 vs. 11.1ヵ月(HR=0.87, 95% CI: 0.55-1.37)であった。RightはLeftと比較して予後不良であるが、抗EGFR抗体薬の効果についてはLeftで効果が高い傾向にあるもののRightでPanitumumab併用の上乗せ効果がないとは言えないとした。また、ORRでは左右の違いによる差はみられなかった。
 E. Van Cutsemは、CetuximabのCRYSTAL試験のデータを示した。CRYSTAL試験のRAS野生型におけるFOLFIRI単独群 vs. FOLFIRI+Cetuximab群の比較において、LeftではOS中央値 21.7ヵ月 vs. 28.7ヵ月(HR=0.65, 95% CI: 0.50-0.86, p=0.002)、Rightでは15.0ヵ月 vs. 18.5ヵ月(HR=1.08, 95% CI: 0.65-1.81, p=0.76)であり、PRIME試験の同様の結果であった。

抗EGFR抗体薬 vs. 抗VEGF抗体薬の比較試験より(FIRE-3試験、CALGB80405試験)

 続いてV. HinemannがFIRE-3試験のデータを示した。RAS野生型におけるFOLFIRI+Bevacizumab群 vs. FOLFIRI+Cetuximab群の比較において、LeftではOS中央値 28.0ヵ月 vs. 38.3ヵ月 (HR=0.63, p=0.002)、Rightでは23.0ヵ月 vs. 18.3ヵ月(HR=1.31, p=0.28)であった。さらにHJ. Lenzより2016年米国臨床腫瘍学会年次集会で発表のあったデータが再び示された。

賛成・反対それぞれの立場から*
*D. ArnoldとA. Cervantesの発表はプロコン形式の議論であるため、必ずしも本人の意見でない場合がある。

 D. Arnoldは以上のデータのメタアナリシスを提示し、Leftでは1st-lineにおける抗EGFR抗体薬併用療法が有意にOSを延長していることから、治療のゴールがcytoreduction3)でもdisease control3)でも抗EGFR抗体併用療法を好んで使用するとした。また、Rightではdisease controlの場合には二剤併用化学療法+Bevacizumab、cytoreductionの場合には二剤併用化学療法+抗EGFR抗体薬もしくはFOLFOXIRI+Bevacizumabを好んで使用することになるとし、sidednessは大きく治療選択に影響すると述べた。
 一方、A. Cervantesは、sidednessの解析はあくまでad-hocのサブグループ解析に過ぎず、治療レジメンも異なり多くのバイアスを含んでいることから、解釈には十分注意が必要であると述べた。
 最後にJ. Taberneroが、今回の解析からsidednessは初回化学療法における予後不良因子であり、かつ抗EGFR抗体薬の効果予測因子であることから、今後新たな無作為化比較試験を実施する上ではsidednessを層別因子にするべきであると述べた。

参考文献

1)Panitumumab and RAS, DIagnostically-useful Gene Mutation for mCRC). (PARADIGM)[ClinicalTrials.gov

2)Multi-Line Therapy Trial in Unresectable Metastatic Colorectal Cancer (STRATEGIC-1)[ClinicalTrials.gov

3)Van Cutsem E, et al.: Ann Oncol. 27(8): 1386-1422, 2016[PubMed

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