ESMO2018 演題レポート Munich, Germany 19 Oct - 23 Oct 2018

2018年10月19日~23日にドイツ・ミュンヘンで開催された 2018年 欧州臨床腫瘍学会学術集会(ESMO 2018 Congress)より、大腸癌や胃癌などの消化器癌の注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載します。

演題レポート

Poster Discussion Session

#LBA28
胆道癌

FGFR2融合遺伝子陽性の進行胆道癌に対する選択的汎FGFRキナーゼ阻害薬Infigratinib(BGJ398)療法の第II相試験最新結果

Updated results from a phase II study of infigratinib (BGJ398), a selective pan-FGFR kinase inhibitor, in patients with previously treated advanced cholangiocarcinoma containing FGFR2 fusions.

Milind Jovle, et al.

監修コメント

上野 誠 先生

神奈川県立がんセンター 消化器内科 医長

 近年、胆道癌において、分子標的別の治療開発が注目されている。なかでも線維芽細胞増殖因子受容体2(fibroblast growth factor receptor 2: FGFR2)は、肝内胆管癌に比較的高頻度に発現することが報告され1)、複数の薬剤開発が積極的に進んでいる。
 今回、報告されたInfigratinibもその1つである。FGFR2阻害薬の副作用として特徴的なのは高リン血症といわれており2)、今回も高頻度に報告された。有効性も二次治療に絞ると全奏効割合(confirmed overall response rate: cORR、RECIST ver1.1)39.3%という結果で、まずまずの治療成績である。稀少フラクションとして、薬事承認を含めた治療開発がどのように進んでいくのか注目していきたい。また、問題点としてはその頻度であり、実際のFGFR2融合遺伝子陽性率は、本邦の肝内胆管癌において10%に満たない印象である。今後、次世代シーケンサーによる癌遺伝子パネル検査の普及で、より多くの症例が見つかってくるのか確認していきたい。

(コメント・監修:神奈川県立がんセンター 消化器内科 医長 上野 誠)

切除不能胆道癌に対する分子標的治療薬の開発

 切除不能胆道癌に対する標準治療は、Gemcitabine+Cisplatin療法(GC療法)であるが、一次治療不応となった際の選択肢がほとんどないのが現状である。
 近年、肝内胆管癌において、FGFR2融合遺伝子が癌化のプロセスに重要なドライバー遺伝子であることが同定された。肝内胆管癌の13~17%にFGFR2融合遺伝子が存在しており3-5)、この遺伝子変異を治療標的とした選択的FGFR1-3チロシンキナーゼ阻害薬であるInfigratinib(BGJ398)が開発された。

Infigratinb(BGJ398)単剤療法の有効性と安全性を検証

 本試験は、Gemcitabineを含むレジメンの治療歴があり、FGFR2融合遺伝子を有する進行胆道癌に対するInfigratinib(BGJ398)単剤療法の有効性と安全性を検証した第II相試験である。1コース4週とし、Infigratinib(BGJ398)はday 1-21に125mg/日が投与された(図1)。第I相試験の有害事象として、高リン血症を高頻度に認めたため、高リン血症予防目的にリン結合性ポリマーであるセベラマーを内服することが推奨された。
 主要評価項目は全奏効割合(confirmed overall response rate: cORR、RECIST ver1.1)、副次評価項目は、無増悪生存(PFS)期間、病勢コントロール割合(DCR)、最良効果(best overall response: BOR)、全生存(OS)期間、安全性とされた。

図1 Open-label, phase II study design(発表者の許可を得て掲載)

図1
二次治療における全奏効割合(cORR)は39.3%

 71例が解析対象で、年齢中央値53歳(範囲28~74歳)、男性27例(38.0%)、人種は、白人55例(77.5%)、黒人3例(4.2%)、アジア人4例(5.6%)であった。治療期間中央値5.5ヵ月、観察期間中央値8.4ヵ月であった。cORRは26.9%[95%信頼区間(CI): 16.8-39.1)、そのうち2nd-lineの28例におけるcORRは39.3%、3rd-line以降の39例では17.9%であった。DCRは86.3%(95% CI: 72.5-91.5)、PFS中央値6.8ヵ月(95% CI: 5.3-7.6)、OS中央値12.5ヵ月(95% CI: 9.9-16.6)であった(図2)。

図2 Efficacy of Infigratinib in FGFR2 fusion-positive cholangiocarcinoma(発表者の許可を得て掲載)

図2

 主な有害事象は高リン血症(73.2%)、疲労(49.3%)、口内炎(45.1%)であった。Grade 3以上の有害事象は47例(66.2%)に認められ、低リン血症(14.1%)、高リン血症(12.7%)、高Na血症(11.3%)であった。

まとめ

 FGFR2融合遺伝子陽性の進行胆道癌既治療例において、Infigratinib(BGJ398)は臨床的に有望な抗腫瘍効果を示し、毒性も管理可能であった。本試験により、肝内胆管癌においてFGFR2融合遺伝子が治療標的となり得ることが示された。

(レポート:神奈川県立がんセンター 消化器内科 佐野 裕亮)

References
  • 1) Nakamura H, et al.: Nat Genet. 47(9): 1003-1010, 2015[PubMed
  • 2) Dienstmann R, et al.: Ann Oncol. 25(3): 552-563, 2014[PubMed
  • 3) Graham RP, et al.: Hum Pathol. 45(8): 1630-1638, 2014[PubMed
  • 4) Ross JS, et al.: Oncologist. 19(3): 235-242, 2014[PubMed
  • 5) Farshidfar F, et al.: Cell Rep. 18(11): 2780-2794, 2017[PubMed
関連サイト