2017年1月19日~21日に米国サンフランシスコにて開催された2017年 消化器癌シンポジウム(2017 Gastrointestinal Cancers Symposium)より、大腸癌や胃癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には“Expert's view”として、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。
胆道癌
局所進行胆道癌に対する術後のGEMOX療法
(PRODIGE 12/ACCORD 18試験)
Gemox versus surveillance …
Julien Edeline, et al.
Expert's view
谷口 浩也先生
愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長
現在、局所進行胆道癌に対する術後補助化学療法は標準治療ではない。フランスから報告された本試験は、胆道癌に対する術後補助化学療法の検証を試みた大変意義深い試験であったが、残念ながら術後補助化学療法としてのGEMOX(Gemcitabine(GEM)+Oxaliplatin(L-OHP))療法の有効性は示されなかった。なぜGEMOXを選択したのか発表者へ質問したところ、試験開始当時の切除不能胆道癌のcommunity standardであったからとの返答であった。現在ではABC-02試験1)、BT22試験2)の結果からフランスでも切除不能胆道癌ではGEM+Cisplatin(CDDP)療法が広く実施されている。
本試験結果では、GEMOX群でRFSがやや良好であったが有意差を示せなかった。有効性が検証できなかった要因として、GEMOXを選択したこと、再発ハイリスク症例が少なかったこと、症例数不足などが考えられるが、いずれにしろ本試験の結果から、未だに胆道癌に対する術後補助化学療法の有効性は明らかではなく、実臨床においても不用意な補助療法の実施は慎まれるべきだろう。本年の米国臨床腫瘍学会では、イギリスからCapecitabine vs. 経過観察の第III相試験(BILCAP試験)3)の結果が発表される予定である。また、本邦ではS-1 vs. 経過観察の第III相試験(JCOG1202, ASCOT試験)4)が進行中であり、その結果が待たれる。
(コメント・監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也)
術後補助化学療法の有効性の検証
局所進行胆道癌に対する術後補助化学療法の有効性は明らかではないが、切除不能胆道癌に対しては、GEM+CDDP療法の有効性は検証されており1,2)、GEMOXは第II相試験の結果5)から有望であると考えられた。本試験は、GEMOX療法の術後補助化学療法としての有効性を検証する多施設共同無作為化第III相試験である。
GEMOX療法と経過観察を比較
対象は、組織学的に診断され遠隔転移を有さない局所進行肝内・肝外胆管癌および胆嚢癌で、病理学的にR0またはR1切除が行われた患者であり、GEMOX群、経過観察群に1:1で割付けられた。GEMOX群はGEM(1,000mg/m², day 1)+L-OHP(85mg/m², day 2)を2週毎に12サイクル施行され、経過観察群はCT検査と腫瘍マーカー検査を最初2年間は3ヵ月毎、その後は半年毎に計5年間フォローされた。
主要評価項目はRFS(relapse-free survival)およびQOLであり、副次評価項目はOS、DFS(disease-free survival)、毒性であった。経過観察群のRFS中央値を18ヵ月、GEMOX群を30ヵ月と仮定し、必要症例数は190例であった。
GEMOXによる術後補助化学療法はRFSを改善せず
2009年6月~2014年2月の間に術後経過3ヵ月以内の196例が登録され、GEMOX群94例、経過観察群99例に割付けられた。患者背景はGEMOX群/経過観察群でそれぞれ、年齢中央値63.2歳/63.0歳、ECOG PS 0-1が92.6%/94.9%、R1切除率13.8%/12.1%であった。
Grade 3以上の有害事象はGEMOX群と経過観察群でそれぞれ73.4%、30.3%であった。
主要評価項目であるRFSは、ハザード比0.83(95% CI: 0.58-1.19, p=0.31)であり、両群に有意差を認めなかった。RFS中央値はGEMOX群30.4ヵ月(95% CI: 15.4-45.8)、経過観察群22.0ヵ月(95% CI: 13.6?38.3)、4年RFS割合はそれぞれ39.3%、33.2%であった。QLQ-C30によるQOLは、12ヵ月時点でGEMOX群71.4%、経過観察群77%、24ヵ月時点でそれぞれ75.9%、78.8%であり、両群に差はみられなかった。
まとめ
局所進行胆道癌に対するGEMOXによる術後補助化学療法は、忍容可能であり、QOLの低下は認めなかったが、経過観察群と比較して有意なRFS改善は認められなかった。
(レポート:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 レジデント 山口 敏史)
Reference
- 1) Valle J, et al.: N Engl J Med. 362(14): 1273-1281, 2010[PubMed][学会レポート]
- 2) Okusaka T, et al.: Br J Cancer. 103(4): 469-474, 2010[PubMed]
- 3) Capecitabine or Observation After Surgery in Treating Patients With Biliary Tract Cancer[ClinicalTrials.gov]
- 4) 根治切除後胆道癌に対する術後補助療法としてのS-1療法の第III相試験(JCOG1202, ASCOT)[UMIN-CTR]
- 5) Andre T, et al.: Br J Cancer. 99(6): 862-867, 2008[PubMed]
監修・レポーター
監修
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長
レポーター
川上 武志先生
静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 レジデント
監修
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長
レポーター
成田 有季哉先生
愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 専門員
監修
谷口 浩也先生
愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長
レポーター
山口 敏史先生
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 レジデント