2017年1月19日~21日に米国サンフランシスコにて開催された2017年 消化器癌シンポジウム(2017 Gastrointestinal Cancers Symposium)より、大腸癌や胃癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には“Expert's view”として、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。
大腸癌
dMMR/MSI-H切除不能進行・再発大腸癌に対するNivolumab単剤療法のupdate解析(CheckMate-142試験)
Nivolumab alone or in combination …
Michael J. Overman, et al.
Expert’s view
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長
CheckMate-142試験は、2016年の米国臨床腫瘍学会年次集会において中間報告が行われ、同じ抗PD-1抗体薬であるPembrolizumabの既報と同様に、NivolumabがDNAミスマッチ修復機能欠損(dMMR/MSI-H)を有する切除不能進行・再発大腸癌に対して有望な結果を示した。今回はNivolumab単剤のコホートに関して、update解析の結果が報告された。
本解析では74例が対象となり、主要評価項目である担当医師評価による奏効割合は31.1%、12ヵ月PFS割合は48.4%、12ヵ月生存割合は73.8%であり、前回の47例における中間報告とほぼ同様の結果であった。
今回の報告では、PD-L1の発現程度、BRAF、KRAS遺伝子変異有無、リンチ症候群の有無による解析も報告された。頻度の少ないdMMR/MSI-H切除不能進行・再発大腸癌において74例と比較的多くの症例を集めてはいるものの少数例の解析であり、また単アームの試験であることから明確な結論は得られないが、これらの臨床病理学的、分子生物学的な背景の違いにかかわらずNivolumabは有効性を示した。
前回の報告では、Ipilimumabとの併用療法のコホートにおいて、Nivolumab単剤を上回る有効性が示唆される結果であったが、他癌腫における試験と同様に有害事象に関しては注意が必要である。例えば、悪性黒色腫における第III相試験の報告1)では、grade 3以上の有害事象はNivolumab単剤群で16.3%であり今回の報告と同程度であったのに対して、Ipilimumabとの併用群では55.0%で認められた。今回の報告では、PRO(patient-reported outcome)の結果も報告されており、患者評価においてもQOLや臨床症状の改善を認めている。今後、Ipilimumabとの併用療法に関してもPROの結果が報告されると考えられ、有効性だけではなく、安全性、QOLを含めた議論が必要となってくるであろう。
以上の結果より、NivolumabはPembrolizumabと同様にdMMR/MSI-H切除不能進行・再発大腸癌に対する有望な治療として期待される。しかしながら、dMMR/MSI-H切除不能進行・再発大腸癌の頻度は低く、本邦においては約2%と報告されている。さらに、現時点ではMSI検査はリンチ症候群のスクリーニングとしてしか認められていない。今後、これら頻度は少ないものの有望な治療選択肢を有する症例を見つけるためには、本邦でも切除不能進行・再発大腸癌全例でのスクリーニングが必要となると考えられ、その際には遺伝カウンセリングを含めた検査実施体制の整備が急務である。
(コメント・監修:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山﨑 健太郎)
MSI-H大腸癌とは
DNAミスマッチ修復機能欠損(dMMR/MSI-H)は、切除不能進行・再発大腸癌で約4%に認める2,3)。dMMR/MSI-H大腸癌は、neoantigenや腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocytes; TIL)が多いことや、PD-1やPD-L1が過剰発現していることが知られている4)。CheckMate-142試験は、dMMR/MSI-H切除不能進行・再発大腸癌に対して抗PD-1抗体薬のNivolumab単剤、および抗CTLA-4抗体薬のIpilimumabとの併用療法の有効性と安全性を評価する第II相試験であり、今回はNivolumab単剤のコホートに関してupdate解析が報告された。
dMMR/MSI-H大腸癌に対するNivolumab単剤療法
対象は、1レジメン以上の治療歴があり、dMMR/MSI-Hを有する切除不能進行・再発大腸癌患者であり、Nivolumab単剤コホートでは、Nivolumab 3mg/kg, 2週毎で投与を行った。主要評価項目は担当医評価による奏効割合(ORR)、副次評価項目は盲検独立中央判定による奏効割合(ORR per blinded independent central review: BICR)、探索的評価項目はPFS、OS、バイオマーカー、安全性および忍容性、PRO(EORTC QLQ-C30とEQ-5Dによる評価)であった。
今回の報告では、74例が対象となった。患者背景は、年齢中央値52.5歳、男性59.5%、ECOG PS 0/1が43.2%/56.8%、前治療ライン1/2/3以上が14.9%/29.7%/54.1%、BRAF/KRAS野生型37.8%、BRAF変異型16.2%、KRAS変異型 35.1%、腫瘍細胞のPD-L1発現1%以上/1%未満が28.4%/60.8%、腫瘍関連免疫細胞におけるPD-L1発現 Rare/Intermediate/Numerousが34.8%/30.3%/34.8%で、観察期間中央値は7.4ヵ月であった。
バイオマーカー別においてもNivolumab単剤は有効
各施設で評価されたdMMR/MSI-H患者74例において、ORRは担当医評価で31.1%、BICRで27.0%、12週以上の病勢コントロール率は担当医評価で68.9%、BICRで62.2%であった。抗腫瘍効果が現れるまでの期間(time to response; TTR)中央値は、担当医評価で2.8ヵ月(範囲: 1.2-16.1)、BICRで2.7ヵ月(範囲: 1.2-17.7)あった。また、担当医評価におけるPFS中央値は9.6ヵ月(95% CI: 4.3-NE)、12ヵ月PFS割合は48.4%であり、OS中央値は未到達、12ヵ月OS割合は73.8%だった。
中央判定で評価されたdMMR/MSI-H患者53例において、ORRは担当医評価で35.8%、BICRで32.1%、12週以上の病勢コントロール率は担当医評価で73.6%、BICRで69.8%であった。また、TTR中央値は担当医評価で2.8カ月(範囲:1.2-16.1)、BICRで2.7カ月(範囲:1.2-17.7)あった。
バイオマーカーによる有効性は、腫瘍細胞のPD-L1発現(1%以上 vs. 1%未満)において、担当医評価のORRは28.6% vs. 28.9%、BICRは35.0% vs. 24.4%であった(表)。腫瘍関連免疫細胞におけるPD-L1発現(Rare vs. Intermediate vs. Numerous)において、担当医評価のORRは21.7% vs. 25.0% vs. 39.1%、BICRは18.2% vs. 20.0% vs. 43.5%であった。また、遺伝子変異別において担当医評価のORRは、BRAF/KRAS野生型42.9%、BRAF変異型 25.0%、KRAS変異型 26.9%、BICRはそれぞれ33.3%、16.7%、23.1%であった。なお、リンチ症候群の有無において担当医評価のORRは有34.8%、無30.8%、BICRはそれぞれ34.8%、23.1%であった。
安全性とQOL
全74例における全gradeの治療関連有害事象は68.9%であった。10%以上で報告された全gradeの治療関連有害事象は、疲労23.0%、下痢21.6%、そう痒症13.5%、リパーゼ上昇12.2%、皮疹10.8%であった。また、grade 3/4の治療関連有害事象は20.3%に認められた。有害事象による治療中止は6.8%に認められ、その原因はそれぞれ腹痛、ALT上昇、大腸炎、急性腎障害、口内炎、嘔吐であった(各1例)。
PROでは、EORTC QLQ-C30において臨床的に意味のある改善(10ポイント以上の改善)を認めたのは、QOL、活動性尺度、疲労、食欲不振、痛みであった。EQ-5Dでは、19週以上治療が継続した患者において健常者と同レベルまで改善を認めた。
まとめ
治療歴を有するdMMR/MSI-H切除不能進行・再発大腸癌に対するNivolumab単剤療法は、忍容可能で有望な抗腫瘍効果を示したことから、新たな治療選択肢の1つと考えられる。
(レポート:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 専門員 成田 有季哉)
監修・レポーター
監修
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長
レポーター
川上 武志先生
静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 レジデント
監修
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長
レポーター
成田 有季哉先生
愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 専門員
監修
谷口 浩也先生
愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長
レポーター
山口 敏史先生
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 レジデント