2017年1月19日~21日に米国サンフランシスコにて開催された2017年 消化器癌シンポジウム(2017 Gastrointestinal Cancers Symposium)より、大腸癌や胃癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には“Expert's view”として、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。
大腸癌
BRAF変異型大腸癌に対するCPT-11+Cetuximab±Vemurafenib併用療法の無作為化比較第II相試験(SWOG 1406試験)
Randomized trial of irinotecan and cetuximab with or without ...
Scott Kopetz, et al.
Expert’s view
谷口 浩也先生
愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長
VemurafenibなどのBRAF阻害剤は、BRAF V600変異を有する悪性黒色腫や非小細胞肺癌において、単剤もしくはMEK阻害剤との併用により有効性が証明されている1-3)。しかし、BRAF V600E変異型大腸癌では、ERKからEGFRへのフィードバック機構が働くため、抗腫瘍効果の改善には抗EGFR抗体薬の併用が肝要と考えられている。
今回、pre-clinical dataを元に試験が計画され、見事にそれを裏付ける結果となった。BRAF V600E変異型大腸癌患者の治療改善への光明が見えたと言える。
現在、別の薬剤にはなるが、Cmab+BRAF阻害剤±MEK阻害剤の有効性を検証する国際共同第III相試験が実施されている4)。大腸癌におけるBRAF V600E変異の有無は非常に強い予後不良因子であり、抗EGFR抗体薬の効果予測因子の可能性も指摘されていることから、その遺伝子検査の意義は大きい。BRAF検査実施の体外診断薬承認と保険償還が強く望まれる。
(コメント・監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也)
BRAF V600E変異型大腸癌患者に対する治療戦略
BRAF阻害剤Vemurafenibは、BRAF V600変異型悪性黒色腫には有効であるが1)、BRAF V600E変異型大腸癌にはVemurafenib単剤療法の効果は限定的であった5)。その要因として、大腸癌ではBRAF阻害によるERKからEGFRの再活性化が生じることが示唆され、抗EGFR抗体薬の併用により、抗腫瘍効果を高めると考えられた。基礎研究においては、BRAF V600E変異型大腸癌のヒト由来xenograft mdoelではCPT-11+Cmab療法にVemurafenibを併用することで強力な抗腫瘍効果が得られることが示されている6)。
今回、BRAF V600E変異型大腸癌患者に対するCPT-11+Cmab療法とCPT-11+Cmab+Vemurafinib併用療法を比較する無作為化比較第II相試験が行われた。
CPT-11+CmabへのVemurafinibの上乗せ効果を検討
対象は、BRAF V600E変異を有し、1または2レジメンの全身化学療法歴のある切除不能進行・再発大腸癌患者であり、抗EGFR抗体薬やRAF、MEK阻害剤による治療歴のある患者は除外された。対象患者は、CPT-11(180mg/m², 2週毎)+Cmab(500mg/m², 2週毎)を投与する群(非Vem併用群)とCPT-11+Cmab+Vemurafinib(960mg, 連日内服)を投与する群(Vem併用群)に1:1で割付けられた。なお、非Vem併用群ではPD後にVem併用群へのクロスオーバーが許容された。
主要評価項目はPFS、副次評価項目はOS、奏効率、安全性であり、PFS中央値4.8 vs. 2.4ヵ月(ハザード比0.5)を見込み、両側α=0.05、検出力90%で、適格症例数94例を達成するために必要症例数は105例であった。
CPT-11+CmabへのVemurafinib併用はPFSを有意に改善
106例が登録され、適格症例は99例であった(非Vem併用群50例、Vem併用群49例)。非Vem併用群/Vem併用群の患者背景は、ECOG PS 0が46%/49%、CPT-11投与歴が38%/41%、前治療2レジメンが34%/39%と、両群に差を認めなかった。
主要評価項目であるPFSは、ハザード比0.42(中央値: 非Vem併用群2.0ヵ月 vs. Vem併用群4.4ヵ月, 95% CI: 0.26-0.66, p=0.0002)であり、Vem併用群で有意に良好であった(図)。
奏効率は非Vem併用群4%、Vem併用群16%であり、病勢コントロール率(DCR)はそれぞれ22%、67%であった(p=0.001)。
Grade 3以上の有害事象は、非Vem併用群/Vem併用群でそれぞれ、好中球減少7%/28%、貧血0%/13%、悪心0%/15%などがみられた(表)。なお、非Vem併用群のクロスオーバー割合は48%であった。
まとめ
BRAF V600E変異を有する切除不能進行・再発大腸癌患者に対してCPT-11+Cmab+Vemurafenib療法は、CPT-11+Cmab療法に対してPFSを有意に延長した。
(レポート:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 レジデント 山口 敏史)
Reference
- 1) Chapman PB, et al.: N Engl J Med. 364(26), 2011[PubMed]
- 2) Flaherty KT, et al.: N Engl J Med. 367(18), 2012[PubMed]
- 3) Planchard D, et al.: Lancet Oncol. 17(7): 984-993, 2016[PubMed]
- 4) Study of Encorafenib + Cetuximab Plus or Minus Binimetinib vs. Irinotecan/Cetuximab or Infusional 5-Fluorouracil (5-FU)/Folinic Acid (FA)/Irinotecan (FOLFIRI)/Cetuximab With a Safety Lead-in of Encorafenib + Binimetinib + Cetuximab in Patients With BRAF V600E-mutant Metastatic Colorectal Cancer (BEACON CRC)[ClinicalTrials.gov]
- 5) Kopetz S, et al.: J Clin Oncol. 33(34): 4032-4038, 2015[PubMed]
- 6) Yang H, et al.: Cancer Res. 72(3): 779-789, 2012[PubMed]
監修・レポーター
監修
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長
レポーター
川上 武志先生
静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 レジデント
監修
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長
レポーター
成田 有季哉先生
愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 専門員
監修
谷口 浩也先生
愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長
レポーター
山口 敏史先生
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 レジデント