術前化学放射線療法後の中部下部直腸癌に対する腹腔鏡下手術と開腹手術の長期予後の比較： COREAN試験の7年間の追跡調査
Comparison of long-term survival outcomes between laparoscopic and open surgery for mid or low rectal cancer treated with preoperative chemoradiotherapy: 7-year follow-up of COREAN trial.
Ji Won Park, et al.
監修コメント
谷口 浩也先生
愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長
韓国で行われた術前化学放射線療法を施行された中部または下部直腸癌に対する開腹手術と腹腔鏡下手術を比較した第III相試験の長期追跡報告である。結果、両群において生存率、局所再発率に差を認めなかった。本試験は、既にLancet Oncologyに報告されている通り1)、ypT、 ypNに群間差を認め、再発高リスクの集団が開腹手術群に多く含まれている点が少し解釈を難解にしている。しかしながら、本試験の結果は、本対象集団に対する腹腔鏡下手術の実施を支持する試験となり得る。ただし、本試験は、術者やチームが腹腔鏡下手術の手技に十分に習熟したhigh volume centerで実施されている点を忘れてはならないだろう。
（コメント・監修：愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也）
腹腔鏡下手術の開腹手術に対する非劣性を検討したCOREAN試験
直腸癌に対する腹腔鏡下手術は広く普及しており、韓国のCOREAN試験1)、欧州のCOLOR II試験2)では、直腸癌の術後長期成績における腹腔鏡下手術の開腹手術に対する非劣性が証明された。その一方で、腫瘍学的短期成績をみたACOSOG Z6501試験3)やALaCaRT試験4)においては腹腔鏡下手術の非劣性を証明できなかった。
本研究は、”Comparison of Open versus laparoscopic surgery for mid or low Rectal cancer After Neoadjuvant chemoradiotherapy trial”、COREAN試験1)における7年間の追跡調査を経た後の、直腸癌に対する腹腔鏡下手術の長期的な腫瘍学的安全性についての報告である。
COREAN試験における7年OS、DFS、局所再発率を解析
COREAN試験は2006年4月～2009年8月にかけて行われた無作為化試験であり、術前化学放射線療法を施行された中部または下部直腸癌患者が、腹腔鏡下手術群（170例）と開腹手術群（170例）に1:1で無作為に割り付けられた。本研究では、ITT集団における術後7年後のOSとDFS、局所再発率について、log-rank検定および層別化Cox回帰分析を用いて解析された。
OS、DFS、局所再発率のいずれも有意差を認めず
追跡期間中央値84ヵ月（IQR: 61.5-97.0）において、腹腔鏡下手術群と開腹手術群との間に、OS（7年OS割合: 77.3% vs. 82.3%, p=0.4782）（図1）、DFS（7年DFS割合: 64.3% vs. 71.6%, p=0.2045）（図2）、局所再発率（7年局所再発率: 7.9% vs. 3.3%, p=0.0773）（図3）のいずれも両群間に有意差を認めなかった。
また、ypT、ypN、腫瘍縮小率について調整された層別化Cox回帰分析においても、OS（HR=0.96, 95% CI: 0.58-1.57, p=0.864）、DFS（HR=1.03, 95% CI: 0.70-1.53, p=0.881）、局所再発率（HR=2.28, 95% CI: 0.82-7.16, p=0.137）のいずれも両群間に有意差を認めなかった。
図1
発表者の許可を得て掲載（approved by Ji Won Park）
図2
発表者の許可を得て掲載（approved by Ji Won Park）
図3
発表者の許可を得て掲載（approved by Ji Won Park）
まとめ
COREAN試験における7年間の追跡調査の結果、OS、DFS、局所再発率のいずれも開腹手術群と腹腔鏡下手術群の間に有意差を認めず、術前化学放射線療法を施行された直腸癌に対する腹腔鏡下手術の長期的な腫瘍学的安全性が確認された。
（レポート：九州大学大学院 消化器・総合外科 助教 中島 雄一郎）
References
1) Jeong SY, et al.: Lancet Oncol. 15(7): 767-774, 2014［PubMed］
2) Bonjer HJ, et al.: N Engl J Med. 372(14): 1324-1332, 2015［PubMed］
3) Fleshman J, et al.: JAMA. 314(13): 1346-1355, 2015［PubMed］
4) Stevenson AR, et al.: JAMA. 314(13): 1356-1363, 2015［PubMed］
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監修
谷口 浩也先生
愛知県がんセンター中央病院
薬物療法部 医長
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター
消化器内科 医長
レポーター (50音順)
新井 裕之先生
聖マリアンナ医科大学
臨床腫瘍学 診療助手
川上 尚人先生
近畿大学医学部
内科学腫瘍内科部門 医学部講師
中島 雄一郎先生
九州大学大学院
消化器・総合外科 助教
成田 有季哉先生
愛知県がんセンター中央病院
薬物療法部 医長
宮本 敬大先生
国立がん研究センター中央病院
消化管内科 がん専門修練医
山田 武史先生
筑波大学附属病院
消化器内科 病院講師