dMMR/MSI-Hの切除不能進行・再発大腸癌に対するNivolumab+Ipilimumab併用療法のupdate解析(CheckMate 142試験)
Combination of Nivolumab (NIVO) + Ipilimumab (IPI) in the treatment of patients (pts) with deficient DNA mismatch repair (dMMR) / high microsatellite instability (MSI-H) metastatic colorectal cancer (mCRC): CheckMate 142 study
Thierry André, et al.
監修コメント
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長
ミスマッチ修復遺伝子欠損(dMMR)消化管癌に対するPembrolizumab単剤の有効性が示されたのはちょうど2年前の米国臨床腫瘍学会年次集会である。dMMR大腸癌に関しては62%もの奏効率と持続する効果が示され、その後他癌種においても同様の効果が示されたため、米国FDAは2017年5月、dMMRあるいはマイクロサテライト不安定性(MSI-H)が認められた固形癌に対するPembrolizumabの適応を承認した。腫瘍の発生部位ではなく遺伝子のプロファイルで括られた適応承認は画期的であり、今後他の遺伝子プロファイルへと広がっていく可能性を示している。
今回のCheckMate 142試験では、同じ対象において免疫療法同士の併用療法が試され、奏効率55%、9ヵ月PFS割合89%と、持続する効果が示されている。一方で、NIVO3+IPI1療法 (Nivolumab 3mg/kg+Ipilimumab 1mg/kg, 3週毎4サイクル投与)では、メラノーマや肺癌においてgrade 3以上の有害事象の発生が増えることが報告されている。今回の発表では比較的grade 3以上の有害事象は少ないが、現在行われている他癌種におけるNivolumab+Ipilimumab併用療法では、Nivolumab 3mg/kgを2週毎、Ipilimumab 1mg/kgを6週毎に繰り返す用法が採用されている。いずれにしても、dMMR大腸癌に対しては、免疫チェックポイント阻害剤が効果的であることは再現性をもって報告されており、今後適応承認された場合には、大腸癌初回化学療法症例に対して検査を行うことが必須となる可能性がある。もともと3~5%程度と頻度は少ないが、全例検査となった場合の病理医への負担、コスト、検査の信頼性の担保などが今後の課題として考えられている。
(コメント・監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健)
dMMR/MSI-H大腸癌の特徴
切除不能進行・再発大腸癌患者の約4%はdMMRを有し、MSI-Hであることが報告されている1,2)。dMMR/MSI-H大腸癌は遺伝子変異数が多く、多数の新規腫瘍抗原および腫瘍浸潤リンパ球が出現し、腫瘍細胞では免疫応答回避が亢進しているため、免疫チェックポイント阻害剤への感受性が高いことが知られている3,4)。一方、抗PD-1抗体薬のNivolumab(NIVO)と抗CTLA-4抗体薬のIpilimumab(IPI)の併用療法は、他癌種において有効性・安全性が示されている5-7)。今回、マルチコホート第II相試験のCheckMate 142試験における、dMMR/MSI-H大腸癌に対するNIVO+IPI併用療法コホートのupdate解析の結果が報告された。
CheckMate 142試験のNIVO+IPI併用療法コホート
対象は、1レジメン以上の前治療歴、施設判定でのdMMR/MSI-Hを有する切除不能進行・再発患者である。本コホートでは、NIVO(3mg/kg)+IPI(1mg/kg)を3週毎に4サイクル投与され、その後NIVO(3mg/kg)を2週毎に投与された。
主要評価項目は担当医判定による奏効率、副次評価項目は盲検独立中央判定(BICR)による奏効率、PFS(progression-free survival)、OS(overall survival)、安全性などであった。
対象患者は84例であり、患者背景は年齢中央値(範囲)57歳(21-81)、男性57%、ECOG PS 0/1が37%/63%、リンチ症候群あり/なし/不明が32%/30%/38%、BRAF/KRAS野生型26%、BRAF変異型25%、KRAS変異型36%、腫瘍細胞のPD-L1発現1%以上/1%未満が24%/76%、前治療ライン数0/1/2/3/4以上が1%/20%/37%/27%/14%であった。なお、初回投与からデータカットオフまでの期間中央値(範囲)は8.4ヵ月(6.1-19.2)であった。
dMMR/MSI-H大腸癌に対してNIVO+IPI併用療法は長期の病勢コントロールを維持
データカットオフ時点で51例(61%)が治療継続中であり、治療中止例33例(39%)のうち15例(18%)が病勢進行、11例(13%)が有害事象による中止であった。
CRを2例、PRを44例に認め、奏効率は55%であった。また、12週以上の病勢コントロール率は79%、TTR(time to response)中央値は2.8ヵ月、DOR(duration of response)中央値は未到達であった。なお、waterfall plotでは80%の患者で腫瘍縮小が示され(図1)、spider plotでは奏効の得られた46例中39例(85%)がデータカットオフ時点で治療継続中であり、長期にわたり病勢コントロールが維持されていることが示された(図2)。
図1
発表者の許可を得て掲載(approved by Thierry André)
図2
発表者の許可を得て掲載(approved by Thierry André)
6ヵ月PFS/OS割合は77%/89%、9ヵ月PFS/OS割合は77%/88%であり、PFSとOSはいずれも中央値に未到達であった(図3)。
図3
発表者の許可を得て掲載(approved by Thierry André)
安全性
治療関連有害事象は全gradeで68%、grade 3/4で29%に認められた。全gradeで10%以上に認められた治療関連有害事象の発現頻度は(全grade、grade 3/4)、下痢24%、1%、疲労17%、1%、AST上昇17%、9%、発熱16%、0%、そう痒症16%、2%、ALT上昇14%、8%、悪心14%、0%、甲状腺機能亢進症13%、0%、甲状腺機能低下症13%、0%であった。
まとめ
NIVO+IPI併用療法は、dMMR/MSI-Hの切除不能進行・再発患者に対して持続的な奏効および病勢コントロール、有望な生存データを示した。また、安全性に関しても忍容性は保たれていた。
(レポート:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 診療助手 新井 裕之)
References
1) Venderbosch S, et al.: Clin Cancer Res. 20(20): 5322-5330, 2014[PubMed]
2) Goldstein J, et al.: Ann Oncol. 25(5): 1032-1038, 2014[PubMed]
3) Llosa NJ, et al.: Cancer Discov. 5(1): 43-51, 2015[PubMed]
4) Giannakis M, et al.: Cell Rep. 15(4): 857-865, 2016[PubMed]
5) Wolchok JD, et al.: N Engl J Med. 369(2): 122-133, 2013[PubMed]
6) Postow MA, et al.: N Engl J Med. 372(21): 2006-2017, 2015[PubMed]
7) Antonia SJ, et al.: Lancet Oncol. 17(7): 883-895, 2016[PubMed]
関連リンク
ミスマッチ修復機構欠損を有する腫瘍におけるPembrolizumab療法の第II相試験[学会レポート]
切除不能進行・再発大腸癌に対するNivolumab ± Ipilimumab療法[学会レポート]
監修
谷口 浩也先生
愛知県がんセンター中央病院
薬物療法部 医長
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター
消化器内科 医長
レポーター (50音順)
新井 裕之先生
聖マリアンナ医科大学
臨床腫瘍学 診療助手
川上 尚人先生
近畿大学医学部
内科学腫瘍内科部門 医学部講師
中島 雄一郎先生
九州大学大学院
消化器・総合外科 助教
成田 有季哉先生
愛知県がんセンター中央病院
薬物療法部 医長
宮本 敬大先生
国立がん研究センター中央病院
消化管内科 がん専門修練医
山田 武史先生
筑波大学附属病院
消化器内科 病院講師