治療歴のある進行胃癌に対するnab-Paclitaxel療法(毎週または3週毎投与)とsolvent-based Paclitaxel療法の第III相比較試験(ABSOLUTE試験における治療効果とQOL)
ABSOLUTE, a phase 3 trial of nanoparticle albumin-bound paclitaxel (nab-PTX) versus solvent-based paclitaxel (sb-PTX) in patients with pre-treated advanced gastric cancer (AGC): Efficacy and QOL results
Keisuke Koeda, et al.
監修コメント
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長
ABSOLUTE試験は、solvent-based Paclitaxel(sb-PTX)療法に対するnab-Paclitaxel(nab-PTX)療法(毎週または3週毎投与)の非劣性を検証した第III相臨床試験である。主要評価項目であるOSの中央値は、q3w nab-PTX群10.3ヵ月、q1w nab-PTX群11.1ヵ月、sb-PTX群10.9ヵ月であり、sb-PTX群に対するq3w nab-PTX群の非劣性は認められなかったが、q1w nab-PTX群の非劣性は認められた結果となった。
OSにおけるサブグループ解析では、sb-PTXと比較してq1w nab-PTXは、腹水や腹膜播種を有する症例で有効性が高い可能性が示唆されていた。また、今回の報告では腹水を有する症例では、sb-PTX群と比較してq1w nab-PTX群のQOLが有意に良好であった。そのため、腹水や腹膜播種を有する症例に対してはsb-PTXよりもq1w nab-PTXの方が有用である可能性がある。ただし、q1w nab-PTX群では好中球減少や発熱性好中球減少の頻度が高く、高度腹膜播種症例にはPS不良など全身状態の悪い症例も多いため、安全性には注意が必要である。
以上より、胃癌2nd-lineにおけるq1w nab-PTX療法の効果は期待できるが、ABSOLUTE試験はあくまでsb-PTX療法に対するq1w nab-PTX療法の非劣性を検証した試験であるため、現状、同対象に対して最も推奨される治療レジメンはsb-PTX+Ramucirumabである。
現在、フッ化ピリミジン系製剤を含む初回化学療法に不応となった進行胃癌患者を対象としたnab-PTX+Ramucirumab併用療法(nab-PTX: 100mg/m2), iv, day 1,8,15、Ramucirumab: 8mg/kg, iv, day 1,15、q28days)の第II相試験(JapicCTI-153088)が進行中であり、その結果が期待される。
(コメント・監修:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山﨑 健太郎)
sb-PTX療法に対するnab-PTX療法(毎週または3週毎投与)の非劣性を検証
胃腺癌の2nd-lineにおいて、現在sb-PTXは標準治療の1つとして用いられている。一方、nab-PTXは血清アルブミンにPTXを結合させナノ粒子化した薬剤であり、sb-PTXの溶媒(ポリオキシエチレンヒマシ油および無水エタノール)による有害事象がないことから、効果が期待されている1)。
本試験では、フッ化ピリミジン系製剤を含む化学療法に不応となった胃腺癌患者を対象に、sb-PTX群(PTX: 80mg/m2, iv, day 1,8,15, q28days)、q1w nab-PTX群(nab-PTX: 100mg/m2, iv, day 1,8,15, q28days)、q3w nab-PTX群(nab-PTX: 260mg/m2, iv, q3weeks)に1:1:1で無作為に割り付けられた。また、層別因子として、1st-lineにおけるDocetaxel(DTX)の使用歴、腹膜播種、ECOG PSが用いられた。
主要評価項目は、OS(overall survival)におけるsb-PTX群に対するq1w nab-PTX群とq3w nab-PTX群の非劣性であった。また、副次評価項目は、PFS(progression-free survival)、TTF(time to treatment failure)、奏効率、病勢コントロール率、QOL、安全性であった。OS中央値をq3w nab-PTX群10ヵ月、q1w nab-PTX群10ヵ月、sb-PTX群9.0ヵ月と仮定し、ハザード比の非劣性マージン1.25、検出力80%、登録期間18ヵ月、観察期間12ヵ月にて解析された。なお、本試験は既に論文化されているが2)、本報告では、さらなる解析として、測定可能病変を有する症例における8週時点および最良総合効果の奏効率、QOLに関する追加報告が行われた。
sb-PTX療法に対するq1w nab-PTX療法の非劣性が認められた
2013年3月13日~2015年5月14日の間に741例が登録され、q3w nab-PTX群247例、q1w nab-PTX群246例、sb-PTX群248例に割り付けられた。患者背景はそれぞれ(q3w nab-PTX群/q1w nab-PTX群/sb-PTX群)、年齢中央値66.0歳/67.0歳/65.0歳、男性73.3%/74.2%/72.4%、ECOG PS(0 vs. 1 vs. 2)が68.7 vs. 29.6 vs. 1.6%/70.0 vs. 29.2 vs. 0.8%/69.1 vs. 29.2 vs. 1.6%、腹水(なし vs. 少量 vs. 中等量 vs. 大量)が50.6 vs. 38.3 vs. 7.8 vs. 3.3%/52.9 vs. 32.9 vs. 11.3 vs. 2.9%/57.2 vs. 26.7 vs. 12.3 vs.3.7%、腹膜播種ありが53.9%/54.6%/53.5%、胃切除歴ありが45.7%/54.6%/54.3%、DTX使用歴ありが9.1%/10.0%/9.9%、前治療歴の内訳(術後補助化学療法 vs. 1st-line)が17.7 vs. 82.3%/27.5 vs.72.5%/27.2 vs.72.8%であり、いずれも群間差を認めなかった。
主要評価項目であるOSの中央値は、q3w nab-PTX群10.3ヵ月、q1w nab-PTX群11.1ヵ月、sb-PTX群10.9ヵ月であり、sb-PTX群に対するq3w nab-PTX群の非劣性は認められなかったが(HR=1.06, 97.5% CI: 0.87-1.31, 非劣性p=0.062)、q1w nab-PTX群の非劣性は認められた(HR=0.97, 97.5% CI: 0.76-1.23, 非劣性p=0.0085)(図)。
図
発表者の許可を得て掲載(approved by Keisuke Koeda)
奏効率は、q3w nab-PTX群25%(95% CI: 18.8-33.1)、q1w nab-PTX群33%(95% CI: 25.2-40.8)、sb-PTX群24%(95% CI: 18.0-31.4)であった。なお、測定可能病変を有する症例における8週時点の奏効率と最良総合効果の奏効率は、q3w nab-PTX群で22.1%と27.7%、q1w nab-PTX群で28.2%と34.9%、sb-PTX群で18.0%と25.6%であった。
Grade 3以上の有害事象はそれぞれ(q3w nab-PTX群/q1w nab-PTX群/sb-PTX群)、好中球減少64.8%/41.1%/29.2%、白血球減少31.6%/22.0%/15.6%、食欲低下8.6%/6.2%/3.7%、関節痛2.0%/0%/0%、筋肉痛3.7%/0%/0%、末梢神経障害20.1%/2.5%/2.5%、脱毛0%/0%/0%、発熱性好中球減少症12.3%/2.9%/0.8%、アレルギー反応0%/0%/1.2%であった。
腹水症例におけるnab-PTX療法のQOL
EQ-5Dを用いたQOL評価において、QALY(quality adjusted life years)はsb-PTX群に対してq3w nab-PTX群は有意に低下していたが(p=0.036)、q1w nab-PTX群は有意差を認めなかった(p=0.683)。また、腹水を有する症例におけるQALYはsb-PTX群に対してq1w nab-PTX群は有意に良好であった(p=0.014)。
まとめ
q1w nab-PTX療法はsb-PTX療法に対してOSにおける非劣性が認められ、QOLも保たれており、進行胃癌における2nd-lineとしての有用性が示された。
(レポート:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 成田 有季哉)
References
1) Sasaki Y, et al.: Cancer Sci. 105(7): 812-817, 2014[PubMed]
2) Shitara K, et al.: Lancet Gastroenterol Hepatol. 2(4): 277-287, 2017[PubMed]
監修
谷口 浩也先生
愛知県がんセンター中央病院
薬物療法部 医長
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター
消化器内科 医長
レポーター (50音順)
新井 裕之先生
聖マリアンナ医科大学
臨床腫瘍学 診療助手
川上 尚人先生
近畿大学医学部
内科学腫瘍内科部門 医学部講師
中島 雄一郎先生
九州大学大学院
消化器・総合外科 助教
成田 有季哉先生
愛知県がんセンター中央病院
薬物療法部 医長
宮本 敬大先生
国立がん研究センター中央病院
消化管内科 がん専門修練医
山田 武史先生
筑波大学附属病院
消化器内科 病院講師