RAS野生型切除不能進行・再発大腸癌(mCRC)に対する1st LineのFOLFOX+Panitumumab療法に続く維持療法における、5-FU/LV+Panitumumab療法とPanitumumab療法を比較した無作為化比較試験(VALENTINO試験)
First-line FOLFOX plus panitumumab (pan) followed by 5FU/LV plus pan or single-agent pan as maintenance therapy in patients with RAS wild-type metastatic colorectal cancer (mCRC): The VALENTINO study
Filippo Pietrantonio, et al.
監修コメント
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長
大腸癌に対する1st Lineは分子標的治療薬を含む多剤併用療法であるが、多剤を継続することで蓄積性の毒性が出現し継続困難となる。そのため、投与薬剤を減らし維持治療として継続し、増悪が認められると再び多剤併用とする、いわゆる「stop and go」戦略が用いられている。Oxaliplatinベースの1st Lineにおいて、途中でOxaliplatinを「stopする(止める/抜く)」ことで蓄積性の神経毒性を減らすことができ、かつ治療効果も減弱させないことがOPTIMOX試験で証明された1)。その後、Oxaliplatinだけでなく5-FUもstopし、無治療あるいはBevacizumabのみで有効性が落ちないかがいくつかの試験で検討されたが、これはネガティブであった2-5)。今回は、抗EGFR抗体薬併用化学療法での維持療法を検討するVALENTINO試験が行われた。
すでにデザインの段階でいくつかの問題点が指摘可能である。維持療法時に「抜く」薬剤は患者の日常生活に影響を与える薬剤が妥当と考えられ、この場合はPanitumumabであるが、本試験では比較的毒性の少ない5-FU/ Leucovorin (LV)を抜き、Panitumumabを残していること、非劣性マージン(上限)がハザード比(HR)1.515と、無増悪生存(PFS)期間中央値で3.4ヵ月劣っている可能性を許容するものであることなどである。毒性が強い治療であればそれも許容されるかもしれないが、抜いているのは5-FU/LVであり、多少の支持療法で継続できる程度のものである。
果たして結果は、大甘な非劣性マージンを達成することができなかった上に、有意差をもってPanitumumab単剤での維持療法が劣っていることが証明された。実際の毒性も、想定されたマージンほどの差があるものではなかった。
「通常は行わないPanitumumab単剤での維持療法が、これほどの差をもって有意に劣っていることを証明してくれたことに感謝する」とはディスカッサントの皮肉であるが、登録された患者さんは気の毒である。現在、ドイツAIOによるFOLFOX(5-FU/LV+Oxaliplatin)+Panitumumab 12週投与後の5-FUの維持療法に、Panitumumabをon/offする試験(PanaMa study)が行われており、抗EGFR抗体薬によるメンテナンスの最適化が検討されている。
(コメント・監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健)
RAS野生型切除不能進行・再発大腸癌の抗EGFR抗体薬併用療法における維持療法として、5-FU/LV+Panitumumab療法に対するPanitumumab療法の非劣性を検証
切除不能進行・再発大腸癌に対するBevacizumab療法においては、4ヵ月から6ヵ月の導入後に一部の抗癌剤を抜くことで毒性蓄積の軽減を図るいわゆる維持療法に、いくつかのエビデンスがある。一方、抗EGFR抗体薬を用いた併用化学療法においては、病勢進行(PD)もしくは不耐まで継続されるのが一般的であり、維持療法のエビデンスは乏しい。数少ない試験の1つであるMACRO-2試験(P-II)では、KRAS exon 2野生型切除不能進行・再発大腸癌において、Cetuximab単剤での維持療法の9ヵ月無増悪生存(PFS)期間が、mFOLFOX6+Cetuximab療法群と比較し劣っていなかった6)。このことからも、抗EGFR抗体薬治療において導入療法後にベース治療の強度を漸減することで疾患制御を減弱させず、毒性の負担を軽減し、生活の質を改善できる可能性がみられ、今回の試験が計画された。
対象患者は、前治療歴のない[術後補助化学療法(adjuvant chemotherapy)としてのOxaliplatin療法は休薬から12ヵ月以上期間があいていれば許容された]RAS野生型切除不能進行・再発大腸癌患者で、5-FU/Leucovorin(LV)+Panitumumab療法群(A群)とPanitumumab療法群(B群)に1:1で無作為に割り付けられた。導入療法として、各群、FOLFOX4+Panitumumab療法を最長8サイクル受けた後、PDもしくは許容できない毒性/死亡まで維持療法が継続された。
主要評価項目は、A群に対するB群の10ヵ月PFS率の非劣性の検証であり[ハザード比(HR)=片側90% CIの上限<1.515]、必要登録数は224例(各群112例)と設定された。副次評価項目は、安全性、全奏効率(ORR)、奏効期間(DR)、全生存(OS)率、患者報告アウトカム(PRO)とされた。
維持療法としてのPanitumumab療法は不適切
2015年7月から2017年10月までに229例(A群117例、B群112例)の患者が登録された。患者背景(A群/B群)は、男性は67%/66%、年齢中央値は62.6歳/62.4歳、ECOG PS(performance status)0は72%/72%、術前補助療法(prior adjuvant treatment)歴は14%/17%、切除不能部位1ヵ所のみは53%/58%、BRAF変異は3%/5%、右側原発は16%/20%であった。
追跡期間中央値は13.8ヵ月で、10ヵ月PFS率は、5-FU/LV+Panitumumab療法群(A群)62.8%、Panitumumab療法群(B群)52.8%、PFS期間中央値は、A群13.0ヵ月、B群10.2ヵ月であった(HR=1.55、95% CI: 1.09-2.20、p=0.011)(図1)。
図1 Progression free survival(発表者の許可を得て掲載)
主要評価項目であるA群に対するB群の10ヵ月PFS率の非劣性の検証では、Panitumumab療法(B群)の5-FU/LV+Panitumumab療法群(A群)に対するHRの片側90% CIの上限は1.946であり、設定された上限である<1.515を満たさなかった(図2)。
図2 Primary endpoint(発表者の許可を得て掲載)
ORRは、65.8% vs. 67.0%(以下、A群 vs. B群)、DR中央値は12.6ヵ月 vs. 9.8ヵ月であった。維持療法期間におけるGrade 3以上の有害事象は、発疹22% vs. 14%、口腔粘膜炎6% vs. 1%、手足症候群5% vs. 1%、下痢4% vs. 1%、好中球数減少3% vs. 0%であり、両群に大きな相違はなかった。
まとめ
RAS野生型切除不能進行・再発大腸癌患者において、FOLFOX4+Panitumumab療法導入後のPanitumumab単独による維持療法は、5-FU/LV+Panitumumab療法よりもPFS率において効果が劣り、また毒性軽減についても有用ではなかった。
(レポート:埼玉医科大学国際医療センター 消化器腫瘍科 堀田 洋介)
References
1) Tournigand C, et al.: J Clin Oncol. 24(3): 394-400, 2006[PubMed]
2) Chibaudel B, et al.: J Clin Oncol. 27(34): 5727-5733, 2009[PubMed]
3) Adams RA, et al.: Lancet Oncol. 12(7): 642-653, 2011[PubMed]
4) Díaz-Rubio E, et al.: Oncologist. 17(1): 15-25, 2012[PubMed]
5) Simkens LH, et al.: Lancet. 385(9980): 1843-1852, 2015[PubMed]
6) Garcia AP, et al.: ESMO 2014 (Annals Oncol.) abstr #4990[学会レポート]
関連リンク
・Panitumumab-based Maintenance in Patients With RAS Wild-type, Metastatic Colorectal Cancer (Valentino) [CT.gov]
・Maintenance Therapy With 5-FU/FA Plus Panitumumab vs. 5-FU/FA Alone After Prior Induction and Re-induction After Progress for 1st-line Treatment of Metastatic Colorectal Cancer (PanaMa) [CT.gov]
監修
谷口 浩也先生
愛知県がんセンター中央病院
薬物療法部 医長
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院
消化管内科 医長
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター
消化器内科 医長
上野 誠先生
神奈川県立がんセンター
消化器内科 医長
レポーター (50音順)
伊澤 直樹先生
聖マリアンナ医科大学
臨床腫瘍学
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腫瘍内科
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神奈川県立がんセンター
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