根治切除可能な大型3型および4型胃癌に対する術前補助化学療法(S-1+CDDP療法)の有効性を検証する第III相試験(JCOG0501試験)
Randomized phase III trial of gastrectomy with or without neoadjuvant S-1 plus cisplatin for type 4 or large type 3 gastric cancer: Japan Clinical Oncology Group Study (JCOG0501)
Yoshiaki Iwasaki, et al.
監修コメント
谷口 浩也先生
愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長
大型3型および4型胃癌は切除可能であっても予後不良であることから、手術+術後補助化学療法(adjuvant chemotherapy)に術前補助化学療法(neoadjuvant chemotherapy)を追加することでの治療成績向上が期待されていた。しかし、本第III相試験の結果、S-1+CDDP療法による術前補助化学療法の有効性は証明されなかった。先行研究である単群第II相試験(JCOG0210試験)の治療成績(3年OS 24.5%)と比べると、本試験では、試験治療群だけでなく、手術+術後補助化学療法群の治療成績も極めて良好であった。これは、本邦でのD2郭清+胃切除術、およびS-1による術後補助化学療法が十分に浸透し、以前と比べると予後が改善してきていることを示している。胃癌における術後補助化学療法は、良好なコンプライアンスを保つのに苦労することが知られており、今後も術前補助化学療法の工夫による治療成績向上を目指すという方向性には変わりはない。また、大型3型および4型胃癌の予後が改善してきているのであれば、他の進行胃癌と区別する必要性は乏しくなっていることを示しており、合わせてS-1+Oxaliplatin(SOX)療法やDocetaxel+Cisplatin+S-1(DCS)療法、抗PD-1抗体併用など他の薬剤が検討されるのかもしれない。
(コメント・監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也)
予後が不良な切除可能大型3型および4型胃癌に対するS-1+CDDP療法の有効性を検証
腸型胃癌(intestinal type gastric cancer)の減少に伴い、予後不良なびまん型胃癌(diffuse type gastric cancer)が増加している。大型3型および4型胃癌といったスキルス胃癌は低分化型腺癌(印環細胞癌を含む)を特徴とし、腹膜播種を伴うことが多い。
根治切除可能な大型3型および4型胃癌に対する術前補助化学療法(neoadjuvant chemotherapy)であるS-1+CDDP療法の安全性を評価する先行試験の単群第II相試験(JCOG0210試験)においては、その療法の安全性が確認された1)。
本試験では、切除可能な大型3型および4型胃癌を対象とし、標準治療である手術+術後補助化学療法(adjuvant chemotherapy)に対して、術前補助化学療法であるS-1+CDDP療法+手術+術後補助化学療法が有効かどうかが検証された。
手術+術後補助化学療法 vs. 術前補助化学療法(S-1+CDDP療法)+手術+術後補助化学療法
本試験の対象は切除可能な大型3型および4型の胃腺癌患者で、A群:手術(胃切除)+術後化学療法(1年間S-1投与)群と、B群:術前補助化学療法[(S-1 80-120mg/body、day 1-21、3週投与+1週休薬)+CDDP療法(CDDP 60mg/m2、day 8、4週)を1コースとして合計2コース]+手術(胃切除)+術後化学療法(1年間S-1投与)群に無作為に割り付けられた。層別因子は施設、肉眼型(3型 vs. 4型)、深達度(T1-3 vs. T4)、リンパ節転移(N0 vs. N1 vs. N2)であった。
主要評価項目は3年全生存(OS)、副次評価項目は無増悪生存(PFS)、術前補助化学療法の奏効率(ORR)、治療完遂率(B群のみ)、根治切除率、有害事象とされた。A群の3年生存率を20~30%とし、B群のそれが10%上回るかどうか(HR=0.74)を検出する優越性試験デザインとし、登録期間7.5年、追跡期間4年4ヵ月、片側検定α=5%、検出力80%、必要解析対象数は1群150例、両群計300例とされた。
術前補助化学療法(S-1+CDDP療法)の優越性は示されなかった
2005年10月から2013年7年までに本邦の44施設から登録され、最終的に300例(A群149例、B群151例)が有効性解析対象となった。両群の患者背景には大きな差が認められなかった。
主要評価項目である3年OSはA群62.4%(95% CI: 54.1-69.6)、B群60.9%(95% CI: 52.7-68.2)[ハザード比(HR)=0.92、95% CI: 0.68-1.24、p=0.284]であり、B群[術前補助化学療法(S-1+CDDP療法)+手術+術後補助化学療法]の、A群(手術+術後補助化学療法)に対する優越性は認められなかった(図1)。
図1 Overall survival(n=300)(発表者の許可を得て掲載)
3年PFSはA群、B群ともに47.7%(95% CI: 39.4-55.4)、(HR=0.98、95% CI: 0.74-1.29、p=0.98)であった(図2)。
図2 Progression-free survival(n=300)(発表者の許可を得て掲載)
B群において、術前補助化学療法の病理学的ORRは51.0%(77例/151例、95% CI: 42.7-59.2)であった。根治切除率はA群65.1%(97例/149例、95% CI: 56.9-72.7)、B群73.5%(111例/151例、95% CI: 65.7-80.4)であった。Grade 3/4の術中・術後合併症(CTCAE ver.4.0)はA群17例(11.6%)、B群9例(6.5%)に認められ、手術関連死はA群2例(1.4%)、B群1例(0.7%)であった。
まとめ
切除可能な大型3型および4型胃癌に対して術前補助化学療法であるS-1+CDDP療法は推奨されず、根治切除+術後補助化学療法が標準治療のままである。本試験における両群のOSとRFSは過去の報告に比べ大きく勝っていることから、大型3型および4型胃癌であっても、十分なD2郭清を伴う根治手術+術後補助化学療法を行うことで良好な予後が期待できる。
(レポート:国立がん研究センター中央病院 臨床研究支援部門 佐藤 雄哉)
Reference
1) Iwasaki Y, et al.: J Surg Oncol. 107(7): 741-745, 2013[PubMed]
監修
谷口 浩也先生
愛知県がんセンター中央病院
薬物療法部 医長
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院
消化管内科 医長
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター
消化器内科 医長
上野 誠先生
神奈川県立がんセンター
消化器内科 医長
レポーター (50音順)
伊澤 直樹先生
聖マリアンナ医科大学
臨床腫瘍学
大北 仁裕先生
香川大学医学部
腫瘍内科
小林 智先生
神奈川県立がんセンター
消化器内科
佐藤 雄哉先生
国立がん研究センター中央病院
臨床研究支援部門
高橋 直樹先生
埼玉県立がんセンター
消化器内科
寺島 健志先生
金沢大学
先進予防医学研究センター
古田 光寛先生
静岡がんセンター
消化器内科
堀田 洋介先生
埼玉医科大学国際医療センター
消化器腫瘍科