Stage IIまたはIII(T4を除く)食道癌に対する根治的化学放射線療法+/-救済治療の検証的非無作為化試験(JCOG0909 EC-CRT+Salvage-sP3試験)
A single-arm confirmatory study of definitive chemoradiotherapy including salvage treatment in patients with clinical stage II/III esophageal carcinoma: JCOG0909
Yoshinori Ito, et al.
監修コメント
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長
本邦では、Stage IIまたはIII(T4を除く)食道癌患者に対し、手術を希望されない場合にはJCOG9906試験の結果より60Gyの根治的化学放射線療法[definitive chemoradiation(dCRT)]が選択肢となる。しかし、JOCG9906試験では治療関連死が5.3%に認められ、非悪性胸水、食道炎、心膜炎といった晩期毒性も問題となっていた。このため、本JCOG0909試験は、Stage IIまたはIII(T4を除く)食道癌に対するdCRTでの照射線量を60Gyから50.4Gyと減量することによる晩期毒性や救済治療の合併症の減少、dCRTとサルベージ手術との組み合わせによる全生存(OS)期間の延長を検証することを目的として行われた。JCOG0909試験では、晩期毒性はJCOG9906試験よりも明らかに軽微であり、dCRTによる治療関連死も認められず、認容可能と考えられる。3年全生存(OS)率は74.2%(90% CI: 65.9-80.8)で、期待値として設定された55%より高く、かつ3年食道温存生存(esophagectomy-free survival)率は63.6%(95% CI: 52.9-72.4)と多くの症例で手術を回避できていた。サルベージ手術ではGrade 3/4の術後有害事象を5例(20%)に、術後死亡例を1例(4%)に認めたが、76%でR0手術が可能であり、適応を検討することでサルベージ手術は有効な治療選択になると考えられた。JCOG0909試験の結果から、手術を希望しないStage IIまたはIII(T4を除く)食道癌の患者に対しては、照射線量50.4GyのdCRTが選択肢になると考えられる。
(コメント・監修:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山﨑 健太郎)
本邦におけるStage IIまたはIIIの食道癌に対する根治的放射線化学療法
本邦ではStage IIまたはIII食道癌に対しては、JCOG9907試験1)の結果からFluorouracil(5-FU)、Cisplatin(CDDP)を用いた術前化学療法(preoperative chemotherapy)+手術が標準治療となっているが、患者が手術を希望しない場合にはJCOG9906試験2)の結果より5-FU+CDDPに60Gyの放射線照射を加えた根治的化学放射線療法[definitive chemoradiation(dCRT)]が選択肢となる。術前化学療法+手術の治療成績は5年全生存(OS)率55%であるのに対し、JCOG9906試験のレジメンによるdCRTの治療成績は5年OS率36.8%と劣る結果であり、さらに晩期毒性やサルベージ手術の際の合併症が高頻度にみられたことからStage IIまたはIII食道癌に対するdCRTはオプションという立ち位置であった。
一方INT0123(RTOG94-05)試験3)では、食道癌に対するdCRTの照射線量を比較し(50.4Gy vs. 60Gy)、50.4Gy群が良好な成績であった。このため、JCOG9906試験の対象群に対し照射線量を50.4Gyと減量することによる晩期毒性の減少、救済治療の取り入れによる治療成績の向上や救済治療の安全性を検証するJCOG0909試験が行われた。
Stage IIまたはIIIの食道癌に対する、照射線量50.4Gy、5-FU+CDDP併用dCRT+/-救済治療(内視鏡的治療、外科切除術)の有効性と安全性の検証
JCOG0909試験では、JCOG9906試験と同様に初回治療として手術を希望しなかったclinical Stage IIまたはIII(T4を除く)[UICC: TNM悪性腫瘍の分類(第6版、2002)]、 ECOG PS(performance status) 0/1、年齢20歳から75歳の患者が対象となった。
dCRTの内容は、化学療法はINT0123(RTOG94-05)試験のレジメンに準じ、5-FU(1,000mg/m2、day 1-4,29-32)+CDDP(75mg/m2、day 1,29)が投与され、総照射線量は50.4Gy、予防的リンパ節照射は41.4Gyが選択された。dCRTにより完全奏効(CR)もしくはgood部分奏効(PR)を得られた場合、後治療として5-FU+CDDP療法が1、2コース行われた。救済治療は、dCRTで不完全奏効/安定[incomplete response(IR)/stable disease(SD)]もしくは病勢進行(PD)であった場合や、後治療の5-FU+CDDP療法を行ってもCRが得られない場合に行われ、内視鏡治療もしくは手術が行われた。救済治療が行えない場合にはprotocol-offとなった(図1)。
図1 Study design(発表者の許可を得て掲載)
主要評価項目を3年OS率とし、副次評価項目は、無増悪生存(PFS)率、完全奏効(CR)率、有害事象、救済治療に関連する有害事象、食道温存生存(esophagectomy-free survival)率とした。片側α=5%、検出力は80%とし、3年OS率の期待値55%、閾値42%で計画され、目標登録数は95例として実施された。
3年OS率は74.2%と良好な結果であり、晩期毒性も許容できる結果であった
2010年4月から2014年8月までに96例が登録された。2例は適格基準を満たしていなかったため94例が解析対象となった。患者背景は、男性/女性=84例/10例、年齢中央値63歳(範囲48-75歳)、cStage IIA/IIB/III=22例/38例/34例で、60例がプロトコールを完遂した(図2)。
図2 Patients flow chart(発表者の許可を得て掲載)
主要評価項目である3年OS率は74.2%(90% CI: 65.9-80.8)であり、試験前に設定された3年生存率の閾値を上回る結果であった(図3)。副次評価項目である3年PFS率は57%(95% CI: 46.3-66.3)であった(図3)。
図3 Overall survival(94例)とProgression-free survival(94例)(発表者の許可を得て掲載)
CR率は、全体(94例)58.5%(95% CI: 47.9-68.6)、T1(28例)78.6%(95% CI: 59.1-91.7)、T2(21例)71.4%(95% CI: 47.8-88.7)、T3(45例)40%(95% CI: 25.7-55.7)に認められた。3年食道温存生存率は63.6%(95% CI: 52.9-72.4)であった。
救済治療は30例に実施され、内視鏡治療は5例(遺残2例、再発3例)に行われた。サルベージ手術を実施した25例中(遺残13例、再発12例)、R0切除は19例(76%)で可能であった。内視鏡治療では有害事象は認められなかったが、サルベージ手術ではGrade 3/4の有害事象が5例(20%)に認められ、内訳は、吻合部縫合不全、肺炎、食道出血、穿孔、腹膜炎が各1例であった。また死亡例が1例(4%)認められ、気管肺動脈瘻が原因であった。
Grade 3の晩期毒性は9例(9.6%)に認められ、内訳は、食道炎、呼吸困難、非悪性胸水、各3例(3.2%)、狭窄、肺炎、各2例(2.2%)、肺感染症、瘻孔、各1例(1.1%)であった。Grade 4の晩期毒性や晩期毒性による死亡例はなかった。
まとめ
食道癌Stage IIまたはIII(T4を除く)における照射線量50.4GyのdCRTと救済治療を組み合わせた治療戦略は、手術を希望しない患者に対しては新たな標準治療となり得る結果であった。
(レポート:静岡がんセンター 消化器内科 古田 光寛)
References
1) Ando N, et al.: Ann Surg Oncol. 19(1): 68-74, 2012[PubMed]
2) Kato K, et al.: Int J Radiat Oncol Biol Phys. 81(3): 684–690, 2011[PubMed]
3) Minsky BD, et al.: J Clin Oncol. 20(5): 1167-1174, 2002[PubMed]
関連リンク
・臨床病期II/III(T4を除く)食道癌に対する根治的化学放射線療法+/-救済治療の検証的非ランダム化試験(JCOG0909、EC-CRT+Salvage-sP3)[UMIN-CTR][jcog.jp]
・JCOG9907[jcog.jp][jcog.jp]
・JCOG9906[jcog.jp]
監修
谷口 浩也先生
愛知県がんセンター中央病院
薬物療法部 医長
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院
消化管内科 医長
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター
消化器内科 医長
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消化器内科 医長
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