切除可能および切除可能境界膵癌に対する術前化学放射線療法と即時切除を比較した無作為化多施設共同第III相試験
Preoperative radiochemotherapy versus immediate surgery for resectable and borderline resectable pancreatic cancer (PREOPANC): a randomized, controlled, multicenter phase III trial of the Dutch pancreatic cancer group
Geertjan Van Tienhoven, et al.
監修コメント
上野 誠先生
神奈川県立がんセンター
消化器内科 医長
切除可能膵癌の標準治療は、切除+術後補助化学療法(adjuvant chemotherapy)である。近年、術前治療の有用性が国内外ともに注目され、本邦においても、切除可能膵癌での術前化学療法の第III相試験が行われている。また主要動脈浸潤、広範囲門脈浸潤を有する切除可能境界膵癌(ボーダーライン膵癌と称することが多い)という概念も注目され、本邦では、術前治療を必要と考える場合が多い。
今回、オランダから、切除可能および切除可能境界膵癌に対する術前化学放射線療法[preoperative radiochemotherapy(術前CRT)]の第III相試験が報告された。切除可能境界の定義は、本邦で考えられている内容とほぼ同様であった。十分なイベントがない段階での報告であり、全生存(OS)期間における有意差は認められていないが、両群のOS曲線が1年付近から明確に解離しており、術前CRT群で良好であった。おそらくR0切除が術前CRT群で6割以上認められたことに関係していると考えられた。術前CRT群では約4割が非切除例となっており、術前CRT期間に予後不良例を排除し、R0切除を目指す意義が示されたと考えられる。一方で、今回の対象において約5割が切除可能境界例であり、予後は厳しい。術前CRTが有効かどうか判断するには切除可能例と切除可能境界例を区別して判断するべきであるが、今回の報告ではそれに関するサブグループ解析は示されていない。示されたOS期間は、切除可能境界例が含まれたことを考慮しても切除群で13.7ヵ月と短く、手術の質、S-1術後補助療法の有用性などを含め、本邦での外挿には慎重な判断を要する。本邦の第III相試験あるいは、海外でのFOLFIRINOXなどを用いた他の試験の結果もふまえて、最終的に術前治療の意義づけを判断したい。
(コメント・監修:神奈川県立がんセンター 消化器内科 医長 上野 誠)
切除可能または切除可能境界膵癌に対する術前化学放射線療法(術前CRT)が注目されている
切除可能または切除可能境界膵癌に対する標準治療は、切除+術後補助化学療法(adjuvant chemotherapy)である。一方で、近年、術前補助療法(neoadjuvant treatment)における術前補助化学放射線療法(neoadjuvant chemoradiation treatment)の有用性が系統的レビューで示されている1,2)。そのため、切除可能または切除可能境界の膵癌に対し、Gemcitabineを用いた術前化学放射線療法[preoperative radiochemotherapy(術前CRT)]の有用性を検討する非盲検無作為化比較第III相試験がオランダで行われた。
即時切除群とGemcitabineを用いた術前CRT+切除群を比較した第III相試験
本試験の対象は、切除可能または切除可能境界の膵癌患者であり、腫瘍が主要動脈(上腸間膜動脈、腹腔動脈、固有肝動脈)に接しておらず、かつ、上腸間膜静脈への接触が≦90°であるものを切除可能、いずれかの主要動脈への接触が≦90°または上腸間膜静脈への接触が90°~270°で閉塞はきたしていないものを切除可能境界、とそれぞれ定義した。切除可能性(切除可能/切除可能境界)と施設が層別因子とされ、ただちに切除手術を行い術後補助化学療法としてGemcitabineを6サイクル投与する即時切除群と、術前CRT群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。術前CRT群は、Gemcitabine(3サイクル)+投与2サイクル目に放射線療法(1回2.4Gyを15回、計36Gy)の併用後に切除手術を行い、術後補助化学療法としてGemcitabineが4サイクル投与された。Gemcitabineは、いずれも28日間を1サイクルとして1,000mg/m2をday 1,8,15に投与後1週間休薬とし、術前CRT群で放射線療法を併用しない期間は、21日間を1サイクルとして1,000mg/m2をday 1,8に投与後、1週間休薬とされた(図1)。
図1 Trial design(発表者の許可を得て掲載)
主要評価項目は、全生存(OS)期間(ITT集団)であった。OS期間中央値(MST)を即時切除群11ヵ月、術前CRT群17ヵ月と想定し、登録期間36ヵ月で244例の組み入れと、観察期間12ヵ月で176イベントが必要とされた。
即時切除群と比較して、術前CRT群のOS期間に良好な傾向がみられた
最終的に、即時切除群に127例、術前CRT群に119例が組み入れられた。即時切除群と術前CRT群のWHO基準PS(performance status)0/1が94%と92%、腫瘍部位は膵頭部が88%と87%、切除可能境界が46%と53%であった。
切除率は、即時切除群が72%(91/127例)、術前CRT群が60%(72/119例)で、即時切除群で高い傾向がみられたが、R0切除率は、即時切除群が31%(28/91例)、術前CRT群が63%(45/72例)であり、術前CRT群で有意に高かった。重篤な有害事象発現率は、即時切除群が39%(49/127例)、術前CRT群が46%(55/119例)と、ほぼ同等であった。
主要評価項目は149イベントが発生した時点で解析され、OS期間のMSTは、即時切除群13.7ヵ月、術前CRT群17.1ヵ月、ハザード比(HR)=0.74(p=0.074)で、術前CRT群が良好であったものの統計学的有意差は認めなかった(図2)。
図2 Overall survival(ITT)(発表者の許可を得て掲載)
無病生存(DFS)期間の中央値は、即時切除群7.9ヵ月、術前CRT群9.9ヵ月、HR=0.71(p=0.023)であり、術前CRT群が良好であった。OS期間のR因子に関するサブグループ解析ではMSTがR1切除群16.8ヵ月、R0切除群42.2ヵ月であった。
まとめ
今回示されたOS期間に関する結果は、想定されたイベントに達する前に解析されたpreliminaryなものであるが、切除可能および切除可能境界の膵癌に対する術前CRTの有効性が示唆された。
(レポート:金沢大学先進予防医学研究センター 寺島 健志)
References
1)Jang JY, et al.: Ann Surg. Feb 16, 2018 [Epub ahead of print][PubMed]
2)Versteijne E, et al.: Br J Surg. 105(8): 946-958, 2018[PubMed]
監修
谷口 浩也先生
愛知県がんセンター中央病院
薬物療法部 医長
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院
消化管内科 医長
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター
消化器内科 医長
上野 誠先生
神奈川県立がんセンター
消化器内科 医長
レポーター (50音順)
伊澤 直樹先生
聖マリアンナ医科大学
臨床腫瘍学
大北 仁裕先生
香川大学医学部
腫瘍内科
小林 智先生
神奈川県立がんセンター
消化器内科
佐藤 雄哉先生
国立がん研究センター中央病院
臨床研究支援部門
高橋 直樹先生
埼玉県立がんセンター
消化器内科
寺島 健志先生
金沢大学
先進予防医学研究センター
古田 光寛先生
静岡がんセンター
消化器内科
堀田 洋介先生
埼玉医科大学国際医療センター
消化器腫瘍科