高齢または強力な治療が適応とならない進行食道癌・胃癌に対する至適治療を検討した第III相試験(GO2試験)
Optimizing chemotherapy for frail and elderly patients with advanced gastroesophageal cancer: The GO2 phase III trial
Peter S Hall, et al.
監修コメント
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長
高齢者、PS(performance status)不良例、合併症を有する症例など強力な治療が適応とならない患者に対して化学療法を実施する場合、日常臨床では医師の裁量のもと、単剤療法や標準治療を減量で行っている。しかし、これらの治療に対するエビデンスは少ない。
本邦では、SOX[S-1+Oxaliplatin]療法とCS[Cisplatin(CDDP)+S-1]療法を比較した無作為化第III相試験(G-SOX試験)において70歳以上の高齢者と70歳未満に分けてSOX療法とCS療法の有効性・安全性が比較検討され、70歳以上の患者でもSOX療法はCS療法に対し非劣性が示された。一方で、70歳以上の群では有害事象に伴う減量が必要であった症例が70歳未満と比較して多かったことも報告されている1)。
英国では先行試験として、高齢または強力な治療が適応とならない進行食道癌・胃癌患者に対するEOX(Epirubicin+Oxaliplatin+Capecitabine)療法、OX(Oxaliplatin+Capecitabine)療法、X療法(Capecitabine単剤)のfeasibilityを比較する無作為化第II相試験(321GO試験)が行われ、3剤併用療法や単剤療法と比較し、2剤併用療法であるOX療法が有効であることが報告されている2)。
本試験は、この結果をもとにOX療法の投与量について検証した。結果、強力な治療が適応とならない患者に対しては100%用量でOX療法を実施する意義は見出せず、80%、もしくは60%用量でも十分であるとの結果が得られた。本試験の結果は同対象に対して同治療を導入する際に日々悩んで診療している我々に対して重要な知見を与えてくれたが、同対象(強力な治療が適応とならない患者)を適切に選別するといった根源的な疑問を解決するためには追加解析の結果を待ちたい。また、本結果はあくまでも同対象に対するEOX療法、OX療法、X療法の比較において有用とされたOX療法における検討であり、今後さらに抗腫瘍効果が高くand/or有害事象が忍容可能な治療が開発された際には、本結果をそのまま流用することはできないことには注意するべきである。
(静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山﨑 健太郎)
高齢または強力な治療が適応とならない進行食道癌・胃癌患者に対するOX療法(Oxaliplatin+Capecitabine)の検討
標準治療は65歳未満の強力な化学療法に耐えられる患者を対象として開発されているが、進行食道癌・胃癌は診断時の年齢中央値が75歳を超えている。英国では、進行食道癌・胃癌に対しEOX[Epirubicin+Oxaliplatin+Capecitabine]療法が標準治療となっている。本試験の先行試験として、高齢または強力な治療が適応でない進行性食道癌・胃癌患者に対するEOX療法、OX(Oxaliplatin+Capecitabine)療法、X療法(Capecitabine単剤)のfeasibilityを比較する無作為化第II相試験(321GO試験)が行われており、OX療法が好ましいことが報告されている2)。
本試験はOX療法の至適投与量や効果予測因子について検討した、多施設前向き無作為化非劣性第III相試験である。
無増悪生存期間(PFS)を主要評価項目とし、総合治療効用(overall treatment utility: OTU)などを評価
本試験では、減量せずにEOX療法はできないものの、減量すれば投与が可能な進行食道癌・胃癌患者を対象とした。対象患者は3つの用量レベルA:B:Cに、1:1:1で無作為に割り付けられた。レベルA群(A群)はOxaliplatin 130mg/m2を3週毎、Capecitabine 625mg/m2を1日2回連日内服、レベルB群(B群)はA群の80%の投与量、レベルC群(C群)はA群の60%の投与量とした。
統計解析は3つのステップに分けられた。ステップ1では減量群のA群への非劣性を評価し、主要評価項目は無増悪生存期間(progression free survival: PFS)、副次評価項目は全生存期間(overall survival: OS)、非劣性マージンは1.34と設定した。ステップ2では減量群における9週後の総合治療効用(画像、臨床症状、患者満足度、忍容性、EORTC QLQ-C30を用いたQOLなどを総合的に評価[overall treatment utility: OTU])を検証、ステップ3では効果予測因子による至適投与量を検討した(表1)。
表1 Overall Treatment Utility (OTU) scored after 9 weeks(発表者の許可を得て掲載)
減量OX療法は高齢または強力な治療が適応でない進行性食道癌・胃癌患者に対して有用である
2014年から2017年までの間に英国内61の施設で514人の患者が登録された。年齢の中央値は76歳、PS2以上の患者が31%であった。最終的に、A群に170例、B群に171例、C群に173例が割り付けられた。
ステップ1の解析では、主要評価項目であるPFSはA群と比較し、B群はハザード比(HR)=1.09[95%信頼区間(CI):0.89-1.32]、C群はHR=1.10(95% CI: 0.9-1.33)と両群とも非劣性が示された(図1)。OS中央値はA群7.5ヵ月、B群6.7ヵ月、C群7.6ヵ月であった(図2)。
ステップ2の解析では、9週後のOTUはA群と比較し、C群で「good」が多く「poor」が少なかった[オッズ比(OR)=1.24、95% CI: 0.84-1.84]。さらにQOLの評価において、A群では変化がなかったが、B群、C群では治療開始前と比較し、治療開始9週目で改善していることが示された(図3)。毒性は減量群(B群、C群)で低い傾向がみられ、治療期間も減量群で治療サイクル数がより多い傾向が認められた。
ステップ3では、因子(年齢、PS、frailty)別に9週後のOTU変化を評価したが、明らかな統計学的有意差は認めなかった。同様にPFSおよびOSについても因子別に検討したが、関連は認めなかった。
図1 Results: step 1 – non-inferiority is confirmed(発表者の許可を得て掲載)
図2 Results: step 1 – non-inferiority(発表者の許可を得て掲載)
図3 Results step 2: the patient experience(発表者の許可を得て掲載)
まとめ
減量OX療法は、高齢または強力な治療が適応とならない進行食道癌・胃癌患者に対して、A群と比較しPFSにおいて非劣性が示された。さらにサブグループ解析では、A群が明らかに有効である患者群は見出されなかった。有害事象の観点からも、減量OX療法は高齢または強力な治療が適応とならない進行食道癌・胃癌患者に対し有効であると考えられる。現在、さらに個別化された至適用量を決定するための検討が行われており、結果が待たれる。
(レポート:国立がん研究センター東病院 消化管内科 三島 沙織)
References
1) Bando H, et al.: Gastric Cancer. 19(3): 919-926, 2016[PubMed]
2) Hall PS, et al.: Br J Cancer. 116(4): 472-478, 2017[PubMed]
関連サイト
・GO2試験[Cancer Research UK]
・321GO試験[Cancer Research UK]
監修
谷口 浩也先生
国立がん研究センター東病院
消化管内科 医長
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院
消化管内科 医長
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター
消化器内科 医長
寺島 健志先生
金沢大学先進予防医学研究センター
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