切除可能な胃印環細胞癌(sig)に対する術後補助化学療法と周術期化学療法:多施設共同無作為化第III相試験(PRODIGE 19)
Adjuvant chemotherapy versus perioperative chemotherapy (CTx) for resectable gastric signet ring cell (SRC) gastric cancer: A multicenter randomized Phase II study (PRODIGE 19) FFCD1103 - ADCI002. NCT01717924
Clarisse Eveno, et al.
監修コメント
谷口 浩也先生
国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長
効果が期待できない集団に対し術前化学療法を行うことは、効果が認められない場合に根治切除率を低下させてしまう可能性がある。そのため、化学療法の有効性が乏しいと考えられる胃印環細胞癌(signet ring cell carcinoma: sig)では、欧州の標準治療である術前+術後化学療法(perioperative chemotherapy)よりも手術先行+術後補助化学療法(adjuvant chemotherapy)のほうが良いのではないか、との仮説から本試験が行われている。
結果、本試験では、両群ともに既報の治療成績よりも良好であった、と結論づけられている。しかしながら、術前化学療法群のほうがdown stagingが得られており、かつ有意差はないものの生存曲線も全体に良好である。よって、本試験結果から、手術先行の効果を期待して第III相試験を実施するのは無理があるだろう。昨年にはFLOT4試験が報告され、本試験で行われたECF/ECX療法[Epirubicin+Cisplatin(CDDP)+Fluorouracil(5-FU)またはCapecitabine]と比べてより強力な治療レジメンも登場していることを考慮すれば、欧米でのperioperative chemotherapyの流れは変わらないだろう。本邦では、組織型にかかわらず手術+adjuvant chemotherapyが標準であり、2018年のASCOでは大型3型および4型胃癌に対する術前SP療法[S-1+Cisplatin(CDDP)療法]の有効性を検証する第III相試験(JCOG0501試験)1)でnegativeの結果が報告されている。術前治療が有効な集団の絞り込みと、より強力な治療レジメン開発が今後の課題である。
(コメント・監修:国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長 谷口 浩也)
切除可能な胃印鑑細胞癌(sig)に対する治療戦略を探る
欧米では胃印環細胞癌(signet ring cell carcinoma: sig)の発生が増加している。sigは一般に化学療法に抵抗性で、欧米の標準治療である術前治療の利点が明確ではない可能性がある。本試験の目的は、upfront surgery+術後補助化学療法(adjuvant chemotherapy)が、周術期化学療法(perioperative chemotherapy)と比較して同程度の有効性を示すかどうかを明らかにすることであった。
化学療法はいずれも6サイクル、主要評価項目は2年生存割合(OS2)
Stage IB-IIIの胃sig症例が、Surg First群(upfront surgery+術後補助化学療法)とCTx First群[術前化学療法(preoperative chemotherapy)+手術+術後化学療法(postoperative chemotherapy)]に無作為に割り付けられた。化学療法はいずれも6サイクル(CTx First群は術前3サイクル、術後3サイクル)のEpirubicin+Cisplatin(CDDP)+Fluorouracil(5-FU)またはCapecitabineが投与された(ECF/ECX療法)(図1)。腫瘍Stage、占居部位、performance status(PS)、施設を層別因子として、1:1に割り付けられた。主要評価項目は2年生存割合(OS2)[target(H1):OS2>26%]とした。
図1 Methods(発表者の許可を得て掲載)
手術先行、化学療法先行ともに成績は良好
2012年11月から2016年9月までの間に、27施設から83症例が登録された。年齢中央値は61歳(範囲:32~80歳)、男性が59%、ECOG PS 0-1が99%であった。
CTx First群40例vs. Surg First群43例(ITT集団)において、切除率は33例(83%)vs. 39例(91%)、術後合併症(Clavien-Dindo分類III-IV)割合は24.2% vs. 23.1%、R0切除率は84.8% vs. 76.9%であった。そのうち完全切除が行われたのは(per-protocol集団)、31例(94%)vs. 34例(87%)で、R0切除率は87.1% vs. 82.4%、化学療法完遂率は71.0% vs. 52.9%、pTNMのT3-4は58.1% vs. 85.3%、pN≧1は54.8% vs. 70.6%であった。
観察期間中央値は43ヵ月で、ITT集団においてOS2は60% vs. 53.5%、生存期間中央値は39ヵ月vs. 28ヵ月[ハザード比(HR)=0.71、95%信頼区間(CI):0.40-2.64]であり、有意差を認めなかった(図2)。
図2 Overall Survival (ITT)(発表者の許可を得て掲載)
まとめ
本試験は主要評価項目(OS2>26%)を達成した。Surg First群、CTx First群ともにOS2>50%を達成しており、第III相試験で評価を検討すべきである。
(レポート:北海道大学病院 消化器内科 川本 泰之)
Reference
1) Terashima M, et al.: Gastric Cancer. March 2, 2019 [Epub ahead of print][PubMed][学会レポート]
関連サイト
・ADCI002(NCT01717924)[ClinicalTrials.gov]
・FLOT4試験[学会レポート]
・JCOG0501試験[UMIN-CTR]
監修
谷口 浩也先生
国立がん研究センター東病院
消化管内科 医長
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院
消化管内科 医長
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター
消化器内科 医長
寺島 健志先生
金沢大学先進予防医学研究センター
特任准教授
レポーター (50音順)
井上 博登先生
静岡がんセンター
消化器内科
大隅 寛木先生
がん研有明病院
消化器化学療法科
緒方 貴次先生
神戸市立医療センター中央市民病院
腫瘍内科
尾阪 将人先生
がん研有明病院
肝・胆・膵内科
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北海道大学病院
消化器内科
林 秀幸先生
慶應義塾大学病院
腫瘍センター
深堀 理先生
久留米大学病院
がん集学治療センター
三島 沙織先生
国立がん研究センター東病院
消化管内科