切除可能食道癌に対する食道機能温存を目的とした導入DCF療法によるchemoselectionの第II相試験(CROC試験)
A phase II study of chemoselection with docetaxel, cisplatin, and 5-fluorouracil as a strategy for organ preservation in patients with resectable esophageal cancer (CROC trial)
Chikatoshi Katada, et al.
監修コメント
切除可能食道扁平上皮癌の治療選択は、『食道癌診療ガイドライン』2017年版によると、術前化学療法後の手術と、根治的化学放射線療法(dCRT)がある。前者はJCOG9907試験の結果、5年生存割合55%と報告され、同時期に行われたdCRTの臨床試験であるJCOG9906試験の5年生存割合36.8%に比較して、良好であったことから、dCRTは手術拒否患者に対するオプションとされる。一方で、食道温存可能なdCRTのニーズも残されており、切除可能食道扁平上皮癌に、まずdCRTを行い、完全奏効(CR)が得られた患者は経過観察、遺残あるいは再発した場合には速やかに救済手術あるいは救済内視鏡治療を行う戦略を用いたJCOG0909試験も実施され、5年生存割合64.5%、5年食道温存生存割合54.9%と良好な成績が報告されている。dCRTで食道温存しつつ根治可能な集団が半数程度存在することが示されたと同時に、遺残しても救済治療で治癒を目指せることが示された。しかし、救済手術は合併症も多いため、可能であれば、前もって放射線で治癒が望める集団を選択できればよいと考えられてきた。バイオマーカー解析等が行われてきたが、実現に至っていない。
CROC試験は、まずDCF療法を行うことで、dCRTの効果が期待できる患者をセレクションする方法であり、化学療法の効果により治療選択を行うため、chemoselectionの名前が用いられている。抗がん剤治療も放射線治療も、がん細胞のDNAにダメージを与えることで治療効果を発揮するため、理にかなった選択方法と考えられる。登録された90例中約半数が著効に至り、dCRTを行った90%にCRが得られている。同じ対象に最初からdCRTを行った場合のCR割合は50~60%であることを考えると、患者選択がうまくいっていることが示唆される。また、DCFが著効する患者の割合があまりにも少ないと意味がないが、約半数の患者さんに食道を温存したまま治癒の可能性がでてくるということの意義は大きいと考えられる。
報告では、著効してdCRTを受けた集団のほうが、著効せずに手術を行った集団に比べて予後が良好とされているが、これは当然の結果であり、DCFが著効した集団は、手術を行ってもdCRTを行っても治癒が望める集団で、DCFが著効しなかった集団は、dCRTでは治癒が望めず、手術を行うことでなんとか治癒が望める集団と考えられる。ただ、DCFが著効した集団も、手術を行うほうがより良好な予後が期待できる可能性もあるため、最終的にはDCFが著効した集団を無作為化して、手術を行う群に対するdCRT群の非劣性を証明する必要がある。
薬物療法も進歩しており、例えば、導入DCFに免疫チェックポイント阻害剤を併用することで、著効する集団がさらに増えれば、この戦略の恩恵を受ける集団も増える可能性はある。術前治療+手術の治療戦略は、現在行われているJCOG1109試験の結果により、次の標準的術前治療が決定されるが、その次のステップとして、手術を行わなくてもよい集団を見極めてdCRTを行うchemoselectionを、治療選択の一つとして考えてもよいと感じられる結果であった。
(国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科 科長 加藤 健)
切除可能な局所進行食道扁平上皮癌に対する、臓器温存を目指した新たな治療戦略
本邦における切除可能な局所進行食道扁平上皮癌に対する標準治療は、術前化学療法(CF療法)と食道切除術であるが、術前3剤併用療法(DCF療法)の開発も進められ1,2)、現在JCOG1109試験において検証が行われている。
特にDCF療法は約17~19%に病理学的完全奏効を認めるなど局所コントロールも良好であり1,2)、局所進行頭頸部癌で時に行われる導入3剤併用療法(TPF療法)後の根治的化学放射線療法(dCRT)といった臓器温存の治療戦略が食道癌においても有用な可能性はある。しかし、現時点でその有効性や安全性は明らかでない。
導入DCF療法著効例にdCRTを、それ以外には手術を行うchemoselection戦略
本試験のデザインは、導入DCF療法の治療反応性によりdCRTまたは手術を行うchemoselection戦略の有効性を検討する、本邦の多施設共同第II相試験である。
本試験の対象は臨床病期IB-III(UICC 7th)の切除可能な食道扁平上皮癌である。治療スケジュールは、導入DCF療法(Docetaxel:75mg/m2、Cisplatin:75mg/m2、5-FU:750mg/m2 day 1-5、3週毎、計3コース)を行ったのちに「著効(remarkable response:cT1N0M0相当までダウンステージング)」、「部分奏効(limited partial response:著効または非奏効以外)」、「非奏効(poor response:増悪または縮小を認めない)」に分類し、「著効」例にはdCRT(5-FU:1,000mg/m2 day 1-4、Cisplatin:75mg/m2 day 1、4週毎、計2コース、放射線療法:50.4Gy/28回)を、「部分奏効」と「非奏効」例には根治手術を実施した(図1)。
主要評価項目は、導入化学療法「著効」例における、1年無増悪生存割合と設定した。必要な症例数は、「著効」しdCRTが行われた群で閾値1年無増悪生存割合を65%、期待1年無増悪生存割合を90%と仮定し、設定した。
図1 CROC trial: Study schema(発表者の許可を得て掲載)
導入DCF療法「著効」例のdCRTは良好な成績
本試験には92例が登録され、導入化学療法を受けた適格症例は90例であった。適格症例の背景は、年齢中央値(範囲):67.5歳(38~75)歳、ECOG PS 0/1:43例(47.8%)/47例(52.2%)、胸部上部/中部/下部:13例(14.4%)/41例(45.6%)/36例(40.0%)、T因子(T1/T2/T3):2例(2.2%)/16例(17.8%)/72例(80.0%)、N因子(N0/N1/N2/N3):47例(52.2%)/28例(31.1%)/12例(13.3%)/3例(3.3%)、臨床病期IB/II/III:9例(10.0%)/44例(48.9%)/37例(41.1%)であった。
導入DCF療法後に腫瘍評価が可能であった89例のうち、「著効」が得られた症例は52例(58.4%)、「部分奏効」は37例(41.6%)、「非奏効」は0例(0%)であった。「著効」が得られた52例のうち、49例にdCRTが行われ、CRが44例(89.8%)であった。残り3例は腎機能低下や本人拒否、腸管回転異常によりdCRTが行えず、根治手術が行われた(図2)。
観察期間中央値は33ヵ月(範囲1~85)で、主要評価項目である「著効」例における1年無増悪生存割合は89.8%(95% CI: 77.2-95.6%)であった。また、全体の1年生存割合は96.6%(95% CI: 89.7-98.9%)、3年生存割合は74.1%(95% CI: 62.2-82.8%)であり、1年臓器温存割合は56.8%(95% CI: 45.8-66.4%)、3年臓器温存割合は45.3%(95% CI: 34.4-55.6%)であった。「著効」例でdCRTを受けた集団の1年/3年生存割合は100%/83.7%、「部分奏効」例で手術を受けた群の1年/3年生存割合は93.1%/62.8%であった(図3)。
図2 CROC trial: Patient’s flow(発表者の許可を得て掲載)
図3 CROC trial: Survival(発表者の許可を得て掲載)
まとめ
切除可能な局所進行食道扁平上皮癌に対する3コースの導入DCF療法の著効例にdCRTを行う戦略は有効な治療法である。
(レポート:茨城県立中央病院 腫瘍内科 菅谷 明徳)
References
1) Hara H, et al.: Cancer Sci. 104(11): 1455-1460, 2013[PubMed]
2) Tanaka Y, et al.: Cancer Chemother Pharmacol. 77(6): 1143-1152, 2016[PubMed]
関連サイト
・JCOG9907試験[総括報告書]
・JCOG9906試験[総括報告書]
・JCOG0909試験[総括報告書]
・JCOG1109(NExT)試験[実施計画書]
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科 科長