2024年5月31日~6月4日に米国シカゴとオンラインのハイブリッドで開催される、米国臨床腫瘍学会年次集会(2024 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®)より、大腸癌、食道癌、膵癌などの消化器癌の注目演題のレポートをお届けします。臨床研究の第一線で活躍するドクターにより執筆、監修されたレポートを楽しみにしてください。

演題レポート

Colorectal Cancer

Oral Abstract #3500
大腸癌

切除不能肝転移を有する大腸癌に対する化学療法と肝移植の併用と化学療法単独を比較した多施設共同前向きランダム化試験(TransMet試験)

Liver Transplantation and Chemotherapy versus Chemotherapy alone in patients with definitively unresectable colorectal liver metastases: results from a prospective, multicentre, randomized trial (TransMet)

René Adam, et al.

監修コメント

谷口 浩也先生

愛知県がんセンター 薬物療法部 医長

 切除不能大腸癌肝限局転移例は、全身薬物療法が標準治療であり、切除可能になった場合に治癒を目指すconversion surgeryが行われる。しかし、CAIRO-5試験によれば、実際に肝切除へ移行できたのはわずか9%であり1)、大半の患者は緩和的薬物療法を続ける。一方で、かつては絶対的禁忌とされた肝転移に対する肝移植は、ノルウェーで施行された21例のpilot study(SECA-1試験)で5年生存率60%と良好な結果が2013年に報告され2)、欧米では複数の前向き試験が進行中である。
 本試験は、切除不能大腸癌肝限局転移例に対する化学療法単独と化学療法+肝移植を直接比較する世界初のランダム化試験である。私自身は内科医であり、肝移植に携わった経験はないが、実地診療への影響が非常に大きいため、慎重にコメントしたい。
 肝移植あり/なしのランダム化自体が画期的であり、主要評価項目である全生存期間も肝移植群が大きく優れていた。症例数は少ないが、統計学的には検証的試験(第III相試験)に位置づけられ、標準治療を置き換えるインパクトがある。厳格な適格基準、外部エキスパートパネルによる患者選定、国家機関との連携による移植待機時間の短縮など、工夫されていた。結果、per protocol解析での5年OS率は73%に達し、一般的な肝移植適応症と遜色のない成績が示された。本試験結果を受けて、今後は肝移植自体の有効性を問うランダム化比較試験としての追試は不要となった。しかし、肝移植後に72%の患者が再発(多くが肺などの肝外転移)しており、より適切な患者選択基準の確立や、移植後の免疫抑制剤投与下での補助化学療法の是非などは今後の検討課題である。
 本試験のインパクトは大きく、多くの患者が肝移植を希望するだろう。日本でも切除不能大腸癌肝転移に対する生体肝移植が先進医療を活用した臨床試験として実施されており(jRCT1050230053)、本試験の適格基準や患者背景を参考にして患者に説明していきたい。しかし、日本では臓器提供数が格段に少なく(100万人あたりの臓器提供数は本邦1人以下、移植先進国のスペインや米国は45人前後)、移植提供施設も限られ、生体肝移植が主流である。現状では、安易に肝移植を選択できる環境にないのが現実である。一方で、肝移植は、究極の肝局所療法と言えるが、肝切除、熱凝固療法、放射線療法、動注療法など、他の局所療法を駆使して、移植と同程度の治療成績が得られれば、肝移植が不要になる未来も考えられる。

(愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也)

切除不能肝転移を有する大腸癌は予後不良であり、新しい治療戦略が望まれている

 切除不能大腸癌肝転移(unresectable colorectal liver metastases: uCLM)は、化学療法奏効後に外科的切除(conversion surgery)に移行できる割合は低く3)、標準治療である全身化学療法の有効性は改善しているものの、依然として長期予後は不良である1,4)。近年、適切な症例選択と化学療法の有効性の向上により、肝移植も有望な結果を示している2)。本試験は、切除不能肝転移を有する大腸癌患者に対する化学療法と肝移植の併用と化学療法単独の有効性を比較した初めてのランダム化試験である。

初診時に切除不能肝限局転移を有する大腸癌に対する化学療法と肝移植の併用 vs. 化学療法単独のランダム化比較試験

 TransMet試験は、フランスを中心に行われた国際多施設共同、オープンラベルのランダム化比較試験である(図1)。主な適格基準は、エキスパートパネルによる中央判定で切除不能な肝転移を有する大腸癌と判断されていること、肝外転移がないこと、年齢18~65歳、ECOG PS 0-1、原発巣に対する標準的切除が施行されていること、直近の化学療法でRECISTに基づくSDまたはPRが3ヵ月以上継続しており治療ラインが3以下であること、BRAF変異型でないこと、等であった。候補症例は各施設のキャンサーボードで選定されたのちに、独立したエキスパートパネルにより肝転移の切除不能性と試験適格性が検証された。適格と判断された症例は、化学療法+肝移植(LT+C群)と化学療法単独(C群)とにランダムに1:1に割り付けられた。肝移植は最終の化学療法から2ヵ月以内に施行されるように優先順位づけされた。
 主要評価項目は5年全生存(OS)率であった。副次評価項目は3年OS率、3、5年無増悪生存(PFS)率(LT+C群では再発を増悪と定義)および3、5年再発率であった。5年OS率における40%の差(LT+C群50%、C群10%)を両側有意水準0.05、検出力90%で検出するために、必要イベント数は50例と設定された。

図1 TransMet Trial: Study Design(発表者の許可を得て掲載)

厳格な適格基準を満たした集団において検証された

 2016年2月から2021年7月までの間に157例に対する適格性が検証され、63例(40%)が不適格と判定され、計94例が登録された。切除不能肝転移の診断時での患者背景は、年齢、RAS遺伝子型、原発巣の占居部位は両群間に偏りはなく、肝転移個数の中央値は各群20個、最大直径はLT+C群55.0mm、C群50.0mmであった(表1)。ランダム化の時点では、LT+C群とC群の化学療法のサイクル中央値21サイクル vs. 17サイクル、治療ライン≦2は83% vs. 85%、原発巣切除からランダム化までの期間中央値は16ヵ月 vs. 13.5ヵ月であった。LT+C群におけるランダム化から肝移植までの中央値は51日であった(表2)。LT+C群のうち、9例は肝移植の待機期間中に病勢進行を認めたため肝移植は施行されず、36例でプロトコール治療が施行された。C群では、9例で予定していなかった肝切除(7例)あるいは肝移植(2例)が行われたため、38例でプロトコール治療が施行された。

表1 TransMet Trial: Patients Demographics at Diagnosis(発表者の許可を得て掲載)

表2 TransMet Trial: Patients Demographics at Randomisation(発表者の許可を得て掲載)

化学療法と肝移植の併用は、化学療法単独と比較し有意に5年OS率を改善した

 主要評価項目である5年OS率は、フォローアップ期間中央値59ヵ月で、ITT解析ではLT+C群57%、C群13%であり、LT+C群で有意に良好であった(HR=0.37、95%信頼区間[CI]0.21-0.65、p=0.0003)(図2)。Per protocol解析における5年OS率はLT+C群73%、C群9%であった(HR=0.16、95% CI: 0.07-0.33、p<0.0001)(図3)。Per protocol解析におけるLT+C群、C群の3年PFS率と5年PFS率は、それぞれ33% vs. 4%、20% vs. 0%であり、LT+C群で有意に良好であった(HR=0.34、95% CI: 0.20-0.57、p<0.0001)。
 プロトコール治療を受けたLT+C群36例のうち、26例(72%)において再発(肺14例、肝臓1例、リンパ節3例、その他5例、複数臓器3例)を認めたが、12例(46%)で手術またはアブレーションが行われた。一方、C群38例のうち37例では病勢増悪を認め、化学療法の変更を要した。これらの結果、フォローアップ期間中央値50ヵ月で、LT+C群15例(42%)、C群1例(3%)がdisease freeとなった(図4)

図2 TransMet Trial: Primary Endpoint 5-Yr OS (ITT)(発表者の許可を得て掲載)

図3 TransMet Trial: Primary Endpoint 5-Yr OS (Per Protocol)(発表者の許可を得て掲載)

図4 TransMet Trial: Recurrence (LT+C) or Progression (C)(発表者の許可を得て掲載)

結論

 化学療法と肝移植の併用は化学療法単独と比較して、切除不能の肝限局転移を有する大腸癌患者のOSおよびPFSを有意に延長した。これらは厳格な患者選択および臓器配分の優先順位づけによって得られた結果ではあるものの、切除不能肝限局転移を有する大腸癌患者に対する肝移植と化学療法の併用は、治癒を目指すことのできる新たな治療選択肢となる可能性が示唆された。

(レポート:愛知県がんセンター 薬物療法部 榊田 智喜)

References

1) Bond MJG, et al.: Lancet Oncol. 24(7): 757-771, 2023 [PubMed
2) Hagness M, et al.: Ann Surg. 257(5): 800-806, 2013 [PubMed
3) Adam R, et al.: Ann Surg. 240(4): 644-657, 2004 [PubMed
4) Heinemann V, et al.: Lancet Oncol. 15(10): 1065-1075, 2014 [PubMed

関連サイト

・TransMet試験[ClinicalTrials.gov
・切除不能大腸癌肝転移に対する生体肝移植[jRCT