2024年5月31日~6月4日に米国シカゴとオンラインのハイブリッドで開催される、米国臨床腫瘍学会年次集会(2024 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®)より、大腸癌、食道癌、膵癌などの消化器癌の注目演題のレポートをお届けします。臨床研究の第一線で活躍するドクターにより執筆、監修されたレポートを楽しみにしてください。

演題レポート

Colorectal Cancer

Oral Abstract #3503
大腸癌

高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)/ミスマッチ修復機構欠損(dMMR)の切除不能進行再発大腸癌(mCRC)に対するNivolumab+Ipilimumab併用療法と化学療法の比較:CheckMate 8HW試験より有効性の追加解析の報告

Nivolumab plus ipilimumab vs chemotherapy as first-line treatment for microsatellite instability-high/mismatch repair-deficient metastatic colorectal cancer: expanded efficacy analysis from CheckMate 8HW

Heinz-Josef Lenz, et al.

監修コメント

砂川 優先生

聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授

 MSI-High切除不能進行再発大腸癌に対するNivo+Ipi併用療法は、化学療法と比較して、ファーストライン治療薬として無増悪生存期間を有意に改善することが示されている。本演題は、この第III相CheckMate 8HW試験の効果に関する追加報告であった。
 前回の報告と同様、PFSの中央値はNivo+Ipi併用療法群では未達(95% CI: 38.4-NE)であり、化学療法群に対して有意であることが示された。また、あらかじめ指定されたすべてのサブグループにおいて一貫したPFSベネフィットを認めた。
 今回の発表では2次治療PDまでのPFS2の解析結果が報告され、PFS2もNivo+Ipi群が統計学的に有意に良好であることが示された。化学療法群では2次治療以降で67%の症例に免疫療法が行われていた。しかし、1次治療で免疫療法を導入した群のほうが、2次治療にPDとなるまでの期間が有意に長かったことを示している。
 興味深いのは、Nivo+Ipi群では21%が治療継続中で31%が2年間の免疫療法を完了しており、PDとなっているのは19%であることである。初回治療から免疫療法を導入することによりresponderの治療継続期間が非常に長く、2次治療から免疫療法を導入するより治療効果が得られる可能性を示しているかもしれない。この長いPFSの効果がOSまで反映されるのかどうか、本試験のOS解析結果が期待される。
 MSI-High切除不能進行再発大腸癌に対して、免疫療法が最良の1次治療であることを強固とする解析結果であるが、単剤療法よりも併用療法が良いかどうかは今後の解析結果を待つ必要があるであろう。

(聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 砂川 優)

MSI-High/dMMRのmCRCに対する1次治療としてのNivolumab+Ipilimumab併用療法

 mCRCの1次治療は、原発巣部位やRAS/BRAF変異の有無、ミスマッチ修復機構の欠損(dMMR)の有無など、分子生物学的特徴を考慮し決定される。腫瘍細胞にdMMRがあると、自然突然変異を認識および修復することができず変異負荷がかかり、反復配列である高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)につながる。本邦のmCRC症例ではMSI-High/dMMR症例は約4%と報告されており1)、KEYNOTE-177試験2)の結果からMSI-High/dMMR mCRCの1次治療として免疫チェックポイント阻害薬(ICI)であるPembrolizumabが承認されている。また、第II相CheckMate 142試験では1レジメン以上の治療歴があるMSI-High/dMMR mCRCに対するNivolumab+Ipilimumab(NIVO+IPI)の有効性が示されており3)、1次治療コホートにおいてもOS、PFSは良好な結果であった4)。この結果からNCCNガイドラインでは、前治療歴のないMSI-High/dMMR mCRC患者に対する治療選択肢の1つとしてNIVO+IPIが推奨されている。
 KEYNOTE-177試験では2年フォローアップ時点で無増悪生存しているのは症例の48%であり、また、肝転移症例においてICI単剤ではPFS延長効果が乏しいとする報告5)もありアンメットニーズが存在する。
 CheckMate 8HW試験は、前治療歴のないMSI-High/dMMRのmCRC患者に対するNIVO+IPI、NIVO単剤、化学療法の有効性を比較した無作為化第III相試験である。本試験の結果は2024年の米国臨床腫瘍学会消化器癌シンポジウムで報告され、1次治療のNIVO+IPIは化学療法と比較し優れたPFSを示した6)
 今回の米国臨床腫瘍学会では、mCRCの1次治療におけるNIVO+IPIと化学療法との事前に規定された中間解析から得られた有効性の追加解析が報告された。

化学療法に対するNIVO+IPIの優越性を検証、主要評価項目はPFS

 主な適格基準は、1)組織学的に診断された切除不能もしくは遠隔転移を有する大腸癌、2)施設判定でMSI-HighまたはdMMRと確認されている、3)ECOG PS 0-1であった。層別化因子は前治療数(0 vs. 1 vs. ≧2)、原発腫瘍の位置(右側 vs. 左側)であった。
 患者はNIVO+IPI群(NIVO 240mg+IPI 1mg/kg、3週ごと4回、以降NIVO 480mg 4週ごと)、NIVO群(NIVO 240mg 2週ごと6回、以降NIVO 480mg 4週ごと)、化学療法群(±分子標的薬を含む)の3群に2:2:1で割り付けられた。治療はPDもしくは許容できない毒性が認められるまで続けられた。NIVO+IPI群、NIVO群では最長2年間継続するように規定された。化学療法群のうち、盲検化中央判定(BICR)によりPDと判定された場合はNIVO+IPIへのクロスオーバーが許可された。
 主要評価項目は、中央判定でMSI-High/dMMRと確認された症例におけるPFS(NIVO+IPI vs. 化学療法、1次治療での比較)、PFS(NIVO+IPI vs. NIVO、全治療ラインでの比較)であった。重要な探索的評価項目はPFS2であり、無作為化から2次治療後のPD、3次治療の開始もしくは死亡までの時間と定義された。その他の評価項目はOS、安全性、中央判定によるORR、PROsであった。

PFS/PFS2のハザード比はそれぞれ0.21/0.27、NIVO+IPIの忍容性は良好であった

 1次治療としてNIVO+IPI群(202例)と化学療法群(101例)に割り付けられた303例のうち、中央でMSI-High/dMMRが確認されたのはNIVO+IPI群では171例、化学療法群では84例であった。追跡期間中央値は31.5ヵ月(範囲6.1~48.4)であった。
 主要評価項目であるPFSはNIVO+IPI群で有意に良好であった(中央値、NIVO+IPI vs. 化学療法:未達 vs. 5.9ヵ月、HR=0.21、97.91%信頼区間[CI]0.13-0.35、p<0.0001)(図1)
 サブグループ解析では全てのサブグループでHR=0.40以下であった。2次治療はNIVO+IPI群で20例(12%)、化学療法群で57例(68%)が受けた。化学療法群では、56例(67%)が免疫療法を受け、うち39例(46%)は試験中にNIVO+IPIに移行、17例(20%)は試験以外の免疫療法を受けた。NIVO+IPI群の5例はNIVO+IPI後に手術を受け、3例がpCRとなった。
 PFS2はNIVO+IPI群で有意に良好であった(中央値、NIVO+IPI vs. 化学療法:未達 vs. 29.9ヵ月、HR=0.27、95% CI: 0.17-0.44)(図2)
 治療関連有害事象(TRAEs)は、NIVO+IPI群のほうが化学療法群と比較して少なかった(全てのTRAEs:160[80%]vs. 83[94%]、grade 3/4 TRAEs:46[23%]vs. 42[48%])。NIVO+IPI群で頻発した有害事象は掻痒感(23%)、下痢(21%)、甲状腺機能低下症(16%)などであった。NIVO+IPI群では2例(1%)の治療関連死が報告された(それぞれ心筋炎、肺臓炎)。免疫関連有害事象(IMAEs)は甲状腺機能低下症(17%)、副腎皮質機能低下症(11%)、甲状腺機能亢進症(9%)、下痢/腸炎(7%)などであった(表1)。Grade 3/4 IMAEsの頻度は5%以下であった。安全性プロファイルは既報と変わらなかった。

図1 Progression-free survival(発表者の許可を得て掲載)

図2 PFS2: progression-free survival after subsequent therapy(発表者の許可を得て掲載)

表1 Immune-mediated adverse events(発表者の許可を得て掲載)

まとめ

 MSI-High/dMMRのmCRCに対する1次治療としてのNIVO+IPIの有効性は、PFS2の改善によって示されるように、2次治療後でも維持されることが分かった。NIVO+IPIの安全性に関する新たな懸念は確認されなかった。これらの結果からNIVO+IPIは、MSI-High/dMMRのmCRC患者に対する標準的な1次治療の選択肢となる。

(レポート:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 小川 和起)

References

1) Akagi K, et al.: Cancer Sci. 112(3): 1105-1113, 2021 [PubMed
2) André T, et al.: N Engl J Med. 383(23): 2207-2218, 2020 [PubMed
3) Overman MJ, et al.: J Clin Oncol. 36(8): 773-779, 2018 [PubMed
4) Lenz H-J, et al.: J Clin Oncol. 40(2): 161-170, 2022 [PubMed
5) Saberzadeh-Ardestani B, et al.: Eur J Cancer. 196: 113433, 2024 [PubMed
6) André T, et al.: J Clin Oncol. 42(3_suppl): LBA768-LBA768, 2024

関連サイト

・CheckMate 8HW試験[ClinicalTrials.gov