遠隔転移を有する高齢者膵癌に対する減量GnP療法と減量Nal-IRI+FF療法を比較したランダム化第II相試験(GIANT試験)
A randomized phase II study of gemcitabine and nab-paclitaxel compared with 5-fluorouracil, leucovorin, and liposomal irinotecan in older patients with treatment-naïve metastatic pancreatic cancer (GIANT): ECOG-ACRIN EA2186
Efrat Dotan, et al.
監修コメント
本試験は、年齢、合併症、認知機能などで定義されたvulnerableの遠隔転移を有する膵癌患者を対象とした臨床試験であり、開発治験では除外されるような患者を対象とし、Gemcitabine+Nab-Paclitaxelの隔週投与と減量したNal-IRI+FF療法が比較された。結果は残念ながら中間解析において無効中止が判断され、得られた結果もGemcitabine+Nab-Paclitaxelの隔週投与およびNal-IRI+FF療法のPFS中央値がそれぞれ3.0ヵ月、2.4ヵ月、OS中央値がそれぞれ4.7ヵ月、4.4ヵ月と不良であった。
さまざまな癌種と同様、膵癌においても高齢者に対する至適な治療法の開発は喫緊の課題である。膵癌においては、殺細胞性抗癌剤の多剤併用療法が標準治療であること、腫瘍の進行により悪液質をはじめとする全身状態の悪化が顕著になることから、実臨床では、有効性よりも安全性やQOL維持に重きを置くことが多い印象がある。本邦では高齢者機能評価に基づき、良好な患者ではGemcitabine+Nab-Paclitaxel療法を選択することの妥当性が報告されている1)が、治療の有無や治療レジメンを比較した前向き試験は実施されていない。単に暦年齢のみならず本試験で示されたような各種指標を用いて状態を把握し、想定される予後を踏まえた上で適切な治療戦略を提示できることを目指した治療開発が必要であると考えられる。
(金沢大学 先進予防医学研究センター 特任准教授 寺島 健志)
高齢者膵癌の増加と高齢者に対する至適レジメンの探索
膵癌は最も予後不良な癌種であるが明確なリスク因子は同定されておらず、高齢化に伴って死亡数や罹患数は増加している。米国での診断時年齢中央値は70歳であり、本邦でも75歳以上の高齢者が約半数を占めている。遠隔転移を伴う膵癌の標準治療は全身化学療法であり、若年者の場合、国際的にGemcitabine+Nab-Paclitaxel療法またはFOLFIRINOX療法、NALIRIFOX療法が標準治療であるが、その根拠となる臨床試験に登録された患者の年齢中央値は60~65歳であり、高齢者におけるエビデンスは不十分といえる。
日常臨床では高齢者の場合、減量した併用化学療法やGemcitabine単剤などの単剤療法も用いられることが多く、他の要素も加味してbest supportive careの方針が採られることも多い。また、高齢者機能評価を用いて暦年齢だけでなく各種ドメインの評価を行うことで治療を層別化する試みも行われてきた。米国ではこの場合に1投1休の修正Gemcitabine+Nab-Paclitaxel療法や減量したNal-IRI+FF療法が選択されることもあり、遠隔転移を有する高齢者膵癌に対してこれらを比較するランダム化第II相試験が実施された。
70歳以上のvulnerableまたは80歳以上を対象としたランダム化比較第II相試験
米国のECOG-ACRINによって行われた多施設共同ランダム化第II相試験(EA2186試験)であり、対象は治療歴のない遠隔転移を有する膵癌であった。高齢者の定義としては、70歳以上で高齢者機能評価(GA)によりいずれかのドメインに軽度から中等度の異常を有する(vulnerable)とされ、80歳以上はGAの結果にかかわらず登録された(表1)。
1:1のランダム化により、修正Gemcitabine+Nab-Paclitaxel療法(Gemcitabine 1,000mg/m2、Nab-Paclitaxel 125mg/m2、1投1休)または減量Nal-IRI+FF療法(5-FU 2,400mg/m2、Leucovorin 400mg/m2、Nal-IRI 50mg/m2、2週ごと)のいずれかの治療を受けた。主要評価項目はOSであり、副次評価項目にはPFS、ORRなどが含まれた。また腫瘍評価は8週間ごとに行われており、同時にGAとQOLについても繰り返し評価された。
80%の検出力、α=0.1でHR=0.72のOSの差を検出するデザインであったが、中間解析の結果無効中止となり結果が公表された。
表1 EA2186 (GIANT) - Screening Geriatric Assessment(発表者の許可を得て掲載)
両群に差はなくいずれも短いOS、特にPS不良や各種ドメイン異常では早期死亡も多くみられた
全176例(各群88例)の年齢中央値は77歳(範囲70~90歳)であり、75歳以上が6割超を占めていた。GAのドメイン異常としては認知が最多で約45%であった。また、治療開始できなかった症例も約13%、不適格症例も約16%に認められた。
主要評価項目であるOS中央値は修正Gemcitabine+Nab-Paclitaxel療法4.7ヵ月、減量Nal-IRI+FF療法4.4ヵ月(HR=1.12、p=0.72)で両群に有意差は認めなかった(図1)。PFS中央値も修正Gemcitabine+Nab-Paclitaxel療法3.0ヵ月、減量Nal-IRI+FF療法2.4ヵ月(HR=1.10、p=0.58)で同様に差はなかった。
OSについては当初の想定よりかなり短い結果であったが、4週以上治療継続可能だった症例(72%)に限定するとその中央値は8.0ヵ月(95% CI: 5.9-10.0)であり、治療開始不能例や早期中止例に早期死亡が多かったことが示唆された。また同様にOS中央値は、PS 0では6.9ヵ月(95% CI: 4.0-10.6)、PS 1では5.3ヵ月(同4.3-8.6)に対し、PS 2では1.4ヵ月(同1.1-3.1)であった(図2)。また、各種ドメイン(栄養、FACT-G、FACT-Hep 4、身体機能)の異常などは有意な予後不良と相関しており高齢者機能評価によって予後の層別化が可能なことが示唆された。
Grade 3以上の有害事象は修正Gemcitabine+Nab-Paclitaxel療法群51%、減量Nal-IRI+FF療法群58%であった。All gradeでは修正Gemcitabine+Nab-Paclitaxel療法に末梢神経障害(31%)が、減量Nal-IRI+FF療法群に下痢(60%)が多く認められた。Grade 5の有害事象は各群それぞれ2例であった。
図1 Primary end point OS - ITT(発表者の許可を得て掲載)
図2 Primary end point OS - by stratification factors: Performance Status(発表者の許可を得て掲載)
結論
遠隔転移を有する高齢者膵癌に対して修正Gemcitabine+Nab-Paclitaxel療法と減量Nal-IRI+FF療法の有効性および安全性は同等であった。発表者らは毒性プロファイルによって個別にレジメンの選択をすべきと述べていた。一方でいずれのOS中央値も全体集団では期待されたより悪く、早期中止や早期死亡が多く含まれたことが原因と考えられた。特にPS不良例やGAによる特定のドメイン異常でのOSはさらに悪くなっており、ディスカッションの中でもあったようにこれらの因子を用いて、むしろ治療すべきではない(best supportive careのほうが望ましい)集団を同定していく方向性も重要と考えられた。
(レポート:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 大場 彬博)
Reference
1) Kobayashi S, et al.: Oncologist. 27(10): e774-e782, 2022 [PubMed]
関連サイト
・GIANT試験[ClinicalTrials.gov]
寺島 健志先生
金沢大学 先進予防医学研究センター 特任准教授