2024年5月31日~6月4日に米国シカゴとオンラインのハイブリッドで開催される、米国臨床腫瘍学会年次集会(2024 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®)より、大腸癌、食道癌、膵癌などの消化器癌の注目演題のレポートをお届けします。臨床研究の第一線で活躍するドクターにより執筆、監修されたレポートを楽しみにしてください。

演題レポート

Non-Colorectal Cancer

Poster Abstract #4068
食道癌

食道癌におけるNivolumab併用根治的化学放射線療法が奏効に及ぼす影響:免疫活動性の内在的サブタイプがバイオマーカーとなりうる可能性:NOBEL試験

Effect of nivolumab combined with definitive chemoradiotherapy on response rate for esophageal cancer: An immune-active intrinsic subtype could be its biomarker - The NOBEL trial

Manabu Muto, et al.

監修コメント

加藤 健先生

国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長

 Nivolumabは、食道扁平上皮癌の2次治療および1次治療にて有効性を示し、すでに標準治療として日常診療で用いられている1)。一方、局所進行食道癌に対して、根治的化学放射線療法は根治が期待できる治療オプションとして日常的に用いられているが、完全奏効(CR)割合は40~60%とさらなる向上が期待されている。JCOG0909試験2)では、遺残再発症例に対して手術や、内視鏡治療など救済治療を組み合わせることで、高い生存成績が示されたが、臓器温存かつ長期生存という目標を達成するためには、化学放射線療法本体の効果増強が求められていた。食道癌に対して有効性を示したNivolumabは、効果増強が期待できる併用療法の一つであり、他癌種でも行われているように、食道癌においても、根治的化学放射線療法+Nivolumabが、医師主導治験において検討された。有効性とともに、Nivolumabの免疫関連有害事象として知られている薬剤性肺障害が、放射線により増強されないか?という安全面についても注目された。NOBEL試験では、以前より行われていた、治療前の組織中のmRNAプロファイルによる効果予測が附随研究として行われた。治療法は、JCOG0909で用いられた5-FU+CDDP+放射線療法(1,000mg/m2 day 1-4、75mg/m2 day 1、50.4Gy)に、Nivolumabを2週毎に200mg/bodyを併用するやり方で行われた。
 結果は、切除可能群におけるCR割合84%、切除不能群でも56.3%と高い有効性を示し、懸念された毒性も許容範囲内であった。有効性が期待できるサブグループを同定できるスコアを見出したことも興味深い。ただし、この結果は比較的少数例の単群試験の結果であり、この結果のみで、保険承認が得られたり、標準治療が変更になったりすることは考えにくい。現在、局所進行食道癌(腺癌、扁平上皮癌含む)に対して、化学放射線療法にPembrolizumabをオンオフする試験であるKEYNOTE-975試験、および、局所進行食道扁平上皮癌に対して化学放射線療法にDurvalumabをオンオフするKUNLUN試験、RATIONALE試験など、いくつかの第III相試験が実施中であり、根治的化学放射線療法に免疫チェックポイント阻害剤を加えることでアウトカムの改善につながるかどうかについては、これらの試験の結果を待つ必要がある。

(国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健)

食道癌における免疫チェックポイント阻害薬併用化学放射線療法:有効性と安全性およびバイオマーカー

 食道扁平上皮癌において免疫チェックポイント阻害薬と化学放射線療法の併用による有効性とバイオマーカーは明らかではない。そこで食道扁平上皮癌における免疫チェックポイント阻害薬併用の根治的化学放射線療法に関して、その有効性・安全性・バイオマーカーを検討した。

遠隔転移を有さない食道扁平上皮癌患者を対象とした単群第II相試験

 本試験は本邦の5施設で行われた前向き単群第II相試験であり、未治療かつ遠隔転移を有さない(切除不能症例を含む)食道扁平上皮癌患者が対象であった。放射線線量は50.4Gy/28Frが原発巣に、41.4Gy/23Frが領域リンパ節に当てられ、化学療法としてCF療法(Cisplatin 75mg/m2、day 1:5-FU 1,000mg/m2、day 1-4)を4コースに対してNivolumab(240mg/m2、day 1、2週間ごと)療法を1年間併用した。主要評価項目は安全性であり、grade 4以上の非血液毒性の発生率10%以下、grade 3以上の肺臓炎の発生率15%以下とした。副次評価項目として全生存割合、無増悪生存割合、完全奏効割合、無食道切除生存期間とした。治療前の生検検体で遺伝子発現を評価し、免疫関連の51遺伝子を評価し、80点以上を高スコア、80点未満を低スコアと定義した。60例を予定していたが症例集積が遅く、途中で終了となった。

Nivolumab併用化学放射線療法は安全で、かつ有効性がある可能性

 最終的に42例が登録されたが1例で奏効のデータが欠落しており、有効性に関して41例、安全性には42例が解析された。年齢中央値は65歳、胸部上部9例、中部20例、下部が12例であった。臨床的stageはTNM第8版に準じており、stage Iが6例、IIが6例、IIIが13例、IVAが7例、IVBが9例であった、切除可能例が25例、切除不能が16例であった。Grade 3の肺臓炎は全体で2例(4.8%)であり、いずれも切除可能例でみられた(表1)。また、grade 3以上の非血液毒性は食道炎が8例(19%)、食欲不振が5例(11.9%)で認められたがgrade 4以上の毒性は認められなかった。奏効割合は切除可能群で完全奏効21例(84%)、部分奏効4例(16%)で、切除不能群では完全奏効9例(56.3%)、部分奏効2例(12.5%)であった(表2)。全体、切除可能群、切除不能群での1年生存割合は92.7%、100%、81.3%であり1年無増悪生存割合は65.4%、79.6%、43.8%であった。高スコア(4例)および低スコア(37例)における完全奏効はそれぞれ4例(100%)、26例(70.3%)であった。

表1 Pneumonitis by ICI+CRT for ESCC(発表者の許可を得て掲載)

表2 Response for ICI+CRT for ESCC(発表者の許可を得て掲載)

まとめ

 Nivolumab併用の根治的化学放射線療法は確かな有効性を示し、毒性は許容されるものであった。また、免疫活動性による内在的サブタイプは高い完全奏効割合を予測するバイオマーカーとなる可能性を示した。

(レポート:国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科 白石 和寛)

References

1) Kadono T, et al.: Future Oncol. May 17, 2024 [Online ahead of print] [PubMed
2) Takeuchi H, et al.: Int J Radiat Oncol Biol Phys. 114(3): 454-462, 2022 [PubMed