2024年5月31日~6月4日に米国シカゴとオンラインのハイブリッドで開催される、米国臨床腫瘍学会年次集会(2024 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®)より、大腸癌、食道癌、膵癌などの消化器癌の注目演題のレポートをお届けします。臨床研究の第一線で活躍するドクターにより執筆、監修されたレポートを楽しみにしてください。

演題レポート

Colorectal Cancer

Oral Abstract #LBA3502
大腸癌

多臓器転移のある大腸癌患者に対する全身化学療法に腫瘍減量術を追加する無作為化第III相ORCHESTRA試験:主要評価項目の解析

Primary Endpoint Analysis of the ORCHESTRA TRIAL: A randomized phase III trial of Additional Tumor Debulking to First-Line Palliative Combination Chemotherapy for Patients with Multiorgan Metastatic Colorectal Cancer

Elske C. Gootjes, et al.

監修コメント

谷口 浩也先生

愛知県がんセンター 薬物療法部 医長

 切除可能な大腸癌遠隔転移は外科切除が標準治療であり、切除不能な場合は部分的な外科切除は行わず、全身化学療法を行う。一方で、病変の大部分を減らすdebulking strategyが予後を延長するかどうかは明らかではなかった。本試験は事後に局所治療計画がセントラルで再評価されるなど、質の高いランダム化比較試験であったが、主要評価項目であるOSの延長が示されず、腫瘍減量術を追加する意義はないことが示された。この結果から、現時点では安易なdebulking strategyは慎むべきだろう。しかし、サブグループ解析の結果からは、肉眼的に100%の腫瘍減量(NED: no evidence of disease)を目指す戦略は、今後も前向き比較試験での検討の余地があることが示唆された。本試験では、多様な転移臓器の患者を含むなど対象集団が極めて不均質であったことや、登録が難航し試験期間が長すぎたことも反省点として挙げられる。内科医としても結果を期待していた試験であっただけに残念であったが、患者選択を含め、臨床試験の難しさを実感させられた。

(愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也)

多臓器転移を有する大腸癌に対する腫瘍減量術

 多臓器転移を有する大腸癌に対して腫瘍減量術を検討した非無作為化の小規模な臨床試験や後方視的な報告はあるが、選択バイアスの影響もあり、その有用性は依然として不明である1)。そのため、同対象に対して化学療法に腫瘍減量術を追加することの有用性を検証する無作為化第III相試験であるORCHESTRA試験が行われた。これまでに安全性やQOLに関する中間報告がされ、腫瘍減量術追加による合併症の増加は認められたが、QOLの低下は認めなかった2,3)。今回、主要評価項目であるOSの結果が報告された。

全身化学療法に加えて腫瘍減量術を行うことのOSの有用性を検証

 主な適格基準は2臓器以上に転移があり、化学療法開始前に転移巣の80%の腫瘍減量術が可能と判断された症例であった。主要評価項目は腫瘍減量術追加による6ヵ月を超えるOS延長であった。454例が登録されCAPOX±BEVを3コースまたはFOLFOX±BEVを4コース行った後、SD以上の治療効果が得られた症例382例が1:1に無作為化された。標準治療群(192例)は全身化学療法のみを行い、介入群(190例)には腫瘍減量術と全身化学療法が行われた。患者背景に偏りはなく、右側結腸28% vs. 27%、RASまたはBRAF変異型63% vs. 51%、CAPOX 96% vs. 94%、BEV併用77% vs. 80%であった(表1)。転移臓器については、3個以上の転移臓器38% vs. 40%、肝肺転移のみ42% vs. 45%、腹膜播種33% vs. 32%であった(表2)
 介入群では34例が無作為化後から手術までの間に腫瘍の増大を認めた。同意撤回や不適格例などを除いた162例が局所治療を受け、137例が80%を超える腫瘍減量術を行った(図1)

表1 Baseline characteristics(発表者の許可を得て掲載)

表2 Metastatic pattern of randomized patients(発表者の許可を得て掲載)

図1 Patient enrollment(発表者の許可を得て掲載)

化学療法に腫瘍減量術を追加することによるOSの優越性は検証されず

 追跡期間中央値32.3ヵ月において、OS中央値は標準治療群27.5ヵ月 vs. 介入群30.0ヵ月(調整HR=0.88、95% CI: 0.70-1.10、p=0.23)と腫瘍減量術追加による有意なOSの延長は認めなかった(図2)。PFS中央値は10.4ヵ月 vs. 10.5ヵ月(調整HR=0.83、95% CI: 0.67-1.02、p=0.08)であった(図3)。80%を超える腫瘍減量術が行われた症例は72%、完全切除が行われた症例は38%であった。腫瘍減量術の内訳は、手術のみが28%、手術と放射線治療が22%、手術と放射線治療およびRFA/マイクロウエーブアブレーションを行ったものが11%であった。Clavien-Dindo分類3aを超える術後合併症は25%、再入院は11%、術後90日以内の死亡は4%であった(表3)
 サブグループ解析では、肝肺転移のみの症例のOS中央値は28.7ヵ月 vs. 30.2ヵ月(HR=0.79、p=0.18)、化学療法により6ヵ月を超える治療効果が得られた症例では28.8ヵ月 vs. 31.9ヵ月(HR=0.93、p=0.56)と差がなかった。また、6ヵ月を超える治療効果が得られた症例で80%を超える腫瘍減量術、完全切除が可能であった症例のOS中央値はそれぞれ37.0ヵ月(HR=0.83、p=0.25)、35.3ヵ月(HR=0.80、p=0.17)であった(図4)

図2 Overall Survival (OS)(発表者の許可を得て掲載)

図3 Progression Free Survival (PFS)(発表者の許可を得て掲載)

表3 Local treatment characteristics(発表者の許可を得て掲載)

図4 Debulking in patients responding to chemotherapy(発表者の許可を得て掲載)

まとめ

 多臓器転移を有する症例に対して全身化学療法に腫瘍減量術を追加することによるOSの優越性は示されなかった。多臓器転移を有する大腸癌に対する局所療法の機会は近年増加しているが、適応や症例選択はさらなる検討が必要である。

(レポート:愛知県がんセンター 薬物療法部 石塚 保亘)

References

1) Macbeth F, et al.: Clin Oncol (R Coll Radiol). 34(5): 313-317, 2022 [PubMed
2) Gootjes EC, et al.: Oncologist. 25(8): e1195-e1201, 2020 [PubMed
2) Bakkerus L, et al.: J Natl Compr Canc Netw. 21(10): 1059-1066, 2023 [PubMed

関連サイト

・ORCHESTRA試験[ClinicalTrials.gov