高リスクstage II/III結腸癌に対する即時手術 vs. 術前FOLFOX4療法 vs. 術前FOLFOX4+Cetuximab療法の多施設共同無作為化第II相試験(PRODIGE 22試験)
Neoadjuvant FOLFOX4 versus FOLFOX4 plus Cetuximab versus immediate surgery for high-risk stage II and III colon cancers: A phase II multicenter randomized controlled trial (PRODIGE 22)
Mehdi Karoui, et al.
監修コメント
切除可能な大腸癌の標準治療は、切除と術後補助化学療法である。これは、切除可能な癌に対する最強の治療としての手術がまず行われ、その後により弱い治療である化学療法を"補助的"に用いてきたという歴史からである。化学療法を術後に行うことのメリットは、病理病期を見て適応を決めることができること、化学療法の効果がない場合でも手術の時期を逸することがないこと、などであるが、逆に周術期合併症により十分な化学療法ができない場合もあり、近年はより状態のよい術前に化学療法を行うことが各癌種にて検討されてきた。化学療法の治療効果の上昇により手術を逃す確率が減ったこと、術前の方がより強力な化学療法を行うことができ、かつダウンステージングによりR0切除割合が増えることが予後の延長につながると考えられている。
今回のPRODIGE 22試験は、標準的な治療として手術および術後補助化学療法を行っても比較的予後が不良なbulky T3、T4 and/or N2症例を対象とし、術前化学療法を加えることで予後の改善が得られるのか、かつ最適なレジメンは何かを見るための試験である。より腫瘍縮小効果が期待できるCetuximab併用レジメンの有効性を見たいという意図が伝わってくるデザインであるが、意外にもCetuximab併用群が13例での検討でTRG1が0例という結果に終わり、脱落している。また、術後合併症が多いことも難点であった。肝転移症例などについてはCetuximabなどの抗EGFR抗体薬を含む化学療法後に、いわゆるConversion手術を行うことも多いが、あまり大きな問題となっていないため、こちらも意外といえる結果であった。
その後の症例集積により、手術単独群とFOLFOX群との比較となったが、安全性で問題がなかったということは、一つ重要な知見である。有効性について、術前群でより病理病期が若く、TRGも低い結果となったのはある意味当然であり、これが長期的な有効性である、DFS(disease-free survival)、OSにどこまで関与していくのかが今後の課題である。R0切除割合では両群に差は認められず、局所制御という観点よりも、全身の微小転移の制御に術前化学療法がどの程度寄与するのか、今後の追加データを待つ必要があると感じられた。
(コメント・監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健)
切除可能結腸癌に対する術前補助化学療法は有効であるか?
切除可能な結腸癌に対しては、結腸間膜を含めた結腸切除1)とOxaliplatinベースの術後補助化学療法が標準治療法となっている2,3)。しかしその3年再発割合は、IDEA試験においてはpT1-3N1に対するCapeOX療法3ヵ月投与で15%、pT4 and/or N2に対するFOLFOX療法6ヵ月投与で35.3%4)、PETTAC8試験においてはFOLFOX+Cetuximabで43.1%3)と報告されており、満足のいく結果が得られていない。その原因としては、術後補助化学療法導入の遅延や手術による腫瘍成長因子や免疫抑制因子の誘発が考えられている5)。一方で、術前化学療法は、微小転移の根絶や腫瘍のダウンステージングによるR0切除割合を向上させ、予後の改善が示唆されており6-8)、既に胃癌、食道癌、肝転移のみの結腸癌や直腸癌ではその有用性が検証されている9-11)。
術前化学療法としてのFOLFOX、そしてCetuximab併用の有用性を検討
本試験は、術前化学療法としてのFOLFOXおよびFOLFOX+Cetuximabの有用性を検討した無作為化比較第II相試験である。対象は、初回CTにおいて高リスクT3(壁外浸潤>5mm)、T4(隣接した臓器浸潤)、N2(10mm以上のリンパ節転移3個以上)を認める切除可能結腸癌患者であり、即時手術+術後補助FOLFOX療法12サイクルを行うコントロール群(手術単独群)、術前FOLFOX療法4サイクル+手術+術後補助FOLFOX療法8サイクルを行う群(FOLFOX群)、FOLFOX群の術前/術後FOLFOX療法にCetuximabを併用した群(FOLFOX+Cetuximab群)に無作為に割り付けられた。なお、RAS野生型は3群に割り付けられたが、RAS変異型は手術群、FOLFOX群にのみ割り付けられた。
主要評価項目はRyanの腫瘍縮小グレード(tumor regression grade; TRG)を用いた病理学的改善割合であり、盲検化された2名の中央病理医により評価された。副次評価項目は毒性、術後死亡割合、3年DFS割合などであった。本解析にはSimonの2段階デザインを用い(α=0.05、検出力95%)、まず各群13例が登録され、TRG1が1例以下であればその群への登録は中止とされた。また、Clavien-Dindo分類III以上の重篤な術後合併症が10%を超えて発生する群は安全性が保たれないと判断された。
Cetuximab併用は登録中止。術前FOLFOX療法で腫瘍縮小効果を認めた
120例の患者が登録され、各群13例における中間解析の結果、FOLFOX+Cetuximab群でTRG1が0例であったため、FOLFOX+Cetuximab群は登録中止となった。また、FOLFOX+Cetuximab群におけるClavien-Dindo分類III以上の術後合併症の発生割合は15.3%であった。以上より、最終的にITT集団として手術単独群52例、FOLFOX群52例で解析が行われた。なお、手術単独群では1例がプロトコール逸脱のため51例で結腸切除が行われ、FOLFOX群では2例が腫瘍進行、1例が合併症により手術が行えず、手術が行われた49例中1例は切除不能であったため、48例で結腸切除が行われた。
患者背景は、年齢、性別、BMI、CEA値において両群間に差を認めず、腫瘍部位(右側/左側)はFOLFOX群52%/48%、手術単独群40%/60%であり、FOLFOX群で右側が多い傾向であった。FOLFOX群における術前FOLFOX療法4サイクルの完遂割合は96%であり、grade 3以上の有害事象が38%で認められ、4%は有害事象により治療中止されたが、原発腫瘍の合併症による治療中止例は認められなかった。なお、手術までの期間中央値は31日(範囲: 20-62)であった。
R0切除割合は手術単独群98%、FOLFOX群94%であり、両群に差を認めなかった。Clavien-Dindo分類III以上の術後合併症発生割合は両群ともに8%で、手術単独群で1例の死亡を認めた。
主要評価項目であるTRG1の割合は、手術単独群0%、FOLFOX群8%であり、両群間に有意差を認めなかったが(p=0.118)、腫瘍縮小を示唆するTRG1+2の割合は、手術単独群8%、FOLFOX群44%であり、FOLFOX群で有意に良好であった(p<0.001)。
両群の臨床病期における情報提示はなかったものの、術後病理学的評価では、stage I/II/IIIの割合が手術単独群0%/39%/61%、FOLFOX群8%/52%/40%(p=0.019)、pT4 and/or N2の割合は手術単独群59%、FOLFOX群37.5%(p=0.033)、脈管塞栓・リンパや周囲神経への浸潤は手術単独群49%、FOLFOX群19%(p=0.001)であった。また、郭清リンパ節数は両群に差は認めなかったが、転移陽性リンパ節数は手術単独群2.5±3.9個、FOLFOX群1.65±2.9個であり(p=0.215)、術前FOLFOX療法を追加することでダウンステージングが得られた可能性が示唆された。
まとめ
局所進行結腸癌に対する術前FOLFOX療法は忍容性に優れ、術後合併症の増加を認めなかった。また、TRG 1の割合は少なかったが、明らかな腫瘍縮小により、腫瘍のダウンステージングが得られた。今後、3年DFS割合や5年OS割合に有意なインパクトを与える結果が得られた場合、第III相試験への移行が検討される。
(レポート:東京慈恵会医科大学 消化器・肝臓内科 永田 祐介)
References
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- 11) Nordlinger B, et al.: Lancet. 371(9617): 1007-1016, 2008[PubMed]
加藤 健 先生
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長