ESMO2018 演題レポート Munich, Germany 19 Oct - 23 Oct 2018

2018年10月19日~23日にドイツ・ミュンヘンで開催された 2018年 欧州臨床腫瘍学会学術集会(ESMO 2018 Congress)より、大腸癌や胃癌などの消化器癌の注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載します。

演題レポート

Poster Discussion Session

#617PD
胃癌および胃食道接合部癌

既治療(2レジメン以上)の切除不能進行・再発胃癌/胃食道接合部癌に対するNivolumab(Nivo)とプラセボを比較する第III相試験(ATTRACTION-2試験)の2年追跡結果

A phase 3 study of nivolumab (Nivo) in previously treated advanced gastric or gastric esophageal junction (G/GEJ) cancer (ATTRACTION-2): Two-years update data.

Taroh Sato, et al.

監修コメント

加藤 健 先生

国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長

 本発表は、主たる解析が2017年のASCO-GIにおいてすでに報告され論文化されているATTRACTION-2試験1)の2年追跡結果である。論文で行われている解析は、2016年8月にデータカットオフが行われているが、今回のデータカットオフは2018年2月であり、約2年の観察期間における結果である。すでに主たる解析にてポジティブな結果が報告され、胃癌に対する承認が得られている状況での注目点は、胃癌においても、他がん種で認められるような長期生存例がどの程度認められるのかであった。肺癌では5年生存割合16%という数字が報告されており2)、これは従来の殺細胞性抗癌薬では得られない数字である。
 今回の報告では、Nivolumab(Nivo)群の2年生存割合は10.6%と、悪性黒色腫や肺癌に比較して期待はずれの結果であった。ただ、少数例ではあるが、完全奏効(CR)、部分奏効(PR)となった32例では、2年生存割合61.3%と良好な数字であった。毒性については、長期観察しても特に追加される毒性はなく、ほとんどの毒性は3ヵ月以内に発生していることが示され、1年以上経過してからの重篤な有害事象の報告は少なかった。ただし、だからと言って警戒を怠ってはいけないことはいうまでもない。
 2年で約10%というのは他癌と比べると若干低い数字であり、胃癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の開発戦略は、何らかの絞り込みが必要という印象を受けた。惜しまれるのは、今回の発表では、PD-L1の発現や、その他のバイオマーカーなどによる長期生存例の絞り込みの検討が行われていなかったことである。ATTRACTION-2試験ではバイオマーカー検体の回収率が40%程度とあまり高くなく、また現時点では癌細胞のPD-L1陽性率による解析のみが行われており、近年有用なバイオマーカーとして報告されている、腫瘍浸潤リンパ球の陽性も含めたCPS(Combined Positive Score)での解析は報告されていない。KEYNOTE-0613)の結果からもわかるように、CPSを用いることでより免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できる集団を絞り込める可能性がある。胃癌の3次治療に対する治療選択肢は少ないため、現時点でのNivoにとっては、バイオマーカーなどでのセレクションは不要と思われるが、今後、より早期ラインでの開発などで効率よくNivoを患者へ使うためにも、何らかの傾向を示す臨床的特徴や、バイオマーカーが必要である。

(コメント・監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健)

ATTRACTION-2試験では、Nivolumab(Nivo)とプラセボを比較

 ATTRACTION-2試験は、2レジメン以上の化学療法に不応の切除不能進行・再発胃癌/胃食道接合部癌患者を対象に、層別因子として、国(日本vs. 韓国vs. 台湾)、ECOG PS(performance status)(0 vs. 1)、転移臓器数(2< vs. ≧2)が用いられ、Nivolumab(Nivo)(3mg/kg、2週毎)群とプラセボ群に無作為に2:1で割り付けられた(330例vs. 163例)。
 主要評価項目は全生存(OS)期間とされ、副次評価項目は、無増悪生存(PFS)期間、奏効割合(RR)、最良効果(best overall response: BOR)、TTR(time to tumor response)、DOR(duration of response)などであった。OS期間中央値を、プラセボ群4ヵ月に対し、Nivo群6.15ヵ月[ハザード比(HR)=0.65]と期待し、片側α=0.025、検出力90%で実施された。

完全奏効(CR)、部分奏効(PR)は、Nivolumab(Nivo)群にのみ認められた

 2018年2月までの2年間の長期追跡において、Nivo群はプラセボ群と比較して有意にOS期間の延長が示された(図1)。2年OS割合は、Nivolumab群10.6%、プラセボ群3.2%であり、2年PFS割合は、Nivolumab群3.8%、プラセボ群0%であった。
 BORは、1年観察では完全奏効(CR)が0例であったが、2年観察では3例にCRが認められた。CRの3例中2例にマイクロサテライト不安定性(microsatellite instability: MSI)について検索され、2例ともにMSSであった。
 CR、部分奏効(PR)はNivo群のみに認められ(32例)、OS期間中央値26.61ヵ月、2年OS割合61.3%であった。
 SD症例におけるOS期間中央値は、Nivo群8.87ヵ月、プラセボ群7.62ヵ月であった[HR=0.80、95%信頼区間(CI):0.52-1.23]。
 PD症例におけるOS期間中央値は、Nivo群3.84ヵ月、プラセボ群3.75ヵ月であった(HR=0.83、95% CI: 0.62-1.12)。
 ほとんどの治療関連有害事象はNivo群で投与開始3ヵ月以内に発現し、6ヵ月、1年、2年においての発現割合は同程度であった。

図1 OS after 2 years follow-up(発表者の許可を得て掲載)

図1
まとめ

 2年の長期経過観察の結果では、前治療のある切除不能進行・再発胃癌/胃食道接合部癌において3例(1.1%)にCRを認め、2年OS割合はNivo群が10.6%、プラセボ群が3.2%であった。また、Nivo群においては、CRとPRでの効果が長期間認められた。SDについても、Nivo群はプラセボ群と比べ、OS期間中央値を延長した。遅発性の治療関連有害事象は認められなかった。

(レポート:京都大学医学部附属病院 腫瘍内科 医員 野村 基雄)

References
  • 1) Kang YK, et al.: Lancet. 390(10111): 2461-2471, 2017[PubMed
  • 2) Gettinger S, et al.: J Clin Oncol. 36(17): 1675-1684, 2018[PubMed
  • 3) Shitara K, et al.: Lancet. 392(10142): 123-133, 2018[PubMed
関連サイト
  • ・ATTRACTION-2[ClinicalTrials.gov
  • ・2レジメン以上の化学療法に対して不応・不耐であった進行胃癌・食道胃接合部癌に対するNivolumab療法:無作為化二重盲検Placebo対照第III相試験(ATTRACTION-2試験)[論文紹介
  • ・既治療の進行胃癌および食道胃接合部癌に対するNivolumab単剤療法第3相試験(ATTRACTION-02);最新結果とPD-L1発現の有無による解析:ESMO 2017 #617O[学会レポート
  • ・3rd-line以降のsalvage lineにおける進行胃癌に対するNivolumab(ONO-4538-12試験):GCS 2017 #2[学会レポート
  • ・KEYNOTE-061[ClinicalTrials.gov][ClinicalTrials.jp-iyakuSearch
  • ・既治療の切除不能進行・再発胃癌/食道胃接合部癌に対するPembrolizumabとPaclitaxelの無作為化比較第III相試験(KEYNOTE-061試験):ASCO 2018 #4062[学会レポート