ESMO2019 confress 演題レポート Barcelona, Spain 27 Sep - 01 Oct 2019

2019年9月27日~10月1日にスペイン・バルセロナで開催された 2019年 欧州臨床腫瘍学会学術集会(ESMO 2019 Congress)より、大腸癌や胃癌などの消化器癌の注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載します。

演題レポート

Proffered Paper Session

#LBA11
食道癌

フッ化ピリミジン系薬剤および白金系薬剤に不応または不耐の切除不能進行・再発食道癌(扁平上皮癌)に対するNivolumab(Nivo)療法と、Docetaxel(DTX)またはPaclitaxel(PTX)療法を比較したオープンラベル無作為化第III相試験(ATTRACTION-3試験)

Nivolumab Versus Chemotherapy in Advanced Esophageal Squamous Cell Carcinoma: The ATTRACTION-3 Study

Cho B. Chul, et al.

監修コメント

加藤 健 先生

国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長

 進行食道癌に対する治療はFluorouracil(5-FU)系、白金系、そしてタキサン系の3つの薬剤の組み合わせに限られている。ガイドラインによると、初回化学療法は5-FUとCisplatin(CDDP)、二次治療はタキサン系薬剤を使用することが弱く推奨されているが、いずれもPhase II試験の結果を根拠としている。
 ESMOでは、標準治療不応食道扁平上皮癌を対象に行われたATTRACTION-1試験で良好な結果を残したNivolumab(Nivo)を、二次治療の標準的治療であるDocetaxel(DTX)もしくはPaclitaxel(PTX)と比較し、生存期間の延長が得られるかを検証したATTRACTION-3試験の結果が報告された。この試験の結果は、2019年1月にすでにポジティブであること、5月には適応拡大申請がなされていることがすでにプレスリリースされているが、結果の詳細についてはESMO 2019が初めてであった。結果は、Nivoが有意差をもって全生存(OS)期間を延長しており、またハザード比(HR)についても臨床的に意味があると考えられる差であった。免疫関連の有害事象はあるものの従来の殺細胞性抗癌薬に比べて有害事象は少なく、またQOLも保たれるという、免疫チェックポイント阻害剤の有用性が再確認された。
 Nivoと同じくPD-1を標的としたPembrolizumabはすでにASCO-GI 2019にてKEYNOTE-181試験の結果が報告され、全体の集団では有意差はつかなかったものの、CPS(Combined Positive Score)≧10の集団についてはOS期間を延長した。扁平上皮癌のサブグループについては統計的には差を示せなかったが、HR=0.78と報告されており、ATTRACTION-3試験でもほぼ同様の有効性が再現された格好となる。Pembrolizumabは、CPS≧10の食道扁平上皮癌に対する承認がすでに米国FDAよりなされており、日本でも同様の承認になると思われる。Nivoはバイオマーカーにかかわらず食道扁平上皮癌に対する承認が得られる見込みであり、投与間隔の違いはあるもののPD-1の測定が不要な分、Nivoのほうが患者アクセスはしやすいと思われる。2020年初頭には日本においても承認されることが予測されており、まさに臨床を変える結果と考えられる。
 また、この試験は、今までほとんど行われてこなかった食道扁平上皮癌のグローバルでの第III相試験という部分でも意義深く、これを機に、標準治療のグローバル化、グローバルスタンダードの形成が進むことを期待している。また、Nivoについては、初回化学療法に対するCheckMate 648試験、術後補助化学療法であるCheckMate 577試験、術前化学療法に対するNivoの併用の安全性をみるJCOG1804E(FRONTiER)試験など、より前のラインでの試験が行われており、食道癌も新たな時代に突入したといえる。

(コメント・監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健)

食道癌に対する免疫チェックポイント阻害剤の有効性が示されている

 食道癌は主要な組織型が地域によって異なることや、治療戦略に手術、放射線、化学療法や内視鏡を組み合わせた集学的治療が重要となることから、治療開発は他の癌種と比較して困難であり、今までに一次治療、二次治療を対象とした無作為化第III相試験の結果は報告されていない。第II相試験等の結果から、本邦における切除不能・進行再発食道癌に対する標準治療はCisplatin(CDDP)+Fluorouracil(5-FU)療法(CF療法)であり、二次治療としてはDocetaxel(DTX)またはPaclitaxel(PTX)による単剤療法が選択される。
 しかしながら近年の免疫チェックポイント阻害剤の登場によって、食道癌に対しても免疫チェックポイント阻害剤が日常診療で使用される時代が到来することとなった。2019年1月のASCO-GIでは、二次治療としてPembrolizumab単剤の化学療法に対する優越性を検証したKEYNOTE-181試験の結果が報告され、主要評価項目の1つであるCPS(Combined Positive Score)≧10のPD-L1陽性例における全生存(OS)期間で有効性が示された1)
 同じくPD-1抗体であるNivolumab(Nivo)は、第II相試験であるATTRACTION-1試験において標準治療不応となった食道扁平上皮癌患者を対象に良好な有効性と安全性が示された2)。この結果を受け、二次治療におけるNivo療法と、DTXまたはPTXの単剤療法を比較するオープンラベル無作為化第III相試験(ATTRACTION-3試験)が行われた。

二次治療でのDTX療法もしくはPTX療法に対するNivo療法の優越性を検証

 本試験の主な適格基準は、切除不能進行・再発食道扁平上皮癌、フッ化ピリミジン系薬剤およびプラチナ系薬剤に不応もしくは不耐、ECOG PS(Eastern Cooperative Oncology Group performance status)0-1であった。419例が登録され、Nivo群(Nivo 240mgを2週毎)と、化学療法群(Docetaxel 75mg/m2を3週毎、もしくはPaclitaxel 100mg/m2を6週投与1週休薬)に1:1で割り付けられた。
 主要評価項目は、ITT解析におけるOS期間、副次評価項目は無増悪生存(PFS)期間、全奏効割合(ORR)、病勢コントロール割合(DCR)、TTR(time to response)、DOR(duration of response)、HRQoL(health-related quality of life)、安全性であった。

OS期間において、Nivo群は化学療法群に対して優越性を示した

 2018年11月時点のデータ固定時における最も短い観察期間は17.6ヵ月であった。主な患者背景に差はなく、両群ともに男性が多く(以下、Nivo群vs. 化学療法群:85% vs. 89%)、アジア人が多い(96% vs. 96%)集団であった。また腫瘍細胞における1%以上のPD-L1の発現はそれぞれ48%、49%にみられた。
 主要評価項目であるOS期間の中央値は、Nivo群10.9ヵ月vs. 化学療法群8.4ヵ月で、統計学的な有意差をもって良好であった[ハザード比(HR)=0.77(95% CI: 0.62-0.96)、p=0.019](図1)。OS期間のサブ解析においては、PD-L1の発現にかかわらず、Nivo群で良好な傾向を示した[PD-L1≧1%、HR=0.69(95% CI: 0.51-0.94)、PD-L1<1%、HR=0.84(95% CI: 0.62-1.14)](図2)。PFS期間中央値については、Nivo群1.7ヵ月vs. 化学療法群3.4ヵ月と、両群に統計学的な有意差は示されなかった[HR=1.08(95% CI: 0.87-1.34)](図3)。ORRは、Nivo群19% vs. 化学療法群22%、DOR中央値は、Nivo群6.9ヵ月vs. 化学療法群3.9ヵ月であった。

図1 Overall Survival(発表者の許可を得て掲載)

図1

図2 Overall Survival by Subgroup(発表者の許可を得て掲載)

図2

図3 Progression-Free Survival(発表者の許可を得て掲載)

図3
主な有害事象とQOL

 治療関連有害事象の発現割合は、Nivo群では全Gradeで66%、Grade 3以上では18.2%、化学療法群では全Gradeでは95%、Grade 3以上では64%と、Nivo群で低かった。免疫関連有害事象に関してはNivo群において大多数がGrade 1/2であり、Grade 3以上の発現割合は2%以下であった。
 また本試験ではEQ-5D-3L VASを用いたQOLの調査が行われ、Nivo群は化学療法群と比較して治療開始後のQOL改善効果が認められた。

まとめ

 Nivo群は食道扁平上皮癌における二次治療として、化学療法群に対するOS期間での改善を示した。効果はNivo群でより長く継続し、18ヵ月OS割合はNivo群で31%に対し、化学療法群で21%であった。有効性はPD-L1の発現に関係なく認められた。有害事象についてもGrade 3/4の発現割合はNivo群で約1/3であった。また、探索的にではあるが、QOLについてもNivo群で明らかに良好であった。Nivo療法は、食道扁平上皮癌における二次治療の標準的治療と考えられた。

(レポート:慶應義塾大学病院 消化器内科 下嵜 啓太郎)

References
関連サイト