遠隔転移を有する膵管腺癌の一次化学療法を対象としたGemcitabine(GEM)+Nab-Paclitaxel(Nab-P)+Durvalumab(D)+Tremelimumab(T)併用療法vs. GEM+Nab-P併用療法の無作為化第II相試験(CCTG* PA.7試験)
*CCTG: The Canadian Cancer Trials Group
The Canadian Cancer Trials Group PA.7 Trial: Results of a Randomized Phase II Study of Gemcitabine (GEM) and Nab-Paclitaxel (Nab-P) vs. GEM, Nab-P, Durvalumab (D) and Tremelimumab (T) as First Line Therapy in Metastatic Pancreatic Ductal Adenocarcinoma (mPDAC)
Daniel J. Renouf, et al.
監修コメント
CCTG PA.7試験は遠隔転移を有する膵管癌に対する一次化学療法として、標準治療であるGemcitabine+Nab-Paclitaxel療法に、抗PD-L1抗体であるDurvalumabおよび抗CTLA-4抗体であるTremelimumab併用投与の上乗せ効果を検討したランダム化第II相試験である。結果は、主要評価項目である全生存期間、有効性の副次評価項目に設定された無増悪生存期間、奏効割合がいずれも群間に有意な差は認められなかった。膵管癌はいわゆるcold tumorとされ免疫療法の有効性は乏しく、代表的な免疫チェックポイント阻害薬の開発はことごとく頓挫している。Discussionで示されたように、膵管癌に対する二次治療としてDurvalumab単独投与またはDurvalumabおよびTremelimumab併用投与が行われた65例中、奏効例は1例のみであったことが報告されており1)、Gemcitabine+Nab-Paclitaxel療法と併用することによるrationaleも十分には示されておらず、本試験計画には無理があったと考察せざるを得ない。
切除不能な膵癌に対しては、Gemcitabine+Nab-Paclitaxel療法やFOLFIRINOX療法が登場し、明らかに薬物療法の有効性が実感できるようになったものの、本邦でも使用可能となったIrinotecanリポソーム製剤の実臨床下でのインパクトは未知数であり、FDAにより承認されたOlaparibも、乳癌、卵巣癌、前立腺癌と比較するとその有効性は限定的である。さまざまな癌種で分子標的薬、免疫療法、それらの併用投与と、薬物療法の有効性が次々と示されていく中で、膵癌だけが取り残されており、だからこそ有効な新規薬剤の開発が切に望まれる。
(コメント・監修:金沢大学 先進予防医学研究センター 特任准教授 寺島 健志)
遠隔転移を有する膵癌において、Gemcitabine+Nab-Paclitaxel+Durvalumab+Tremelimumabの4剤併用療法の、Gemcitabine+Nab-Paclitaxel併用療法に対する優越性を検証
Gemcitabine(GEM)+Nab-Paclitaxel(Nab-P)併用療法はMPACT試験の結果によって標準治療の一つと位置づけられている2)。膵管腺癌(Pancreatic Ductal Adenocarcinoma: PDAC)に対する免疫チェックポイント阻害薬は、DNAミスマッチ修復機構の欠損(mismatch repair deficient: dMMR)を有する場合を除いて、その効果は限定的であるとされている1,3)。
今回のPA.7試験では、遠隔転移を有するPDAC患者を対象として、抗PD-L1抗体であるDurvalumab(D)と、抗CTLA-4抗体であるTremelimumab(T)をGEM+Nab-P併用療法に上乗せした4剤併用療法の有効性を検討するために計画された。
主要評価項目では全生存期間、副次評価項目では無増悪生存期間、安全性、客観的奏効割合を、4剤併用療法群と対照群において比較
本試験は、遠隔転移を有する未治療のPDAC患者を対象としたランダム化比較第II相試験である。対象患者180例を、GEM+Nab-P+D+Tの4剤併用療法群、GEM+Nab-P併用療法の対照群の2群に、2:1の割合でランダムに割り付けられることとされた。層別化因子はECOG PS(Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status)0/1、術後化学療法の有無とされた。各薬剤の投与方法に関しては、28日を1サイクルとして、GEM、Nab-Pはそれぞれ1,000mg/m2、125mg/m2を1日目、8日目、15日目に投与され、Dは1,500mg/bodyを1日目に、Tは75mg/bodyを1日目に4サイクル投与された。
主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、安全性、客観的奏効割合(ORR)が設定された。臨床的仮説として、GEM+Nab-P群の生存期間中央値を8.5ヵ月、試験治療群の生存期間中央値を13.1ヵ月、αエラー=両側10%、検出力80%として150イベントが必要であるとされた。
2017年4月から2019年7月までの間に180例が登録され、4剤併用療法群に119例、対照群に61例が割り付けられた。患者背景に関しては両群間で差は認められなかった。
全生存期間、無増悪生存期間、客観的奏効割合において、4剤併用療法群の対照群に対する優越性を示せなかった
4剤併用療法群、対照群(以下、同順)の、OS中央値はそれぞれ、9.8ヵ月、8.8ヵ月[層別HR=0.94(90% CI: 0.71-1.25、p=0.72)]であり、4剤併用療法群の統計学的な優越性は示されなかった。副次評価項目であるPFS中央値はそれぞれ、5.5ヵ月、5.4ヵ月[層別HR=0.98(90% CI: 0.75-1.29、p=0.91)]、ORRは30.3%、23.0%、Odds Ratio=1.49(90% CI: 0.81-2.72、p=0.28)であり、いずれも両群間に統計学的に有意な差は認めなかった。
有害事象の発現状況は、両群同等であり、Grade 3以上の有害事象発現頻度は、4剤併用療法群でリンパ球減少[38% vs. 20%(p=0.02)]が多い以外は両群間に有意な差は認めなかった。
まとめ
DurvalumabとTremelimumabのGEM+Nab-P療法への上乗せ効果は示されなかった。現在、血液検体によるcfDNA(cell free DNA)の分子学的評価も行っており、1例でMSI-H(plasma TMB=52.9 muts/Mb)を認めた。同解析の詳細な結果については今回の発表では公表されておらず、免疫学的なバイオマーカーの検討は現在も進行中である。
(レポート:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 梅本 久美子)
References
- 1) O'Reilly EM, et al.: JAMA Oncol. 5(10): 1431-1438, 2019 [PubMed]
- 2) Von Hoff DD, et al.: N Engl J Med. 369(18): 1691-1703, 2013 [PubMed]
- 3) Marabelle A, et al.: J Clin Oncol. 38(1): 1-10, 2020 [PubMed]
関連サイト
- ・CCTG PA.7試験 [ClinicalTrials.gov]
- ・MPACT試験 [ClinicalTrials.gov]
- ・KEYNOTE-158試験 [ClinicalTrials.gov]
寺島 健志 先生
金沢大学 先進予防医学研究センター 特任准教授