Stage II/III胃癌に対するD2リンパ節郭清を含む胃切除後の術後補助化学療法および術後化学放射線療法の意義を検証した第III相試験(ARTIST 2試験)の中間報告
ARTIST 2: Interim results of a phase III involving adjuvant chemotherapy and/or chemoradiotherapy after D2-gastrectomy in stage II/III gastric cancer (GC)
Se Hoon Park, et al.
監修コメント
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長
ARTIST 2試験は、すでに結果が発表されているARTIST試験と同じ疑問に対する回答を得るために韓国で行われた。すなわち、米国での標準治療である胃癌術後補助化学療法(adjuvant chemotherapy)と化学放射線療法(chemoradiotherapy)は、D2リンパ節郭清後にも有効であるのか? という疑問である。最近では欧米でもhigh volume centerではD2リンパ節郭清が行われているが、以前そして現在も通常はD1リンパ節+α程度の郭清しか行われておらず、手術だけでの局所制御が悪いため、術後に局所治療である放射線治療を行うことで生存期間が延長されている。D2リンパ節郭清術後は明らかに局所再発が欧米と比して少なく、あえて放射線治療を併用する必要はないと考えられていた。しかし、D2リンパ節郭清後にさらに放射線を局所に照射することで、より進行期の胃癌では再発を低下させる可能性もあり、その意義を検討したのがARTIST試験、およびARTIST 2試験であった。
結果は予想どおり、D2リンパ節郭清術後には放射線治療の上乗せ効果はなく、Stage III胃癌における放射線照射追加の意義は見出せなかった。
一方で、CLASSIC試験では、手術単独に対して術後XELOX療法[Capecitabine+Oxaliplatin(OX)療法:CapeOX療法]が優越性を示したが、S-1単剤などのフッ化ピリミジン系薬剤との直接比較は行われておらず、今回のARTIST 2試験で初めてフッ化ピリミジン単剤に対するOXの上乗せ効果を示したという点では意義深い。
胃癌の標準術式は世界的にD2リンパ節郭清となっている。今後術後放射線療法は行わない方向となり、またStage IIIに対しては、フッ化ピリミジン系薬剤+OX、あるいは、Docetaxel(DTX)+S-1(DS)療法が推奨される。さらには、これらの薬剤に免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を加えるなどの開発が現在進行中である。
(コメント・監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健)
ARTIST 2試験の背景とその意義
胃癌術後の補助化学療法(adjuvant chemotherapy)の内容は、東アジア(本邦や韓国)と欧米で異なる。リンパ節転移を有するStage IIIの胃癌術後症例に対する2剤併用治療は、術後再発のリスクを減少させることが示されている1,2)。その組み合わせは、本邦で実施されたJACCRO GC-07(START-2)試験の結果、Docetaxel(DTX)+S-1療法(DS療法)がS-1単剤との比較で、韓国および中国で実施されたCLASSIC試験の結果、Capecitabine+Oxaliplatin(OX)療法(XELOX療法/CapeOX療法)が手術単独療法との比較で、それぞれ報告された。
一方で、北米では同様の対象に対して、INT-0116試験の結果により、術後化学放射線療法(chemoradiotherapy)を行うことが推奨されている。日韓にて標準的に行われているいわゆるD2リンパ節郭清は、INT-0116試験での施行割合は9.6%と低く、局所制御の必要性から標準的治療となったと考えられる3)。
今回のARTIST 2試験は、胃根治切除術(胃切除+2群リンパ節郭清)後の、S-1単剤療法に対してOXを併用するS-1+OX療法(SOX療法)の意義、そして、2群リンパ節郭清後にさらに放射線療法を加える(SOXRT療法:S-1+OX+chemoradiotherapy)意義を検証した第III相試験である。なお、今回の試験に先立ち、同様の対象に対する術後補助化学療法としてCapecitabine+Cisplatin療法(XP療法)と術後補助化学放射線療法(XPRT療法:XP+chemoradiotherapy)を比較・検証したARTIST試験が行われたが、XP療法に放射線治療を併用する意義は示されなかった4)。今回は、CapecitabineをS-1に変更し、改めて胃癌根治切除後に放射線治療を併用する意義を検討した試験でもある。
S-1単剤療法に対するSOX療法とSOXRT療法の優越性を検討
対象は、根治的胃切除+2群リンパ節郭清が施行された進行胃癌症例であり、術後補助化学療法の内容によって、S-1単剤療法群(12ヵ月)、SOX療法群(6ヵ月)、SOXRT療法群(SOX療法2コース → S-1/chemoradiotherapy → SOX療法4コース)の3群に割り付けられた。
層別因子は、Stage、術式、Lauren classificationとされ、主要評価項目は3年無病再発生存(DFS)割合に設定された。S-1単剤療法の3年DFS割合を72%と見積もり、SOX療法とSOXRT療法のハザード比(HR)を0.67に設定すると、226症例のイベント発生と855症例の集積が必要と算出された。30%のDFSイベントが起こった時点で中間解析が行われた。
SOXRT療法群は優越性を示せず、放射線治療上乗せ効果は認められなかった。しかし、SOX療法群はS-1単剤療法群に比して有意に再発リスクを減少した
胃切除+2群リンパ節郭清術後のSOX療法群(6ヵ月)は、S-1単剤療法群(12ヵ月)に対して有意にDFSを延長したが、SOXRT療法群は統計学的に有意な差を示せなかった。
37ヵ月の観察期間において、S-1単剤療法群の3年DFS割合は64%であったのに対して、SOX療法群の3年DFS割合は78%(vs. S-1単剤療法群、HR=0.617、p=0.0157)、SOXRT療法群では73%(vs. S-1単剤療法群、HR=0.1774、p=0.0572)であった(図1)。
放射線治療の併用については、SOXRT療法群の統計学的有意差は示されなかった(vs. S-1単剤療法/SOX療法群、HR=0.859、95% CI: 0.602-1.226、p=0.401)(図2)。
また、有害事象については3群とも忍容性に問題はみられなかった。
最終的にこの結果をもって、547人の登録でARTIST 2試験は有効中止となった。
図1 ARTIST 2 Primary Endpoint(発表者の許可を得て掲載)
図2 ARTIST 2 Subgroup Analysis of DFS(発表者の許可を得て掲載)
まとめ
胃切除後の補助化学療法は、SOX療法がS-1単剤療法よりも再発リスクを減少させることが示された。一方で、十分にリンパ節郭清が行われた胃切除後症例には、術後補助化学療法に術後化学放射線療法を併用しても再発リスクを減らせないことが示唆された。
(レポート:久留米大学病院 がん集学治療センター 深堀 理)
References
1) Yoshida K, et al.: J Clin Oncol. 37(15): 1296-1304, 2019[PubMed]
2) Noh SH, et al.: Lancet Oncol. 15(12): 1389–96, 2014[PubMed]
3) Smalley SR, et al.: J Clin Oncol. 30(19): 2327-2333, 2012[PubMed]
4) Park SH, et al.: J Clin Oncol. 33(28): 3130-3136, 2015[PubMed]
関連サイト
・ARTIST試験[学会レポート][論文紹介]
・CLASSIC試験[論文紹介]
・JACCRO GC-07(START-2)試験[学会レポート]
・INT-0116試験[論文紹介]
監修
谷口 浩也先生
国立がん研究センター東病院
消化管内科 医長
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院
消化管内科 医長
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター
消化器内科 医長
寺島 健志先生
金沢大学先進予防医学研究センター
特任准教授
レポーター (50音順)
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静岡がんセンター
消化器内科
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国立がん研究センター東病院
消化管内科