TRIBE2試験のUpdate結果:切除不能進行・再発大腸癌(mCRC)に対する一次治療と二次治療における戦略的研究(無作為化第III相試験:GONOグループ)
Updated results of TRIBE2, a phase III, randomized strategy study by GONO in the 1st- and 2nd-line treatment of unresectable mCRC
Chiara Cremolini, et al.
監修コメント
谷口 浩也先生
国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長
FOLFOXIRI[Fluorouracil(5-FU)+Leucovorin(LV)+Irinotecan(IRI)+Oxaliplatin(OX)]+Bevacizumab(Bmab)療法は、本邦の大腸癌診療ガイドライン2019年版でも一次治療オプションのひとつとして記載されている。その根拠となるTRIBE試験では、tripletレジメンでの無増悪生存(PFS)期間、奏効割合(RR)、全生存(OS)期間の上乗せが検証されている。しかし、低い二次治療移行割合や対照群のFOLFIRI(5-FU+LV+IRI)+Bmab療法群も12コース後に5-FU+LV+Bmab療法に移行しており、結果の本邦への外挿に疑問もあった。
今回、TRIBE2試験のupdateとしてPFS期間の最終解析とOS期間の途中解析が発表され、doubletレジメンに対するtripletレジメンのRR、PFS期間、OS期間の上乗せが確認された。対照群をFOLFOX+Bmabとしている点や二次治療移行割合が大きく改善している点を考慮すると、本試験結果はより本邦の実地臨床に外挿しやすいといえる。Preliminaryな結果ではあるが、OS期間についてもtripletの上乗せ効果が認められている。導入療法(二次治療を含める)が8コースと短い点、両群ともOS期間中央値が短い点が気にはなるが、すでに一次治療の標準治療のひとつとして認知されているtripletを否定するものではない。術後補助化学療法(adjuvant chemotherapy)としてOXを使用後に再発した症例や、高齢者、PS不良例を除けば、本試験で多くを占めたRAS/BRAF変異型や右側結腸癌では有力な治療選択肢と考える。
(コメント・監修:国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長 谷口 浩也)
tripletレジメンはdoubletレジメンよりも有用か?
第III相試験であるTRIBE試験1,2)では、切除不能進行・再発大腸癌(mCRC)に対する一次治療として、FOLFOXIRI[Fluorouracil(5-FU)+Leucovorin(LV)+Irinotecan(IRI)+Oxaliplatin(OX)]+Bevacizumab(Bmab)療法は、FOLFIRI(5-FU+LV+IRI)+Bmab療法と比較し、奏効割合(RR)、無増悪生存(PFS)期間、全生存(OS)期間の優越性が示された。しかし、逐次的にOX、IRIを使用する戦略よりも、3剤併用療法が本当に有用かは確証が得られていない。
TRIBE2試験は、一次治療[FOLFOX(5-FU+LV+OX)+Bmab療法] → 二次治療[FOLFIRI+Bmab療法]とdoubletレジメンのsequential strategy(A群)に対する、FOLFOXIRI+Bmab療法のtripletレジメン(B群)の優越性を検証する第III相試験である3)。全体の3分の2のイベントが発生した時点での中間解析が、ESMO 2018で発表されており、今回はupdate結果の報告である。
FOLFOXIRI+Bmab療法と、FOLFOX+Bmab療法 → FOLFIRI+Bmab療法の逐次治療を比較
対象は、18歳から75歳、ECOG PS(performance status)0-2(71歳から75歳では0)、測定可能病変あり(RECIST ver. 1.1)、化学療法歴のない切除不能進行・再発大腸癌(mCRC)であった。補助化学療法歴としてOXを使用した症例は除外されたが、Fluoropyrimidine系薬剤単独使用例は補助化学療法終了後6ヵ月経過していれば適格とされた。
FOLFOX+Bmab療法 → FOLFIRI+Bmab療法のsequential strategy(A群)とFOLFOXIRI+Bmab療法を一次治療で実施したのちに、維持療法の病勢進行(PD)後にも再導入するstrategy(B群)を比較した。一次治療、二次治療ともに併用療法を最大8コース施行した後は、維持療法として5-FU+BmabをPDまで継続した。
主要評価項目はPFS2[無作為化から二次治療におけるPD(PD2)もしくは死亡までの期間]であり、副次評価項目は、奏功割合(RR)、1st PFS[無作為化から最初のPD(PD1)もしくは死亡までの期間]、2nd PFS(PD1からPD2までの期間)、全生存(OS)期間であった(図1)。15ヵ月時点のPFS2割合をA群50%、B群60%[ハザード比(HR)=0.77]、有意水準両側5%(中間解析に1.31%、最終解析に4.55%)、検出率80%と設定し、必要イベント数は466(症例数654例)と算出された。
図1 TRIBE2: Study design(発表者の許可を得て掲載)
PFS1だけでなく、PFS2、OSにも有意な延長が認められた
2015年2月から2017年5月までに679例が登録された。患者背景において、右側結腸(両群とも38%)や同時性転移(両群とも89%)など群間差を認めなかった。また、両群いずれにもRAS変異型およびBRAF変異型が多く含まれていた(RAS変異型はA群65%、B群63%、BRAF変異型は両群とも10%)。
中央値30.6ヵ月のフォローアップ期間で、PD2におけるイベントはA群で303(89%)、B群で291(86%)発生した。主要評価項目であるPFS2の中央値は、A群17.5ヵ月、B群19.1ヵ月(HR=0.74、95%信頼区間(CI): 0.62-0.88、p<0.001)であり、中間解析同様に有意な延長を認めた(図2)。
1st PFSの中央値は、A群9.8ヵ月、B群12.0ヵ月(HR=0.75、95% CI: 0.63-0.88、p<0.001)、一次治療の奏効割合(RR)は、A群50%、B群62%[オッズ比(OR):1.61、95% CI: 1.19-2.18、p=0.002)であり、ともにB群で良好であった。
Grade 3以上の有害事象(以下、A群 vs. B群)のうち、下痢(5% vs. 17%)、好中球減少症(21% vs. 50%)、発熱性好中球減少症(3% vs. 7%)の発現率がB群で有意に高かった。
563例(A群291例、B群272例)がPD1となり、そのうちのA群251例(86%)、B群219例(81%)が二次治療へ移行した。二次治療全体での2nd PFSは2群間で有意差を認めなかった。
OSについては、イベント数がまだ60%程度しか発生しておらず暫定的な結果であるが、OS期間中央値は、A群22.6ヵ月、B群27.6ヵ月(HR=0.81、95% CI: 0.67-0.98、p=0.033)であり、B群の有意な延長を認めた(図3)。
図2 Primary endpoint: Progression Free Survival 2(発表者の許可を得て掲載)
図3 Overall Survival – preliminary results(発表者の許可を得て掲載)
まとめ
本試験においても、TRIBE試験で認められたFOFOXIRI+Bmab療法の有効性と安全性が確認された。不耐でなければ二次治療においてもFOLFOXIRI+Bmab療法を再導入することが予後延長につながるのかもしれない。
本試験結果は、FOLFOXIRI+Bmab療法がRAS/BRAF変異型、右側結腸原発大腸癌において最適な一次治療オプションとなることを示唆する。
(レポート:静岡がんセンター 消化器内科 井上 博登)
References
1) Loupakis F, et al.: N Engl J Med. 371(17): 1609-1618, 2014[PubMed]
2) Cremolini C, et al.: Lancet Oncol. 16(13): 1306-1315, 2015[PubMed]
3) Cremolini C, et al.: BMC Cancer. 17(1): 408, 2017[PubMed]
関連サイト
・TRIBE試験[ClinicalTrials.gov][論文紹介]
・TRIBE2試験[ClinicalTrials.gov][PubMed][BMC Cancer][学会レポート]
監修
谷口 浩也先生
国立がん研究センター東病院
消化管内科 医長
加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院
消化管内科 医長
山﨑 健太郎先生
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消化器内科 医長
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