2024年5月31日~6月4日に米国シカゴとオンラインのハイブリッドで開催される、米国臨床腫瘍学会年次集会(2024 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®)より、大腸癌、食道癌、膵癌などの消化器癌の注目演題のレポートをお届けします。臨床研究の第一線で活躍するドクターにより執筆、監修されたレポートを楽しみにしてください。

演題レポート

Non-Colorectal Cancer

Poster Abstract #4082
食道癌

局所進行食道癌に対する術前補助療法としてのCF療法とCF+Docetaxel療法および化学放射線療法を比較した第III相試験であるJCOG1109の5年フォローアップ成績

A phase III trial comparing 5-FU plus cisplatin (CF) versus CF plus docetaxel or radiotherapy as neoadjuvant treatment for locally advanced esophageal cancer: 5 years follow-up from JCOG1109

Ken Kato, et al.

監修コメント

加藤 健先生

国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長

 現在本邦における、局所進行切除可能食道癌に対する標準治療は術前DCF(Docetaxel+Cisplatin+5-FU)療法とそれに引き続く手術である。これはJCOG1109試験の結果、JCOG9907試験の結果、標準治療であった術前CF(Cisplatin+5-FU)療法に対し、術前DCF療法が有意に生存期間を延長したことによる1)。3年生存割合は、それまでの63%から73%と10%改善された。また、同時に検討された術前CF+放射線療法(RT)については、3年生存割合68%と若干の改善を認めるものの、他病死などが多く、優越性を示せなかった。今回のJCOG1109の5年フォローアップ解析では、主たる解析の3年フォローから2年観察期間が延びたことで、より日常診療に近い遠隔成績が報告された。
 術前化学療法と手術療法を比較したCROSS試験では、領域内再発は18% vs. 8%と術前化学放射線療法で抑えられたものの、遠隔転移再発は、28% vs. 27%と抑えられていない2)。全身治療が強化された3剤併用化学療法であるDCF療法が、遠隔再発を抑制できるのか?ということと、前もって企図された比較ではないものの、術前DCF療法と、術前CF+RTの比較が、長期フォローでどのようになるのかが、今回の注目点であった。今回の発表では、領域のみ再発は術前CF療法、DCF療法、CF+RTはそれぞれ19.1%、17.4%、9.0%と、やはりRTで半分であるが、遠隔転移のみ再発は18.1%、12.4%、18.5%、遠隔転移+領域内再発は、31.2%、21.8%、29.0%と全身治療の強度に比例して、DCF療法で少なくなっている。また、DCF療法に対するCF+RTのHRは、今回1.27であり、3年フォローである前回の1.25よりもさらに差が開いているが、これは、今回の解析で、他病死および治療関連死が、CF療法、DCF療法では3名増えたのに対し、CF+RTでは6名であったことも関連していると思われた。
 今年のASCOのPlenaryセッションで報告されたESOPEC試験とも重なるが、改めて食道癌周術期治療は、3剤併用のような強力な全身治療が必要で、放射線は、再発後の局所治療に取っておくべきという結論を助長した5年フォローの結果であったと思われた。
 今後はさらに全身治療を強化すべく、シンプルに免疫チェックポイント阻害剤を併用するというのが方向性として考えられる。すでにASCO-GI 2024では、中国より、術前化学療法(Paclitaxel+Cisplatin)に、免疫チェックポイント阻害剤であるCamrelizumabを併用することで、pCRが改善するというESCORT-NEO試験の結果が報告され、食道癌の術前治療にも今後免疫チェックポイント阻害剤が併用され、アウトカムがさらに改善されることが期待される。

(国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健)

切除可能な局所進行食道扁平上皮癌に対する新たな術前治療

 本邦ではJCOG9907試験の結果から、切除可能な局所進行食道癌において術前のCisplatin+5-FU併用療法(CF療法)による治療が標準治療となっていた3)
 JCOG1109試験は、切除可能な局所進行扁平上皮食道癌における、術前CF療法に対する術前CF+Docetaxel療法(DCF療法)と術前CF+放射線療法(RT)の優越性を検証した、無作為化比較第III相試験である。フォローアップ期間中央値50.7ヵ月(0.5-101.7ヵ月)の時点で、全生存期間(OS)中央値は術前CF群で5.6年、術前DCF群で未到達(HR[95% CI]:0.68[0.50-0.92])であり術前DCF療法の優越性が示された一方で、術前CF-RT群で7.0年(HR[95% CI]:0.84[0.63-1.12])であり優越性は証明できなかった1)
 本報告はJCOG1109試験の5年間のフォローアップ成績の報告である。

術前CF療法に対する、術前DCF療法と術前CF+RTの優越性を検証

 主な適格規準は、①病理学的に扁平上皮食道癌、類上皮細胞癌、腺扁平上皮癌と診断されている、②Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status(ECOG PS)が0 or 1、③cStage IB or II or III(nonT4)(UICC-TNM7th)、④年齢が20~75歳、⑤R0切除が可能、であった(図1)。試験治療群はDCF療法[Docetaxel:70mg/m2(day 1)、Cisplatin:70mg/m2(day 1)と5-FU:750mg/m2(day 1-5)を3週おきに3回投与]とCF+RT[Cisplatin:75mg/m2(day 1)と5-FU:1,000mg/m2(day 1-4)を4週おきに2回投与し、1.8Gy×23fr(41.4Gy)の放射線治療を併用]で、対照群はCF療法[Cisplatin:80mg/m2(day 1)と5-FU:800mg/m2(day 1-5)を3週おきに2回投与]であった。標準治療である術前CF療法の3年生存割合が63%と仮定し、術前DCF療法もしくは術前CF+RTにより3年生存割合が10%増加すると推定した。有意水準片側5%、検出力80%とすると必要症例数は各群200例となった。調整因子は施設とT因子(cT1-2 vs. T3)であった。主要評価項目はOSであり、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、病理学的完全奏効割合(pCR)、術前治療中の有害事象などであった。

図1 Study design(発表者の許可を得て掲載)

5年フォローアップ成績においても、術前CF療法に対する術前DCF療法の優越性が示された

 601例が各群へ1:1:1[199例(CF群)、202例(DCF群)、200例(CF+RT群)]に無作為に割り付けられた(表1)。年齢の中央値は約65歳で80%以上がECOG PS 0であった。cNやcStage含め患者背景は3群間で明らかな差はみられなかった。
 フォローアップ期間中央値は65.4ヵ月(0.5~127.4ヵ月)であった。5年生存割合はDCF群とCF群の比較では、DCF群で65.1%(95% CI: 58.0-71.2)、CF群で51.9%(95% CI: 44.7-58.6)とDCF群で有意に良好であった(HR[95% CI]:0.68[0.51-0.91])(図2)。CF+RT群とCF群の比較では、CF+RT群で60.2%(95% CI: 53.0-66.6)、CF群で51.9%(95% CI: 44.7-58.6)と、CF+RTは、有意な生存期間の延長を示せなかった(HR[95% CI]:0.86[0.66-1.14])。CF+RT群とDCF群の比較ではHR[95% CI]:1.27[0.95-1.71]であった。5年PFS割合に関しては、DCF群とCF群の比較では、DCF群で55.7%(95% CI: 48.6-62.3)、CF群で42.6%(95% CI: 35.6-49.3)とDCF群で有意に良好であった(HR[95% CI]:0.69[0.53-0.90])(図3)。CF+RT群とCF群の比較では、CF+RT群で53.5%(95% CI: 46.3-60.1)、CF群で42.6%(95% CI: 35.6-49.3)と有意差は認めなかった(HR[95% CI]:0.79[0.61-1.03])。
 死因に関しては、治療関連死はCF群、DCF群、CF+RT群でそれぞれ4例(3.8%)、4例(4.9%)、4例(4.0%)と大きな違いはみられなかったが、他病死はCF群、DCF群、CF+RT群でそれぞれ15例(14.2%)、10例(12.2%)、27例(27.3%)とCF+RT群で多くみられた(表2)。再発部位ごと(局所のみ/局所と遠隔の両方/遠隔のみ)の累積発生率に関しては、CF群、DCF群、CF+RT群でそれぞれ19.1%/13.1%/18.1%、17.4%/9.4%/12.4%、9.0%/10.5%/18.5%であった(図4)。後治療に関しては、CF群、DCF群、CF+RT群でそれぞれ101例(50.8%)、80例(39.6%)、73例(36.5%)に行われ、化学放射線療法はそれぞれ43例(42.6%)、38例(47.5%)、13例(17.8%)で行われた(表3)

表1 Patient characteristics (n = 601)(発表者の許可を得て掲載)

図2 Overall survival; after 5 years follow up(発表者の許可を得て掲載)

図3 Progression-free survival(発表者の許可を得て掲載)

表2 Cause of death(発表者の許可を得て掲載)

図4 Stacked cumulative incidence of the recurrence(発表者の許可を得て掲載)

表3 Subsequent therapy(発表者の許可を得て掲載)

まとめ

 5年フォローアップ成績においても、切除可能な局所進行食道扁平上皮癌に対して、術前CF療法に対する術前DCF療法のOS、PFSの延長が示された。本報告より、術前DCF療法が切除可能な食道扁平上皮癌に対する標準治療であることが改めて支持された。

(レポート:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 小倉 望)

References

1) Kato K, et al.: Lancet. Jun 11, 2024 [Online ahead of print] [PubMed
2) Eyck BM, et al.: J Clin Oncol. 39(18): 1995-2004, 2021 [PubMed
3) Ando N, et al.: Ann Surg Oncol. 19(1): 68-74, 2012 [PubMed

関連サイト

・JCOG9907試験[学会レポート
・JCOG1109試験[学会レポート
・ESOPEC試験[ClinicalTrials.gov