2025年5月30日~6月3日に米国シカゴとオンラインのハイブリッドで開催される、米国臨床腫瘍学会年次集会(2025 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®)より、大腸癌、胃癌、膵癌などの消化器癌の注目演題のレポートをお届けします。臨床研究の第一線で活躍するドクターにより執筆、監修されたレポートを楽しみにしてください。

演題レポート

Colorectal Cancer

Oral Abstract #3501
大腸癌

MSI-H/dMMRを有する切除不能大腸癌に対するNivolumab+Ipilimumab併用療法 vs 化学療法またはNivolumab単剤療法:CheckMate 8HW試験の拡大解析

Nivolumab (NIVO) plus ipilimumab (IPI) vs chemotherapy (chemo) or NIVO monotherapy for microsatellite instability-high/mismatch repair-deficient (MSI-H/dMMR) metastatic colorectal cancer (mCRC): Expanded analysis from CheckMate 8HW

Heinz-Josef Lenz, et al.

監修コメント

砂川 優先生

聖マリアンナ医科大学
臨床腫瘍学講座 主任教授

 これまで、MSI-H/dMMRを有する切除不能大腸癌(mCRC)の一次治療においては、KEYNOTE-177試験に基づきBevacizumab単剤療法が標準治療とされてきた。しかし今回のCheckMate 8HW試験のアップデート解析では、一次治療におけるNivolumab+Ipilimumab(NIVO+IPI)併用療法が、化学療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を大幅に延長し、ハザード比(HR)0.21という極めて顕著なベネフィットが示された(KEYNOTE-177試験ではBevacizumab vs 化学療法のHRは0.60)。
 また、化学療法群の約7割が二次治療として免疫チェックポイント阻害薬を受けていたにもかかわらず、PFS2においてもNIVO+IPI群はHR=0.28という高い有効性を維持しており、クロスオーバーの影響を考慮しても、一次治療からNIVO+IPIを導入する意義が示された。
 さらに、全治療ラインを対象とした比較でも、NIVO+IPIはNIVO単剤に比べてPFSを有意に延長しており、MSI-H/dMMRのmCRCに対する免疫療法は、抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体の併用戦略の優位性が明確となった。
 これらの結果は、NIVO+IPIが治療ラインにかかわらず高い有効性を発揮することを示しており、MSI-H/dMMRを有するmCRCに対する一次治療として、NIVO+IPIが新たな標準治療となることを強く支持するエビデンスといえる。
 一方、本試験では施設判定によるMSI-H/dMMRの症例が登録されていたが、中央判定(IHCまたはPCRベースの検査)では約15%の症例がMSS/pMMRと判定されていた点には注意が必要である。これらの偽陽性例は、免疫チェックポイント阻害薬の効果が得られにくいと考えられる。
 したがって、今後はMSI-H/dMMR診断の精度向上と、CheckMate 8HW試験で用いられた中央判定に準拠したスクリーニング体制の標準化が、実臨床での適切な治療選択を行う上で重要となる。

(聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 砂川 優)

CheckMate 8HW試験:MSI-H/dMMR mCRCにおけるNIVO+IPIの有効性と長期成績

 MSI-H/dMMRの切除不能大腸癌(mCRC)を対象に実施された国際共同第III相試験(CheckMate 8HW)において、Nivolumab+Ipilimumab(NIVO+IPI)併用療法は、一次治療において化学療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に延長し、さらに全治療ラインにおいても、NIVO単剤と比較してPFSの有意な延長を示したことが、すでに報告されている1,2)。本報告では、NIVO+IPI(vs NIVO単剤)の全治療ラインにおける拡大解析結果に加え、一次治療におけるNIVO+IPI(vs 化学療法)の長期フォローアップデータが発表された。

CheckMate 8HWの試験デザイン

 MSI-H/dMMR(施設内判定)を有し、免疫療法未施行、ECOG PS 0~1のmCRC患者が、NIVO単剤群、NIVO+IPI併用群、および化学療法群(mFOLFOX6またはFOLFIRI ±BevacizumabあるいはCetuximab)に、2:2:1で無作為に割り付けられた(2ライン以上の前治療歴を有する患者は、NIVOまたはNIVO+IPI群のみに割付された)。治療は、病勢進行、忍容できない毒性、患者の希望による中止、または最大2年間の治療(NIVOまたはNIVO+IPI群のみ)まで継続された。
 主要評価項目は、中央判定(IHCまたはPCR検査)にて確認されたMSI-H/dMMR患者におけるPFSであり、①一次治療におけるNIVO+IPI vs 化学療法の比較、および②全治療ラインにおけるNIVO+IPI vs NIVOの比較のdual primary endpointであった。副次評価項目には、安全性、全生存期間(OS)、PFS2(無作為化から二次治療後の病勢進行、三次治療の開始、または死亡までの期間)、客観的奏効割合(ORR)などが含まれていた。層別化因子には、前治療数(0、1、2以上)および原発部位(右側、左側)が用いられた。データカットオフ時点(2024年8月28日)における全体の追跡期間中央値は47.0カ月であった。

患者背景:中央判定でMSI-H/dMMRが確認された症例は全体の約83%

 NIVO群に353例、NIVO+IPI群に354例、化学療法群に132例が登録された。このうち、中央判定でMSI-H/dMMRが確認された症例は、NIVO群で286例(81%)、NIVO+IPI群で296例(84%)、化学療法群で113例(86%)と、全体の約83%を占めていた。また、前治療歴(0、1、2以上)の割合は、NIVOおよびNIVO+IPI群ともに57%、19%、24%、化学療法群で77%、23%、0%であった。

NIVO+IPI vs 化学療法の長期フォローアップデータ:PFSおよびPFS2の結果

 中央判定でMSI-H/dMMRが確認された症例において、NIVO+IPI併用療法は化学療法と比較して、一次治療におけるPFSを大幅に延長した(PFS中央値:54.1カ月 vs 5.9カ月、ハザード比[HR]=0.21、95%信頼区間[CI]0.14-0.31)。また、12、24、36カ月時点でのPFS率は、NIVO+IPI群で79%、74%、69%と高い水準を維持しており、化学療法群(22%、11%、11%)との差は顕著であった(図1)
 さらに、化学療法群では後治療として免疫療法を受けた症例が60例(71%)存在したにもかかわらず、NIVO+IPI群はPFS2においても良好な成績を示した(PFS2中央値:未到達 vs 30.3カ月、HR=0.28、95% CI: 0.18-0.44)(図2)

図1 Progression-free survival: NIVO + IPI vs chemo (1L) (発表者の許可を得て掲載)

図2 PFS2: NIVO + IPI vs chemo (1L)(発表者の許可を得て掲載)

NIVO+IPI vs NIVOの拡大解析結果:全治療ラインにおける有効性・安全性の比較

 中央判定でMSI-H/dMMRが確認された症例において、NIVO+IPI併用療法はNIVO単剤療法と比較して、全治療ラインにおけるPFSを有意に延長した(PFS中央値:未到達 vs 39.3カ月、HR=0.62、95% CI: 0.48-0.81、p=0.0003、今回と同様の追跡期間での結果は、既報の論文においてすでに示されている)2)
 さらに、PFS2においても、NIVO+IPI群は良好な成績を示し、中央値はいずれの群も未到達であったが、HRは0.57(95% CI: 0.42-0.78)とリスク低下が認められた(図3)。ORRは、NIVO+IPI群で71%(完全奏効[CR]30%、部分奏効[PR]40%)、NIVO群で58%(CR 28%、PR 30%)となり、NIVO+IPI群において有意な向上が確認された(p=0.0011)。また、奏効が得られた患者におけるPFSは、いずれの群においても中央値は未到達であった。
 治療関連有害事象(TRAE)は、NIVO+IPI群で81%(Grade 3/4は22%)、NIVO群で71%(Grade 3/4は14%)に認められた。治療関連死亡はNIVO+IPI群で2例(心筋炎、肺炎)、NIVO群で1例(肺炎)に認めた。また、免疫学的機序が関与するTRAEは、両群とも治療開始後6カ月以内に多く発現し、皮膚障害および内分泌障害はNIVO+IPI群でより高頻度であった。ただし、Grade 3/4のTRAEを呈したNIVO+IPI群の患者においてもPFS率は良好(12、24、36カ月時点でそれぞれ83%、77%、74%)であり、ORRも77%(CR 38%、PR 38%)と、全体の傾向と一致した良好な結果であった。

図3 PFS2: NIVO + IPI vs NIVO (all lines)(発表者の許可を得て掲載)

結論

 一次治療におけるNIVO+IPI併用療法は、化学療法と比較してPFSおよびPFS2の有意な延長を示した。さらに、全治療ラインを対象とした解析においても、NIVO+IPI併用療法はNIVO単剤療法と比較してPFSおよびPFS2の有意な改善を示した。また、安全性に関しては、新たな懸念となるシグナルは認められなかった。以上から、MSI-H/dMMR mCRC患者に対する一次治療において、NIVO+IPI併用療法が新たな標準治療の選択肢となると考えられる。

(レポート:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 講師 新井 裕之)

References

1) André T, et al.: N Engl J Med. 391(21): 2014-2026, 2024[PubMed
2) André T, et al.: Lancet. 405(10476): 383-395, 2025[PubMed

関連サイト

・CheckMate 8HW試験[ClinicalTrials.gov
・ASCO 2024[学会レポート