GI cancer-net 海外学会速報レポート 2018.1. San Francisco

2018年1月18日~20日に米国サンフランシスコにて開催された2018年 消化器癌シンポジウム(2018 Gastrointestinal Cancers Symposium)より、大腸癌や胃癌、肝細胞癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には“Expert's view”として、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。

監修・レポーター

Abstract #1

胃癌

深達度SS以深の切除可能胃癌に対する腹腔内大量生食洗浄(EIPL: extensive intraoperative peritoneal lavage)の意義に関する無作為化比較第III相試験(CCOG1102)

Long-term outcome of a randomized phase III trial exploring the significance of extensive intraoperative peritoneal lavage in addition to standard treatment for ?T3 resectable gastric cancer: CCOG1102

Daishi Morimoto, et al.

Expert’s view
谷口 浩也先生

谷口 浩也先生

愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長

胃癌の治癒切除後の腹膜播種再発は、予後規定因子であり、その再発率を低下させるために、周術期補助化学療法などが試みられている。本研究は、手術時の操作に腹腔内大量洗浄(EIPL)を実施することで再発が予防できないかを明らかにする試験であった。理論上は、1回の洗浄で癌細胞数が1/10に減少すると考えれば、10回の洗浄では1/1010にまで腹腔内の癌細胞数を減少させることができる。試験の結果は、主要評価項目のDFSはEIPL群が良好な傾向であるも残念ながら統計学的有意差はなかった。先行研究からEIPL群のDFS改善率を15%と見積もり目標症例数が算出されたが、期待が大きすぎた可能性が高い。EIPLの安全性やコストを考えれば5%でも改善が認められるのであれば臨床的には十分有用であろう。実際の再発部位に関するデータは本発表では開示されなかったが、腹膜播種再発リスクの高い術後腹腔内感染発症例ではEIPLの有効性が示唆された。大規模試験での再検証が望まれる。

(コメント・監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也)

腹腔内大量生食洗浄とは?

進行胃癌患者はしばしば腹膜播種をきたし今もなお予後不良である1-4)。深達度SS以深の切除可能胃癌に対する腹腔内大量生食洗浄(EIPL: extensive intraoperative peritoneal lavage)の有効性が2009年にKuramotoらによってAnnals of Surgeryに報告された5)。この検討は、症例数の少ない無作為化比較第II相試験であったため、今回、第III相試験を行いその有効性の検証が試みられた。

合計10Lの大量生食洗浄

閉腹前に腹腔内の生食洗浄を1Lずつ10回(合計10L)行うEIPL群と3Lの生食で洗浄を行う非EIPL群で無作為化し比較試験が行われた。術後には、pStage Iの患者は無治療、pStage II/IIIの患者にはS-1の12ヵ月投与が行われた。主要評価項目は3年無再発生存期間(DFS)、副次評価項目は全生存期間(OS)、腹腔内無再発期間、有害事象であった。

対象症例は、1)年齢が20歳以上80歳以下、2)組織学的に胃癌と診断されたもの、3)深達度がSS以深(SS~SI)、4)H0かつM0、5)P0またはP1(横行結腸より頭側の腹膜に少数の播種巣を認める)、6)D2リンパ節郭清を伴う幽門側胃切除術または胃全摘術を施行し、R0またはR1手術が可能と判断されるもの、とした。

EIPL群で良好なDFSであるも有意差を認めず

2011年7月から2014年1月までに15施設から314人が登録された(図1)。

図1
図1

発表者の許可を得て掲載(approved by Daishi Morimoto)

R1/R2切除であった症例を除いて、295人(EIPL群145人、非EIPL群150人)が解析された。

患者背景の年齢、性別、BMI、補助化学療法、術式(胃切除、胃全摘術)、リンパ節郭清の程度、合併切除、手術時間、出血量に両群の差を認めなかった。術後の病理学的所見についても、組織型、T因子、N因子、P因子、CY因子、Stageに差を認めなかった。術後合併症発症割合は、EIPL群20.0%、非EIPL群27.3%であり、差を認めなかった。腹腔内手術部位感染(SSI)は、EIPL群の10.3%、非EIPL群の12.7%に発生していた。

主要評価項目のDFS率はEIPL群63.9%(3年)、58.0%(5年)であったのに対して、非EIPL群59.7%(3年)、51.9%(5年)であった(図2)。

図2
図2

発表者の許可を得て掲載(approved by Daishi Morimoto)

HR=0.82(95% CI: 0.57-1.16)、p=0.25で、有意差はなかったが、Kaplan-Meier曲線はEIPL群が非EIPL群よりも常に上にあった。全生存(OS)率は、EIPL群75.0%(3年)、62.5%(5年)、非EIPL群73.7%(3年)、57.1%(5年)であった[HR=0.91(95% CI: 0.60-1.37)、p=0.65]。

サブグループ解析では、腹腔内SSI(G2以上)を発症した例で、3年DFS率はEIPL群(n=15)80.0%(3年)、68.6%(5年)に対して非EIPL群(n=19)47.4%(3年)、47.4%(5年)であった(図3)[HR=0.39(95% CI: 0.11-1.16)、p=0.10]。

図3
図3

発表者の許可を得て掲載(approved by Daishi Morimoto)

一方、腹腔内SSIを発症しなかった例では、DFS率はEIPL群(n=130)62.1%(3年)、56.7%(5年)に対して非EIPL群(n=131)が61.5%(3年)、52.6%(5年)で差を認めなかった(図3)[HR=0.89(95% CI: 0.62-1.30)、p=0.56]。

EIPLは安全に実施できたが有効性は検証できず

進行胃癌患者に対するEIPLは安全に実施可能であった。過去の小規模な試験から見積もった主要評価項目は達成できなかった。しかしながら、DFSのKaplan-Meier曲線はEIPL群のほうが常に上をいっており、特に腹腔内感染を合併した例では、EIPL群でDFSが良好であった。特に、術後合併症を起こした例での再発抑制効果が大きい可能性が示唆された。

(レポート:関西ろうさい病院 下部消化器外科 副部長 賀川 義規)

References
  • 1) Nashimoto A, et al.: J Clin Oncol. 21(12): 2282-2287, 2003[PubMed
  • 2) Yoo CH, et al.: Br J Surg. 87(2): 236-242, 2000[PubMed
  • 3) Sasako M, et al.: N Engl J Med. 359(5): 453-462, 2008[PubMed
  • 4) Kodera Y, et al.: Int J Cancer. 79(4): 429-433, 1998[PubMed
  • 5) Kuramoto M, et al.: Ann Surg. 250(2): 242-246, 2009[PubMed