ESMO2019 confress 演題レポート Barcelona, Spain 27 Sep - 01 Oct 2019

2020年9月19日~21日に完全にバーチャルで開催された 2020年 欧州臨床腫瘍学会学術集会(ESMO Virtual Congress 2020)より、上部消化菅、肝胆膵の注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載します。

演題レポート

Presidential Symposium

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胃癌
食道胃接合部癌
食道癌

切除不能進行・再発胃癌/食道胃接合部癌/食道腺癌の一次治療におけるNivolumab+化学療法と化学療法を比較した国際共同無作為化比較第III相試験(CheckMate 649試験)

Nivolumab (NIVO) plus Chemotherapy (Chemo) Versus Chemo as First-Line (1L) Treatment for Advanced Gastric Cancer/Gastroesophageal Junction Cancer (GC/GEJC)/Esophageal Adenocarcinoma (EAC): First Results of the CheckMate 649 Study

Markus Moehler, et al.

監修コメント

加藤 健 先生

国立がん研究センター中央病院 頭頸部内科 科長

 現在のところ、胃癌に対する免疫チェックポイント阻害剤の臨床試験でポジティブな結果を示したのは、三次治療以降の患者を対象に、Nivolumabがプラセボに対する優越性を示したATTRACTION-2試験のみである。その後Pembrolizumabを用いた臨床試験では、二次治療を対象としたKEYNOTE-061試験、一次治療を対象としたKEYNOTE-062試験、Avelumabを用いて三次治療を対象としたJAVELIN Gastric 300試験、一次治療のメンテナンスでのJAVELIN Gastric 100試験のいずれもネガティブな結果であり、胃癌に対する免疫チェックポイント阻害剤はフィットしないのではという懸念もあったなかでの、今回の結果である。
 CheckMate 649試験は、ベースラインの化学療法としてFOLFOXあるいはCapeOxというOxaliplatin併用治療が用いられているところが、KEYNOTE-062試験との違いである。当初、化学療法とNivolumab+Ipilimumab併用治療との2群併用の2つのアームで開始されたが、途中で化学療法+Nivolumab群が加わり、さらに途中でNivolumab+Ipilimumab群が毒性によりcloseされ、検出力を高めるために症例集積が追加されるなどして結果が出された。主要評価項目はCPS≧5集団でのOSとPFSであり、いずれも統計学的有意差をもって、化学療法に対するNivolumabの優越性が示された。また、CPS<5も含めた全症例での優越性も示されたため、胃癌に対する新しい標準治療と結論づけられた。
  CPS≧5集団に対する有効性は異論をはさむ余地はないが、CPS<5集団については議論があるところである。明らかな数字は出ていないが、CPS≧5集団よりも、メリットは少ない可能性も考えられるため、慎重な意見もある。全集団で統計学的に有意な差が出ていること、そして化学療法との併用で、毒性がそれほど増えるわけではないことを考えると、CPSによらず、化学療法とNivolumabの併用を、初回治療として行うことで問題ないと思われた。ただ、今回の集団は、後治療での免疫チェックポイント阻害剤の使用については、8%と低いため、後治療でNivolumabが入った場合のOSについては不明である。
 今回のESMOでは、食道癌のみならず、胃癌においても、新たな標準治療が誕生し、上部消化管癌の化学療法における、新たな歴史が開かれた記念すべき学会となった。

(コメント・監修:国立がん研究センター中央病院 頭頸部内科 科長 加藤 健)

胃癌/食道胃接合部癌/食道腺癌に対するNivolumabの可能性

 HER2陰性の切除不能進行・再発胃癌/食道胃接合部癌に対する一次治療の全生存期間(OS)は不良である。複数の治療歴を有する切除不能進行・再発胃癌/食道胃接合部癌においてNivolumab(Nivo)はプラセボと比較して有意にOSを延長した1)。さらに、Nivoと化学療法(Chemo)の併用療法(Nivo+Chemo)は切除不能進行・再発胃癌/食道胃接合部癌に対する一次治療として有望な抗腫瘍効果が確認されている2)。また、Combined Positive Score(CPS)によってPD-L1陽性割合を評価した場合、CPS≧5の胃癌/食道胃接合部癌/食道腺癌では免疫チェックポイント阻害薬がより有効であることが報告されている3)。CheckMate 649試験は胃癌/食道胃接合部癌/食道腺癌の一次治療としてPD-1抗体薬併用療法を検証した大規模な国際共同無作為化比較第III相試験であり、今回の報告はNivo+Chemo vs. Chemoの初回報告である。

CPS≧5症例の一次治療におけるNivoの上乗せ効果の検証

 本試験の主な適格基準は切除不能進行・再発胃癌/食道胃接合部癌/食道腺癌で未治療であること、HER2が陰性または未測定であること、Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status(ECOG PS)0-1であった。当初はNivo+IPI(Nivolumab 1 mg/kg+Ipilimumab 3 mg/kgを3週毎に4コース施行した後に、Nivolumab 240 mgを2週毎)とNivo+Chemo(Nivolumab 360 mg+XELOXを3週毎、またはNivolumab 240 mg+FOLFOXを2週毎)とChemo(XELOXを3週毎、またはFOLFOXを2週毎)の3群に1:1:1で割り付けられる予定であったが、Nivo+IPI群への割付けが中止となり、Nivo+Chemo群に789例、Chemo群に792例が割り付けられた。
 主要評価項目はCPS≧5の症例におけるOSと無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目はCPS≧1の症例、CPS≧10の症例、全体集団それぞれでのOSとPFS、奏効割合(ORR)であった。   

OS、PFSにおいてChemoに対するNivoの上乗せ効果が示された

 2020年5月27日のデータカットオフ時で、最短の観察期間が12.1ヵ月であった。CPS≧5の症例はNivo+Chemo群が473例、Chemo群が482例であった。主な患者背景は両群で同程度であり、Nivo+Chemo群vs. Chemo群に関して、アジアが25% vs. 24%、胃/食道胃接合部/食道が70/18/12% vs. 69/18/13%、Microsatellite instability-high(MSI-high)が4% vs. 3%、ChemoとしてFOLFOXを選択されたのは51% vs. 52%で、XELOXは49% vs. 48%であった。
 主要評価項目であるCPS≧5の症例におけるOSの中央値はNivo+Chemo群で14.4ヵ月、Chemo群で11.1ヵ月とNivo+Chemo群で有意に良好であった[ハザード比(HR)=0.71、98.4% CI: 0.59-0.86、p<0.0001](図1)。階層的に解析されたCPS≧1の症例、全体集団ではOSに関してNivo+Chemo群vs. Chemo群で14.0ヵ月vs. 11.3ヵ月(HR=0.77、99.3% CI: 0.64-0.92、p=0.0001)、13.8ヵ月vs. 11.6ヵ月(HR=0.80、99.3% CI: 0.68-0.94、p=0.0002)と、両集団においてもNivo+Chemo群の優越性が示された(図2)。また、CPS≧5の症例におけるOSのサブグループ解析では全項目においてNivo+Chemo群で良好な傾向を認めた。

図1 Overall survival(CPS≧5)(発表者の許可を得て掲載)

図1

図2 Overall survival(CPS≧1、All randomized)(発表者の許可を得て掲載)

図2

 同時に主要評価項目とされたCPS≧5の症例におけるPFSの中央値もNivo+Chemo群で7.7ヵ月、Chemo群で6.0ヵ月とNivo+Chemo群で有意に良好であった(HR=0.68、98% CI: 0.56-0.81、p<0.0001)(図3)。OS同様にCPS≧1の症例、全体集団におけるPFSも解析されたが、Nivo+Chemo群vs. Chemo群でそれぞれ7.5ヵ月vs. 6.9ヵ月(HR=0.74、95% CI: 0.65-0.85)、7.7ヵ月vs. 6.9ヵ月(HR=0.77、95% CI: 0.68-0.87)であり、両集団ともNivo+Chemo群でPFSが延長する傾向があった(図3)。

図3 Progression-free survival(CPS≧5、CPS≧1、All randomized)(発表者の許可を得て掲載)

図3

 また、CPS≧5の症例におけるORRは60% vs. 45%(p<0.0001)とNivo+Chemo群で有意に高かった。
  全体集団における治療関連有害事象は全gradeでNivo+Chemo群vs. Chemo群において94% vs. 89%、grade 3以上で59% vs. 44%であった。

まとめ

 未治療の切除不能進行・再発胃癌/食道胃接合部癌/食道腺癌に対してChemoに対するNivo併用によってCPSにかかわらずOS、PFSの延長が示された。Nivo+Chemoは切除不能進行・再発胃癌/食道胃接合部癌/食道腺癌の一次治療における新しい標準治療になり得る成績を示した。

(レポート:愛知県がんセンター 薬物療法部 松原 裕樹)

References
  • 1) Kang YK, et al.: Lancet. 390(10111): 2461-2471, 2017 [PubMed
  • 2) Boku N, et al.: Ann Oncol. 30(2): 250-258, 2019 [PubMed
  • 3) Lei M, et al.: Cancer Res. 79(13 Suppl): Abstract nr 2673, 2019 [Cancer Res
関連サイト