GI cancer-net 海外学会速報レポート 2019年1月サンフランシスコ

2019年1月17日~19日に米国サンフランシスコにて開催された2019年 消化器癌シンポジウム(2019 Gastrointestinal Cancers Symposium)より、大腸癌・胃癌・食道癌・膵癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には“Expert's view”として、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。

Abstract #187

胆道癌

BRAF V600E遺伝子変異を有する固形癌に対するDabrafenib+Trametinib併用療法の第II相試験 -胆道癌コホート-

Efficacy and safety of dabrafenib + trametinib in patients with BRAF V600E-mutated biliary tract cancer: A cohort of the ROAR basket trial

Zev A. Wainberg, et al.

Expert’s view

上野 誠先生

神奈川県立がんセンター
消化器内科 医長

進行胆道癌の分子標的薬開発では、一時、CetuximabやCediranibの有効性も期待されたが、優越性を検証することは出来なかった。胆道癌全体としては、依然として、細胞傷害性抗癌剤の開発が主流である。一方で、近年、分子マーカー別の治療開発も期待されている。胆道癌の中で、特に肝内胆管癌では、FGFR2融合遺伝子が10~20%程度、IDH1/2が22~28%程度、出現することが知られている。今回、標的となったBRAF V600Eも、肝内胆管癌で5~7%に出現すると報告されている1,2)。発表中において、どの部位の胆道癌であったかは明示されていないが、多くが肝内胆管癌であったと類推される。結果においてDabrafenib+Trametinib併用療法の奏効割合、腫瘍制御割合は非常に高く、今後、BRAF V600E胆道癌という稀少フラクションにおいて、同治療は標準的治療と考えられる。本邦でもがんゲノム診断・治療の時代となり、がん遺伝子パネル検査により多くのがん遺伝子変異が診断されることになる。多くのがん遺伝子変異は、限られた症例での発現しかなく、このような稀少フラクションの診断・治療がどのように行われていくか注目していく必要がある。

(コメント・監修:神奈川県立がんセンター 消化器内科 医長 上野 誠)

BRAF V600E遺伝子変異と進行胆道癌について

DabrafenibはBRAF V600E遺伝子変異を標的とした分子標的薬であり、BRAF V600E遺伝子変異陽性の悪性黒色腫において、それまでの標準治療であったDacarbazineに比べて有意に生存期間の延長を示した3)。さらにDabrafenibとMEK阻害剤であるTrametinibとの併用療法の有効性が示され、悪性黒色腫の標準治療の一つとなった4)BRAF V600E遺伝子変異陽性であれば、他癌種においてもDabrafenibとTrametinibの併用療法の有効性が期待され、実際に未分化甲状腺癌、および非小細胞肺癌では有効性が示されている。胆道癌におけるBRAF V600E遺伝子変異陽性率は5~7%と報告され1,2)、少ないながらも存在し、治療選択肢が少なく予後不良である胆道癌においても、BRAF V600E遺伝子変異は治療標的として期待されている。ROAR basket trialはBRAF V600E遺伝子変異陽性固形癌に対するDabrafenibとTrametinib併用療法の第II相試験であり、今回は胆道癌コホートの結果が報告された。

主要評価項目を担当医判断による奏効割合とした、Dabrafenib+Trametinib併用療法の第II相試験

本試験の主な適格規準は、1)18歳以上、2)切除不能または術後再発、3)BRAF V600E遺伝子変異陽性、4)ECOG PS 0-2、5)Gemcitabineに不応であることであった。対象患者は、Dabrafenib 150mg 1日2回とTrametinib 2mg 1日1回の経口投与を受け、忍容できない毒性発現、または不応となるまで同治療を継続した。主要評価項目は、担当医判断による奏効割合であり、副次評価項目は、無増悪生存期間、病勢制御割合、全生存期間、バイオマーカーとの関連、安全性であった。

32名の胆道癌患者が登録、奏効割合は42%を示す

557人にBRAF V600E遺伝子変異の検索がなされ、49人が陽性、うち35人が登録された。さらにBRAF V600E遺伝子変異の中央判定が行われ、最終的に32人が陽性と確認された。登録患者の背景は、年齢中央値が57歳であり、28名(80%)に2レジメン以上の治療歴があった。画像評価が可能であった33名のうち14名(42%、担当医判断)に奏効を認め(図1)、中央判定でも36%の奏効が確認された。また、奏効例のうち7名(50%)は6ヵ月超の奏効期間が認められた。無増悪生存期間中央値は9.2ヵ月(95%信頼区間:5.4-10.1)であり、生存期間中央値は11.7ヵ月(95%信頼区間:7.5-17.7)であった。主な有害事象は発熱40%、皮疹29%、吐き気23%、下痢23%、疲労23%であり、Grade 3/4の有害事象は20人(57%)に認めた。バイオマーカー研究では、MAPK pathwayの遺伝子(BRAF、HRAS、KRAS、MAP3K8、NRAS、RAF1、NF1)が高発現している患者ほど、奏効が得られない傾向が認められた(negative predictive marker)。

図1

発表者の許可を得て掲載(approved by Zev A. Wainberg)

まとめ

BRAF V600E遺伝子変異陽性胆道癌に対して、Dabrafenib+Trametinib併用療法は忍容可能な毒性と有望な治療効果が認められた。この結果から、胆道癌において、BRAF V600Eは検索すべき遺伝子変異であると言える。

(レポート:神奈川県立がんセンター 消化器内科 小林 智)

References
  • 1) Siegel RL, et al.: CA Cancer J Clin. 65(1): 5-29, 2015 [PubMed]
  • 2) Valle J, et al.: N Engl J Med. 362(14): 1273-1281, 2010 [PubMed]
  • 3) Hauschild A, et al.: Lancet. 380(9839): 358-365, 2012 [PubMed]
  • 4) Robert C, et al.: N Engl J Med. 372(1): 30-39, 2015 [PubMed]

監修・レポーター

  • 監修

    加藤 健先生

    国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長

  • レポーター

    青木 雅彦先生

    国立がん研究センター中央病院 消化管内科

  • 担当:

    #2 #5
    #62

  • 監修

    山﨑 健太郎先生

    静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長

  • レポーター

    中野 倫孝先生

    九州がんセンター 消化管・腫瘍内科

  • 担当:

    #7 #480
    #484

  • 監修

    上野 誠先生

    神奈川県立がんセンター 消化器内科 医長

  • レポーター

    小林 智先生

    神奈川県立がんセンター 消化器内科

  • 担当:

    #187 #188
    #189