大腸癌
再発高リスクStage III結腸癌治癒切除例に対する術後補助化学療法としてのSOX療法とUFT/LV療法の無作為化比較第III相試験:ACTS-CC 02
A randomized phase III trial of S-1/oxaliplatin (SOX) versus UFT/leucovorin as adjuvant chemotherapy for high-risk stage III colon cancer: the ACTS-CC 02 trial
Takao Takahashi, et al.
Expert’s view
これまで、術後補助化学療法としてOxaliplatin併用療法は欧米で実施された3つの第III相試験(MOSAIC1)、XELOXA2)、NSABP C-073))すべてにおいて、フッ化ピリミジン単独療法に対して生存期間延長効果を示している。しかし、本邦で実施された本試験においては再発高リスクStage III結腸癌に対する術後補助化学療法としてのSOX療法がUFT/LV療法に対する有用性を示せなかった。本邦の良好な手術成績に対してOxaliplatin併用療法の有用性は乏しいと解釈する向きもあるかと思うが、本試験のlimitationとして、(1)術後補助化学療法としてのSOX療法の有用性を検証した初めての試験、(2)Oxaliplatinの用量がFOLFOX(85mg/m2、2週ごと)、XELOX(130mg/m2、3週ごと)といった標準治療と比較し低く設定された(100mg/m2、3週ごと)、(3)症例集積不良のため予定された症例数、イベントが集積できなかった、などが挙げられ、術後補助化学療法の標準治療であるFOLFOXやXELOXの有効性を検証した試験ではないことは忘れてはならない点である。一方、本試験から示唆された、再発リスクによるOxaliplatin併用の有用性の違いは重要な所見であり、今後は臨床病理学的因子のみならず分子生物学的な因子も加えたより精度の高い再発、予後予測をもとに、術後補助化学療法の適応、および各レジメンの適応を再検討する必要があると考えられる。
(コメント・監修:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山﨑 健太郎)
本邦再発高リスクStage III結腸癌の術後補助化学療法としてSOX療法は有用か?
Oxaliplatinを含んだレジメンはStage III結腸癌の術後補助化学療法における標準治療として広く推奨されている(MOSAIC試験1)、XELOXA(NO16968)試験2)、NSABP C-07試験3))。本邦で実施された臨床試験において、Stage III結腸癌術後補助化学療法としての経口フッ化ピリミジン単独療法は良好な成績を示している(3年無病生存率72.5~82.0%)4-6)。そのためrisk-benefitの観点から、本邦ではフッ化ピリミジン単独療法は標準治療のオプションの一つとされている。しかしながら、Stage III結腸癌の中でもN2など予後の悪い対象においては十分な治療成績が得られておらず、より治療強度の高いレジメンが必要であると考えられる。これらを背景に、再発高リスクStage III結腸癌に対する術後補助化学療法としてのSOX療法の優越性を、UFT/LVを対照に検証する無作為化第III相試験が計画された。
主要評価項目を無病生存期間として優越性を検証
対象は、20~80歳、PS 0-1の治癒切除が実施された結腸癌、直腸S状部癌、上部直腸癌、pTany、pN2(再発高リスクStage III)の患者である。層別化因子は原発部位(結腸、上部直腸)、リンパ節転移個数(4~6、≧7)、施設とした。
治療方法は、対照群であるUFT/LV群は5週毎にUFT(300-600mg/日)とLV(75mg/日)を第1日から第28日に投与し、これを5サイクル(25週)行った。試験群であるSOX群は3週毎にS-1(80-120mg/日)を第1日から第14日に、Oxaliplatin(100mg/m2)は第1日に投与し、これを8サイクル(24週)行った。
主要評価項目は無病生存期間(DFS)で、副次評価項目は無再発生存期間(RFS)、全生存期間(OS)、安全性であった。統計学的設定は、3年DFSの期待ハザード比(HR)0.78(UFT/LV: 65.0%、SOX: 71.5%)、両側α=0.05、検出力80%とし、必要イベント数は各群510例、目標登録数は1,200例とされた(図1)。
Stage IIIC、N2b症例に対してはSOX療法の有効性が示唆された
2010年4月から2014年10月にかけて260施設より966例が登録され、UFT/LV群に484例、SOX群に482例が1:1に無作為化され、それぞれ478例(UFT/LV群)、477例(SOX群)が解析された。患者背景に偏りはなく、年齢中央値はUFT/LV群65.5歳、SOX群65.0歳、原発部位(右側/左側/直腸S状/上部直腸)はそれぞれ、40.0%/27.6%/19.0%/13.4%、38.2%/29.6%/18.4%/13.8%であった。病期(Stage IIIA/IIIB/IIIC)はUFT/LV群(1.3%/51.3%/47.5%)、SOX群(1.3%/49.1%/49.7%)であった(表1)。
主要評価項目の3年DFSはUFT/LV群60.6%、SOX群62.7%と、HR=0.90、p=0.2780と統計学的な有意差を2群に認めなかった(図2)。サブグループ解析では、T因子、N因子、病期に関して行われ、T4群ではHR=0.85、N2b群ではHR=0.76、Stage IIIC群ではHR=0.82と再発高リスク因子を有する患者群においては、SOX療法の有用性が示唆されたが、統計学的に有意ではなかった(図3)。副次評価項目である3年RFSはUFT/LV群62.7%、SOX群65.0%、HR=0.91、p=0.3697、3年OSはUFT/LV群89.5%、SOX群88.0%、HR=1.03、p=0.8214といずれも有意差を認めなかった。
安全性の評価は、UFT/LV群472例、SOX群459例に対して行われ、Grade 3以上の有害事象は、UFT/LV群vs. SOX群でそれぞれ、好中球減少1.5% vs. 17.2%、血小板減少0.6% vs. 2.8%、悪心0.8% vs. 2.0%、下痢8.1% vs. 5.4%、末梢神経障害0.2% vs. 4.6%であった。
結語
本試験の結果から再発高リスクStage III結腸癌に対する術後補助化学療法としてのSOX療法のUFT/LV療法に対する優越性は示されなかった。しかしながら、Stage IIIC、N2b症例のような病期の進行した患者群に対してはOxaliplatin併用療法が有効かもしれない。
(レポート:九州がんセンター 消化管・腫瘍内科 中野 倫孝)
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- 6) Hamaguchi T, et al.: Lancet Gastroenterol Hepatol. 3(1): 47-56, 2018 [PubMed]
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター
消化器内科 医長