食道癌
Stage I食道癌に対する食道切除術と化学放射線療法の並行群間比較試験(JCOG0502)
Parallel-group controlled trial of esophagectomy versus chemoradiotherapy in patients with clinical stage I esophageal carcinoma (JCOG0502)
Ken Kato, et al.
Expert’s view
残念ながらランダム化部分は症例集積不良のため終了されたものの、非ランダム化部分において根治的化学放射線療法の全生存期間における非劣性が示された。無再発生存期間は食道切除群で良好であったことから、根治的化学放射線療法後の遺残・再発は内視鏡または外科的手術により救済可能であったことが示唆される。実際、根治的化学放射線療法群における食道切除回避生存率は3年で88.7%、5年で80.4%と高率に食道温存が可能であった。また結語のとおり、本試験の結果からStage I食道癌に対する根治的化学放射線療法は標準治療の一つと考えられるが、今後は食道切除との適切な選択が必要になると思われる。そのためには、臨床病理学的な背景因子によるサブグループ解析結果や再発形式、後治療ごとの治療経過などの報告も待たれる。最後に、長期間にわたる臨床試験を根気強く実施し、標準治療に新たな選択肢を示した本試験の研究者に敬意を表します。
(コメント・監修:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山﨑 健太郎)
Stage I食道癌に対する化学放射線療法への期待
内視鏡的治療の適応となる早期の病変を除いて、Stage I食道癌に対する標準治療は食道切除術である1)。一方で、より低侵襲な治療法として、化学放射線療法が食道切除術と同等の有効性を示す可能性が示唆されている2)。Stage I食道癌に対する化学放射線療法の同時併用療法の有効性を検討した第II相試験(JCOG9708)では、根治的化学放射線療法は完全奏効割合87.5%、5年生存割合75.5%と有効な治療成績を示した3)。これらを背景にStage IA食道癌に対する食道切除術に対する根治的化学放射線療法の非劣性試験が計画された。
主要評価項目を全生存期間として非劣性を検討
対象は扁平上皮癌、腺扁平上皮癌、類基底細胞癌と組織学的に診断されたcStage IA(T1bN0M0)の胸部食道癌であった。食道癌に対する内視鏡的粘膜切開術(EMR)・内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)、また他癌種に対する化学療法・放射線療法・内分泌療法の前治療歴のない、20~75歳、ECOG PS 0-1の患者であった。方法は、無作為化に同意の得られた患者はA群:食道切除術、B群:根治的化学放射線療法に無作為割り付けされ、無作為化に同意の得られなかった患者はC群:食道切除術、D群:根治的化学放射線療法に研究者の判断のもと登録された。食道切除術群においては、D2以上のリンパ節郭清術を伴う食道切除術が施行された。根治的化学療法群においては、5-FU 700 mg/m2 day 1-4, day 29-32、CDDP 70 mg/m2 day 1, day 29、放射線療法60 Gy/30 Fr(5 days/week)を6週間1コースとして治療された。
主要評価項目はA・B群の全生存期間(OS)、副次評価項目はC・D群のOS、B・D群の完全奏効割合、各群における有害事象、無増悪生存期間であった。
統計学的デザインは、無作為化部分は片側α0.1、検出力70%、非劣性マージンをハザード比(HR)1.78で設定し、計114例を目標登録数として実施された。非無作為化部分は片側α0.025、検出力85%、非劣性マージン1.78で計画され、各群156例を目標登録数として実施された。非無作為化部分における比較には、weighting propensity scoreが用いられた。
化学放射線療法のOSにおける非劣性が示された
JCOGの38施設から、A群4例、B群7例、C群209例、D群159例の計379例が登録され、無作為化部分は症例集積が不十分であったため終了し、非無作為化部分の比較が行われた(図1)。
患者背景では、年齢中央値(C群:62歳、D群:65歳)、性別、PS、原発巣部位(上部/中部/下部;C群27/131/51、D群13/98/48)、組織型(扁平上皮癌/その他;C群208/1、D群159/0)に偏りは認められなかったが、腫瘍長径(≦4cm/>4cm;C群146/63、D群99/60)、多発病変の有無(無/有;C群189/20、D群135/24)では、化学放射線療法群に腫瘍長径が長く、多発病変を有する患者が多い傾向にあった。主要評価項目である無作為化部分のOSは症例集積が少なく評価が困難であったが、副次評価項目である非無作為化部分の3年OS中央値はC群:94.7%(95% CI: 90.6-97.0)、D群:93.1%(95% CI: 87.9-96.1)、5年OS中央値はC群:86.5%(95% CI: 81.0-90.5)、D群:85.5%(95% CI: 78.9-90.1)、調整済みHRは1.052(95% CI: 0.674-1.640)と統計学的有意に、化学放射線療法群の非劣性が示された(図2)。3年PFSはC群:84.1%(95% CI: 78.4-88.4)、D群:76.1%(95% CI: 68.7-82.0)、5年PFSはC群:81.7%(95% CI: 75.7-86.3)、D群:71.6%(95% CI: 63.9-78.0)、調整済みHRは1.478(95% CI: 1.010-2.162)と食道切除群で良好であった。化学放射線療法群における完全寛解割合は、87.3%(95% CI: 81.1-92.1)と既報と比較し同程度の成績であった。
安全性の評価は、化学放射線療法群の急性期有害事象として、Grade 3/4の白血球減少11.4%、好中球減少11.4%、食道炎10.1%、発熱性好中球減少症1.9%、晩期有害事象として、食道炎0.6%、肺臓炎1.9%、胸水貯留2.5%、心筋虚血3.2%等を認めた。消化管との瘻孔・心?水貯留はなく、安全に治療可能であった。
後治療は、食道切除群において56例(26.9%)、化学放射線療法群において57例(35.8%)に施行された。それぞれの内訳は食道切除群:化学療法48例、外科治療10例、放射線療法6例、化学放射線療法群:化学療法24例、外科治療21例、内視鏡的切除術16例、放射線療法7例であった(表1)。
結語
StageⅠ食道癌に対する食道切除と根治的化学放射線療法はともに有効性、安全性は良好で、根治的化学放射線療法における全生存期間は食道切除に劣らないことを示した。以上より根治的化学放射線療法はStageⅠ食道癌に対する標準治療の一つと考えられる。
(レポート:九州がんセンター 消化管・腫瘍内科 中野 倫孝)
山﨑 健太郎先生
静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長