GI cancer-net 海外学会速報レポート 2019年1月サンフランシスコ

2019年1月17日~19日に米国サンフランシスコにて開催された2019年 消化器癌シンポジウム(2019 Gastrointestinal Cancers Symposium)より、大腸癌・胃癌・食道癌・膵癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には“Expert's view”として、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。

Abstract #188

膵癌

COMPASS試験における統合分子プロファイリングと治療効果予測

Integrative genomic and transcriptomic profiling and response to chemotherapy on the COMPASS trial

Grainne M. O’Kane, et al.

Expert’s view

上野 誠先生

神奈川県立がんセンター
消化器内科 医長

進行膵癌化学療法の標準治療であるFOLFIRINOX療法とGemcitabine+nab-Paclitaxel併用(GnP)療法の使い分けは、これまで明確なバイオマーカーが示されてこなかった。70歳以下などの若年、PS 0の症例では、FOLFIRINOXとGnP療法の両者が治療選択肢として考えられ、それ以外の対象では、GnP療法が主に使用されてきた。両療法は、下痢悪心、骨髄抑制が出やすいFOLFIRINOX、末梢神経障害、脱毛が出現しやすいGnP療法と、毒性の強度や種類の違いにより使い分けが考えられ、効果予測のバイオマーカーの開発は限られていた。また、CRP値や腫瘍マーカーのように膵癌自体の予後因子になり得るものはあっても、レジメン毎の治療効果を示すマーカーは限られていた。今回の統合分子プロファイリングは、FOLFIRINOXとGnP療法の使い分けを示唆するマーカーであり、非常に興味深いものである。今後、本マーカーを含め、2つの標準治療の使い分けが可能になれば、患者への利益は大きい。しかしながら、本検討で用いられている新鮮凍結検体の採取は、膵癌においてかなり難しく、より簡便な方法での検査も今後の課題である。

(コメント・監修:神奈川県立がんセンター 消化器内科 医長 上野 誠)

進行膵癌におけるバイオマーカー開発の現状

遺伝子解析により、膵癌がさまざまな遺伝子異常を有することが明らかにされてきたが、意義のある遺伝子異常は限られており、化学療法を行う際に有用なバイオマーカーはほとんど見出されていない。進行膵癌に対する化学療法は、現在FOLFIRINOX(FFX)療法とGemcitabine+nab-Paclitaxel併用(GnP)療法が標準治療であるが、有用なバイオマーカーがないことも、これまでも多くの薬剤の開発が失敗に終わっている一因となっている。GATA6は正常膵の発達に重要な因子であり、MoffittらはGATA6を中心とした複数の遺伝子発現パターンを基にしたサブタイプ分類(Moffitt分類、Classical type: GATA6高発現・Basal-like type: GATA6低発現)が切除後膵癌において有用であると報告しているが1)、切除不能例の臨床に有用であるかの評価はなされていない。本研究の目的は、進行膵癌治療に有用なバイオマーカーの探索である。

切除不能膵癌を対象として前向きに遺伝子解析を行ったCOMPASS試験

COMPASS試験は、未治療の局所進行または遠隔転移を有する膵管癌患者を対象とした前向き遺伝子解析研究であり、治療開始前にコア生検検体を得て、DNA、RNA、PDOs解析を行った。登録された患者の治療はmodified FFX療法またはGnP療法のいずれかを行い、これに不応となった際に、遺伝子解析の結果に基づき、分子標的薬治療を検討することとした。本発表では、GATA6のRNA発現量およびMoffitt分類が治療効果予測因子になるかを検討した。GATA6の発現量半定量評価は、新鮮凍結検体におけるFISHにより行った。腫瘍組織検体が提出された169人のうち、治療開始前の遺伝子解析に成功したのは154人(91%)であった。患者背景は、年齢中央値が64歳(29~81歳)、局所進行/遠隔転移が13%/87%、1次治療レジメンはmodified FFX療法/GnP療法/なしが47%/43%/9%であった。付随して行った遺伝子異常検査では、MAPK-BRAFBRAF V600E、FGFRBRCAKRAS-PIK3CAERBB family、FGF familyなどが、全体の約40%に認められた。

Moffitt分類およびGATA6がmodified FFX療法の効果予測因子に

GATA6発現の評価が可能であった111人のうち、Basal-like type群において有意に治療不応患者が多い傾向が認められた(p=0.002)。1次治療別にみると、modified FFX療法を受けた患者において、Classical type群において長期治療継続例がいる一方で、Basal-like type群のほとんどが治療開始8週後の初回画像評価時点で不応と判定されていた。GnP療法の治療継続期間は、Moffitt分類によるサブタイプによる明らかな差は認められなかった。無増悪生存期間は、Modified FFX療法およびGnP療法を受けた患者において、Classical type群/Basal-like type群がそれぞれ7.17ヵ月/2.50ヵ月[ハザード比0.17(95%信頼区間:0.08-0.34)、p<0.0001]、および5.65ヵ月/4.93ヵ月[ハザード比1.17(95%信頼区間:0.51-2.67)、p=0.69]であった(図1)。

図1

発表者の許可を得て掲載(approved by Grainne M. O’Kane)

全生存期間は、Classical typeに比べBasal-like typeの予後が不良な傾向が認められた[中央値8.8ヵ月/5.2ヵ月、ハザード比0.53(95%信頼区間:0.34-0.84)、p=0.006]。1次治療別にみると、GnP療法を受けた患者において、Classical typeとBasal-like typeに有意な差を認めなかったが、modified FFX療法を受けた患者においては、Classical typeに比べてBasal-like typeが、有意に予後不良であった[中央値10.1ヵ月/5.3ヵ月、ハザード比0.33(95%信頼区間:0.17-0.63)、p=0.0005]。多変量解析においても、Moffitt分類におけるBasal-like typeは有意な予後不良因子と考えられた(図2)。

図2

発表者の許可を得て掲載(approved by Grainne M. O’Kane)

なお、FISHによるGATA6半定量評価は、Moffitt分類のClassical type/Basal-like typeとよく相関しており、GATA6のRNA発現定量評価ともよく相関していた(いずれもp<0.0001)。GATA6高発現/低発現の比較でも、生存期間中央値は8.2ヵ月/5.8ヵ月、ハザード比0.66(95%信頼区間:0.40-1.07、p=0.08)と低発現群が予後不良であった。

まとめ

進行膵癌を対象とした前向き遺伝子解析研究において、GATA6を中心としたサブタイプ分類(Moffitt分類)のBasal-like typeが、modified FFX療法の効果不良予測因子と考えられた。今後は、別の臨床試験において、Moffitt分類およびGATA6の効果予測能を再確認することが望まれ、それを基に進行膵癌に対する治療開発が進むことが望まれる。

(レポート:神奈川県立がんセンター 消化器内科 小林 智)

Reference
  • 1) Moffitt RA, et al.: Nat Genet. 47(10): 1168-1178, 2015 [PubMed]

監修・レポーター

  • 監修

    加藤 健先生

    国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長

  • レポーター

    青木 雅彦先生

    国立がん研究センター中央病院 消化管内科

  • 担当:

    #2 #5
    #62

  • 監修

    山﨑 健太郎先生

    静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長

  • レポーター

    中野 倫孝先生

    九州がんセンター 消化管・腫瘍内科

  • 担当:

    #7 #480
    #484

  • 監修

    上野 誠先生

    神奈川県立がんセンター 消化器内科 医長

  • レポーター

    小林 智先生

    神奈川県立がんセンター 消化器内科

  • 担当:

    #187 #188
    #189