胃癌
食道胃接合部癌
未治療の転移性胃癌/食道胃接合部腺癌に対する、SOX療法+抗PD-1抗体±CAR-like T cell免疫療法:多施設共同非盲検無作為化第II相試験
SOX (S-1 Plus Oxaliplatin) Combined With Anti-PD-1 Antibody With or Without CAR-like T-Cell Immunotherapy in Previously Untreated Metastatic Gastric or Gastroesophageal Junction (GEJ) Adenocarcinoma: Interim Results of an Open-Label, Randomized, Controlled Phase II Trial
Qin Liu, et al.
Expert’s view
この10年で、PD-1やCTLA-4など、免疫チェックポイントをターゲットにした薬剤群は、さまざまながん種で標準治療として確立され、がん治療に患者自身の免疫系を賦活化してがんを制御できることが証明された。さらに、複数の免疫チェックポイントを同時にブロック、あるいは活性化させるといった試みも行われてきたが、明確な成果を示した薬剤は限られており、その限界も明らかになりつつある。
CAR-T療法は患者からがん細胞を攻撃するT細胞を採取し、遺伝子改変によりがんを認識・攻撃するよう設計されたキメラ受容体(CAR)を導入した後、再び患者の体内に戻すことで、CAR-T細胞ががん細胞を攻撃する治療法で、すでに血液がんでは臨床導入されている。一方、固形癌に用いる場合の問題点としては、血液がんよりも腫瘍の不均一性が高く効果が限定的であること、がん組織への浸潤効率が低いこと、CAR-T細胞の作製に時間と高額な費用を要すること、さらに輸注したときに起こるサイトカイン放出症候群(CRS)などが挙げられる。
今回発表されたCAR-T “like”なT細胞療法は、遺伝子改変を伴わず、iRGDという環状RGDペプチドをT細胞に付加することで、T細胞が血管から組織内のがん細胞へ浸潤することを促進する、いわば新たなデリバリーシステムを用いた治療法である。結果として免疫チェックポイント阻害剤(ICI)をベースにした胃癌初回化学療法に併用することで、上乗せ効果を示唆した結果となったが、特に注目すべき点が2つあったと思う。
1つは、iRGDを用いたCAR-T like治療を開始するまでに要する時間である。CAR-T療法では、患者のT細胞を採取し、製造施設で遺伝子改変を行った後に返却・輸注する必要があり、一般的に4~6週間を要する。“CAR-T like”治療の場合、同様の時間的制約が懸念されたが、この治療はあくまでICIの効果を高めるモジュレーター的な位置付けであるため、本来の治療開始が遅れることは本末転倒である。その点、本治療では“1週間程度”で実施可能とされており、この懸念は一定程度、払拭された。
もう1つは、T細胞の腫瘍組織内デリバリーを改善するという作用機序であるため、従来はICIの効果が得られにくかった、腹膜播種症例や肝転移症例、さらにPD-L1低発現症例に対しても効果を示せるのか?という点である。実際には、腹膜播種症例でより良好なハザード比(HR)を示すなど一定の可能性を示した一方、PD-L1に関しては高発現症例でより高い効果を示した。
本試験は探索的な試験であるが、有害事象についても、CAR-T療法と比較して“like”な治療法であるためかCRSなどの重篤な有害事象の増加は認められず、全体として奏効割合や、生存成績の改善が示された。今後の治療開発が期待される治療法と感じたが、この領域では中国がかなり先進的に開発を行っており、日本での開発が十分に進んでいない点は強い危機感を覚える。日本においても、今後の固形癌に対する細胞療法の発展に期待したい。
(コメント・監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健)
進行胃・食道胃接合部癌に対するCAR-like T cell免疫療法
CAR-like T cellは、腫瘍標的化および腫瘍浸潤を促進するペプチドであるiRGDを組み込んだサイトカイン活性化Tリンパ球である。iRGDは脂質挿入によってT細胞表面に固定されるため、遺伝子操作を必要としない。前臨床試験において、CAR-like T cellは抗PD-1抗体との併用で相乗的な抗腫瘍効果を示すことが報告されている1)。今回、SOX療法+抗PD-1抗体にCAR-like T cell免疫療法を併用する治療を検討した第II相試験(ChiCTR2200061306)の結果が報告された。
SOX+抗PD-1抗体療法にCAR-like T cell免疫療法を併用した治療の有効性、安全性を検証
主な適格規準は、切除不能局所進行または転移を有し、ECOG PS 0-1の未治療のHER2陰性胃・食道胃接合部腺癌であった。患者は、SOX療法(TegafurおよびOxaliplatinを3週毎)+抗PD-1抗体(Sintilimab、Nivolumab、Pembrolizumabのいずれか)にCAR-like T cell免疫療法を併用する群(CAR-like T群)と、SOX療法+抗PD-1抗体群(対照群)に1:1で無作為に割り付けられた。いずれの群でも最大6コース施行後にS-1+抗PD-1抗体による維持療法が行われた。主要評価項目は全奏効割合(ORR)であり、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、奏効持続期間(DOR)、全生存期間(OS)であった。
CAR-like T群でORR、PFSの有意な改善が示された
CAR-like T群、対照群にいずれも50例が登録された。性別、年齢、ECOG PS、原発部位、転移臓器数、PD-L1 CPS発現などの背景因子は両群で概ね一致していた。
ORRはCAR-like T群が76.0%(38例)、対照群が50.0%(25例)で(p=0.007)、病勢制御割合(DCR)はそれぞれ96.0%(48例)と76.0%(38例)であった(p=0.008)。追跡期間中央値15.8カ月時点の解析で、DORの中央値はCAR-like T群で10.3カ月(95% CI: 6.6-14.0)、対照群6.0カ月(95% CI: 0.0-18.4)であった(p=0.414)。
PFSの中央値はCAR-like T群が10.3カ月(95% CI: 9.3-11.3)、対照群が7.4カ月(95% CI: 6.5-8.3)であった(HR[95% CI]0.64[0.40-1.02]、p=0.0505)。
PFSのサブグループ解析では、転移臓器数≧2、腹膜播種あり、PD-L1 CPS≧5の集団においてCAR-like T群がFavorな傾向を認めた。
両群における最も一般的な治療関連有害事象(いずれのgradeも含む)は血小板減少、リンパ球減少、白血球減少、AST/ALT上昇であった。全gradeにおける治療関連有害事象、grade 3以上の治療関連有害事象、重篤な有害事象(SAEs)の頻度はいずれも両群で同等であった。
探索的な解析では、CAR-like T群において腫瘍のPD-L1、integrin αvβ3、neuropilin 1の発現レベルが高い患者で良好な有効性が認められた。
まとめ
未治療の進行胃・食道胃接合部癌において、SOX療法+抗PD-1抗体にCAR-like T cell免疫療法を併用した治療は良好な有効性を示し、有害事象は管理可能であった。
(レポート:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 小倉 望)

加藤 健先生
国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長