GI cancer-net 海外学会速報レポート 2023年1月サンフランシスコ

2023年1月19日~21日まで米国サンフランシスコとオンラインのハイブリッドで開催された2023年 消化器癌シンポジウム(2023 Gastrointestinal Cancers Symposium)より、大腸癌、胃癌、膵臓癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には“Expert's view”として、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。

Abstract #4

大腸癌

切除不能進行・再発大腸癌に対するFTD/TPI+BEV vs. FTD/TPIの無作為化比較第III相試験:SUNLIGHT試験

Trifluridine/tipiracil plus bevacizumab for third-line treatment of refractory metastatic colorectal cancer: The phase 3 randomized SUNLIGHT study

Josep Tabernero, et al.

Expert’s view

谷口 浩也先生

愛知県がんセンター 薬物療法部 医長

FTD/TPI+BEV療法は、大腸癌治療ガイドライン2022年版に後方治療の選択肢として既に掲載されている(推奨度2・エビデンスレベルB)が、現時点でどれくらいの医師が第一選択としているだろうか。今回、海外で行われたFTD/TPI+BEVの有効性が第III相試験の結果として確認された。本試験は、VEGF系阻害薬使用歴のない患者も含まれていた(24%)が、BEV使用例のあるサブグループでもOSハザード比の点推定値は0.72である。対照であるFTD/TPI群のOS中央値も7.5ヵ月と良好な中で、BEVによる十分な上乗せが示された。以上を鑑みると、日本不参加であったが、本SUNLIGHT試験の結果は本邦の実地診療に外挿できると考える。
 FTD/TPI+BEV療法の安全性についても、大きな懸念は示されなかった。通常のFTD/TPI+BEV療法ではgrade 3以上の好中球減少の頻度が高い(46.9~72%)ことから、5投9休法(Bi-weeklyレジメン)も試みられている。ただし、SUNLIGHT試験は、あくまで従来投与法での有効性の確認であり、Bi-weeklyレジメンの有効性は現在JCOGで実施中の第III相試験(ROBiTS試験)に委ねられている。
 私見だが、本試験の結果を受け、FTD/TPI+BEVは本邦の治療ガイドラインにおいて、推奨度1に格上げされるだろう。もちろん、ガイドラインの変更を待たずとも、明日からFTD/TPI+BEV療法を選択することもできる。後方治療のレジメン選択は、先のESMOで発表されたFruquintinibに加えて、今後Lenvatinib+Pembrolizumabの第III相試験や抗EGFR抗体薬リチャレンジの比較試験の結果も影響を受ける。俄然、後方治療の話題が充実してきた。

(コメント・監修:愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也)

FTD/TPI+BEVの有効性および安全性結果が第III相試験として初めて報告された

切除不能進行・再発大腸癌(mCRC)の後方ラインにおいてTrifluridine/Tipiracil塩酸塩(FTD/TPI)は、プラセボと比較した第III相試験(RECOURSE試験)の結果1)、有意な生存延長が示され標準治療となっている。一方、FTD/TPI+Bevacizumab(BEV)は単群による第II相試験のほか2,3)、無作為化比較第II相試験(Danish study)4)の結果、全生存期間(OS)中央値(FTD/TPI+BEV群9.4ヵ月vs. FTD/TPI群6.7ヵ月)、無増悪生存期間(PFS)中央値(4.6ヵ月vs. 2.6ヵ月)が示され、FTD/TPI単剤と比べて高い有効性が示唆された。この結果を検証することを目的にFTD/TPI+BEV vs. FTD/TPIの無作為化比較第III相試験(SUNLIGHT試験)が行われた。

FTD/TPIの投与法は28日間隔で計画された

主な選択基準は2レジメン以上の治療歴を有する、ECOG PS 0-1のmCRCであり、層別因子は地域、遠隔転移診断からの期間、RAS遺伝子変異の有無であった。患者は2群(FTD/TPI+BEV群、FTD/TPI群)に1:1で無作為に割り付けられた。FTD/TPIは35 mg/m2/回、1日2回、day 1-5、day 8-12、28日間隔とし、BEVは5 mg/kg、day 1、day 15とした。主要評価項目はOSであった。副次評価項目はPFS、客観的奏効割合(ORR)、病勢制御割合(DCR)、安全性およびQOL(time to deterioration)であった。統計設定において、検出力は90%とし、OSにおけるHR期待値は0.70とした(図1)。

図1

発表者の許可を得て掲載(approved by Josep Tabernero)

FTD/TPI+BEVの有効性および安全性が示された

2020年11月から2022年2月までの期間において492例が登録され、両群それぞれ246例が割り付けられた。患者背景(FTD/TPI+BEV群vs. FTD/TPI群)に偏りはなく、左側結腸75% vs. 69%、VEGF系阻害薬治療歴あり76% vs. 76%、RAS変異型70% vs. 69%であった(表1)。
 主要評価項目であるOS中央値は、FTD/TPI+BEV群10.8ヵ月vs. FTD/TPI群7.5ヵ月(HR=0.61、95% CI: 0.49-0.77、p<0.001)とFTD/TPI+BEV群で有意な延長を認めた(図2)。PFS中央値は5.6ヵ月vs. 2.4ヵ月(HR=0.44、95% CI: 0.36-0.54、p<0.001)であった。OS、PFSともサブグループ解析では明らかな交互作用は認めなかった。ORRは6.3% vs. 0.9%(p=0.004)、DCRは76.6% vs. 47.0%(p<0.001)とFTD/TPI+BEV群が有意に優れていた。また、QOLに関して、global health statusが低下までの期間は8.5ヵ月vs. 4.7ヵ月(p<0.001)、ECOG PS 2に悪化するまでの期間は9.3ヵ月vs. 6.3ヵ月(HR=0.54、95% CI: 0.43-0.67、p<0.001)とFTD/TPI+BEV群が有意に優れる結果であった。
 安全性に関して、grade 3以上の有害事象発現割合はFTD/TPI+BEV群72% vs. FTD/TPI群70%と同程度であった。減量割合は16% vs. 12%、投与延期割合は70% vs. 53%であった。FTD/TPI+BEV群で目立った副作用は高血圧(全grade 10% vs. 2%)、嘔気(全grade 37% vs. 27%)、好中球減少(全grade 42% vs. 51%、grade 3/4 43% vs. 32%)であったが、発熱性好中球減少症はFTD/TPI+BEV群で1例、FTD/TPI群で 6例であった(表2)。

表1

発表者の許可を得て掲載(approved by Josep Tabernero)

図2

発表者の許可を得て掲載(approved by Josep Tabernero)

表2

発表者の許可を得て掲載(approved by Josep Tabernero)

結論

FTD/TPI+BEVのOS中央値は10.8ヵ月が示され、FTD/TPIと比較して統計学的に有意な生存延長(3.3ヵ月)を認め、死亡リスクは39%低下した。その他、PFS、QOL、ORR、DCRのいずれにおいてもFTD/TPI+BEVが優れる結果であり、FTD/TPI+BEVによる有害事象は管理可能であった。FTD/TPI+BEVは、mCRCの後方ライン治療において、有効かつ忍容性のある新しい標準治療であることが示された。

(レポート:愛知県がんセンター 薬物療法部 児玉 紘幸)

References
  • 1) Mayer RJ, et al.: N Engl J Med. 372(20): 1909-1919, 2015 [PubMed]
  • 2) Kuboki Y, et al.: Lancet Oncol. 18(9): 1172-1181, 2017 [PubMed]
  • 3) Yoshida Y, et al.: Int J Clin Oncol. 26(1): 111-117, 2021 [PubMed]
  • 4) Pfeiffer P, et al.: Lancet Oncol. 21(3): 412-420, 2020 [PubMed]

関連サイト

監修・レポーター

  • 監修

    谷口 浩也先生

    愛知県がんセンター 薬物療法部 医長

  • レポーター

    児玉 紘幸先生

    愛知県がんセンター 薬物療法部

  • 担当:

    #4

    #11

  • 監修

    加藤 健先生

    国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長

  • レポーター

    角埜 徹先生

    国立がん研究センター中央病院 消化管内科

  • 担当:

    #LBA294

  • レポーター

    池田 剛先生

    国立がん研究センター中央病院 消化管内科

  • 担当:

    #289

  • 監修

    加藤 健先生

    国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長

  • レポーター

    池田 剛先生

    国立がん研究センター中央病院 消化管内科

  • 担当:

    #289

  • 監修

    砂川 優先生

    聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 主任教授

  • レポーター

    久保田 洋平先生

    聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学

  • 担当:

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    #120

    #291

  • 監修

    寺島 健志先生

    金沢大学 先進予防医学研究センター 特任准教授

  • レポーター

    大場 彬博先生

    国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科

  • 担当:

    #LBA490

    #LBA661