GI cancer-net 海外学会速報レポート 2023年1月サンフランシスコ

2023年1月19日~21日まで米国サンフランシスコとオンラインのハイブリッドで開催された2023年 消化器癌シンポジウム(2023 Gastrointestinal Cancers Symposium)より、大腸癌、胃癌、膵臓癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には“Expert's view”として、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。

Abstract #291

胃癌


食道胃接合部癌


食道癌

進行胃癌/食道胃接合部癌/食道腺癌に対する1次治療Nivolumab+化学療法vs. 化学療法:CheckMate 649試験の3年フォローアップ

Nivolumab plus chemotherapy vs chemotherapy as first-line treatment for advanced gastric cancer/gastroesophageal junction cancer/esophageal adenocarcinoma: 3-year follow-up from CheckMate 649

Yelena Y. Janjigian, et al.

Expert’s view

砂川 優先生

聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 主任教授

長期フォローでもデータは同様、ポイントは明確化

すでに報告され論文も複数出ているCheckMate 649試験の3年アップデート結果であった。これまでの発表と同様な結果にもかかわらずoral presentationになるところは試験の大きさ、重要性が伝わってくる。
 CheckMate 649試験は間違いないpositive試験であり文句の付け所がない試験であるが、ほぼ同時に発表されたATTRACTION-4試験の結果と対比され、初回発表時にはさまざまなポイントが議論された。CPSスコア別の解析から有効な集団を抽出することが一番議論され、HER2陰性胃癌の1次標準治療になっているものの、各地域によりNivolumabの使い方には差があるのが現状である。今回の3年アップデート結果では、これまでの報告と同様の結果が示され、長期フォローでもそのデータが揺るがないことが示された。
 今回は、PD-L1発現が高いほうが、予後延長効果がより得られやすい、PD-L1発現にかかわらず奏効率は向上する、MSI-Hにはより効果的な治療である、どのような患者背景でもNivolumabの上乗せ効果が示されており他試験で免疫チェックポイント阻害薬の効果が疑問視されている肝転移を有する症例でも効果が得られている、これらのポイントが強調された発表であった。HER2陰性胃癌の1次治療について数年議論されていくうちに、この試験結果の“示し方”が明確化され、データは変わらずとも1次治療におけるNivolumabの臨床的有用性がクリアになってきたことが感じられる発表であった。

(コメント・監修:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 主任教授 砂川 優)

CheckMate 649試験の3年フォローアップデータが報告された

進行胃癌/食道胃接合部癌/食道腺癌を対象として、1次治療のNivolumab+化学療法の有効性を検証したCheckMate 649試験では、1年フォローアップにおける有意な全生存期間(OS: overall survival)および無増悪生存期間(PFS: progression-free survival)の延長が示された1)。この結果から、現在、本邦や米国、欧州を含め50ヵ国を超える国で1次治療のNivolumab+化学療法が承認されている。その後に報告された2年フォローアップのデータにおいても、同治療の一貫したOSおよびPFSの延長効果が示されている2)。今回は、CheckMate 649試験の3年フォローアップにおけるデータが報告された。

CheckMate 649試験の対象と方法(図1)

本試験は、未治療の切除不能胃癌/食道胃接合部癌/食道腺癌を対象とした国際共同非盲検無作為化第III相試験である。適格基準の概要は、ECOG PS 0-1、HER2陰性であり、PD-L1の発現は含まれていない。適格患者は、Nivolumab(240mg/body、2週毎もしくは360mg/body、3週毎)+化学療法(FOLFOX/CapeOX)もしくは化学療法群(FOLFOX/CapeOX)に1:1で割り付けされた(なお、既知のとおりNivolumab+Ipilimumabの試験治療群は途中でクローズしている)。主要評価項目は、PD-L1 CPS≧5の集団におけるOSおよびPFSであり、副次評価項目は図1のとおりである。

図1 試験デザイン

発表者の許可を得て掲載(approved by Yelena Y. Janjigian)

結果:3年のフォローアップのデータにおいても一貫したPFSおよびOSの延長が示された

患者背景に偏りはなく、アジア人が約20%、胃原発が70%で、MSI-Hは3%であった(表1)。36ヵ月のフォローアップ期間において、OSの中央値(Nivolumab+化学療法vs. 化学療法)は、CPS≧5の集団で各々14.4ヵ月、11.1ヵ月(ハザード比[HR: hazard ratio]=0.70、95%信頼区間[CI: confidence interval]: 0.61-0.81)、全体集団で各々13.7ヵ月、11.6ヵ月(HR=0.79、95% CI: 0.71-0.88)であった(図2)。PFSの中央値は、CPS≧5の集団で各々8.3ヵ月、6.1ヵ月(HR=0.70、95% CI: 0.60-0.81)、全体集団で各々7.7ヵ月、6.9ヵ月(HR=0.79、95% CI: 0.71-0.89)であった(図3)。客観的奏効率(ORR: objective response rate)は、CPS≧5の集団で各々60%、45%、全体集団で各々58%、46%であった。
 OSに関するサブグループ解析では、いずれのサブグループにおいても一貫してNivolumabの上乗せ効果がみられることが示されたが、MSI-Hでは特にその効果が高いことが改めて示された(図4)。PD-L1の発現によるサブグループ解析においては、OSはいずれのカットオフ値においてもPD-L1の発現が比較的高い集団においてHRが低く、より上乗せ効果が高いことが示唆されている。一方、ORRについてはPD-L1の発現の影響は少なく、試験治療群ではいずれのサブグループでも約10~15%の上乗せ効果が示されている(図5)。Grade 3以上の有害事象(Nivolumab+化学療法vs. 化学療法)は、各々60%、45%であり、そのうち重篤な有害事象は各々17%、10%であったが、3年フォローアップにおいて新たな安全性の懸念は認められなかった。

表1 患者背景

発表者の許可を得て掲載(approved by Yelena Y. Janjigian)

図2 全生存期間(36ヵ月フォローアップ)

発表者の許可を得て掲載(approved by Yelena Y. Janjigian)

図3 無増悪生存期間(36ヵ月フォローアップ)

発表者の許可を得て掲載(approved by Yelena Y. Janjigian)

図4 OSに関するサブグループ解析

発表者の許可を得て掲載(approved by Yelena Y. Janjigian)

図5 PD-L1 CPSによるOSおよびORRに関するサブグループ解析

発表者の許可を得て掲載(approved by Yelena Y. Janjigian)

まとめ

3年の長期フォローアップにおいて、Nivolumab+化学療法の一貫した効果はCPS≧5および全体集団いずれにおいても認められ、新たな有害事象の懸念も認められなかった。サブグループ解析においても、MSI-Hで特に効果が得られやすいことや、PD-L1の比較的高発現で予後延長効果が高いことが示唆される一方で、客観的奏効率はPD-L1の発現に影響を受けにくいことなど、既報と同様の傾向が認められた。

(レポート:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 久保田 洋平)

References
  • 1) Janjigian YY, et al.: Lancet. 398(10294): 27-40, 2021 [PubMed]
  • 2) Shitara K, et al.: Nature. 603(7903): 942-948, 2022 [PubMed]

関連サイト

監修・レポーター

  • 監修

    谷口 浩也先生

    愛知県がんセンター 薬物療法部 医長

  • レポーター

    児玉 紘幸先生

    愛知県がんセンター 薬物療法部

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  • 監修

    加藤 健先生

    国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長

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    国立がん研究センター中央病院 消化管内科

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    加藤 健先生

    国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長

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    国立がん研究センター中央病院 消化管内科

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  • 監修

    砂川 優先生

    聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 主任教授

  • レポーター

    久保田 洋平先生

    聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学

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  • 監修

    寺島 健志先生

    金沢大学 先進予防医学研究センター 特任准教授

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    大場 彬博先生

    国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科

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