大腸癌
RAS野生型大腸癌に対するPanitumumabにおけるnegative hyperselection:PARADIGM試験のバイオマーカー研究
Negative hyperselection of patients with RAS wild-type metastatic colorectal cancer for panitumumab: A biomarker study of the phase III PARADIGM trial
Kohei Shitara, et al.
Expert’s view
個人的には、PARADIGM試験本体発表よりも心が震えた。本体発表は、現行のガイドラインに記載されている左側/右側での抗体薬選択を確認したに過ぎなかった。一方で、本バイオマーカー研究発表は、今後、2つの点からガイドラインを変えうる可能性を秘めている。ひとつは、逆説的ではあるが、左側/右側という原発部位に応じた治療選択を否定した点である。Hyperselected集団では左側/右側によらずPANIが良く、逆にgene altered集団では副作用も加味すれば左側/右側によらずBEVが良い選択であることをクリアに示した。遺伝子情報があれば原発部位情報は不要であるといえる。もうひとつは、腫瘍組織ではなくctDNAによるバイオマーカー検査の有用性を示した点である。一例として、腫瘍組織でRAS野生型が確認されていた患者集団にもかかわらず、RAS変異例が7.4%もいたことは無視できない。Turnaround timeが短いことも加味すれば、ctDNA検査による抗体薬選択が適切であると考える。
本発表は「さらなるコホートでの検証が必要」と日本人らしい控えめな表現で締めくくっていたが、日本人にとっては再検証不要で、これで決まりかもしれない。真に“PARADIGM”シフトを起こしたのは、本体発表よりも、こちらのバイオマーカー研究発表であった。
(コメント・監修:愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也)
RAS野生型大腸癌に対するPanitumumabの治療効果予測因子
RAS野生型大腸癌を対象に一次治療としてmFOLFOX6+Panitumumab(PANI)とmFOLFOX6+Bevacizumab(BEV)を比較した第III相試験(PARADIGM試験)の結果、左側(OS中央値:PANI群37.9ヵ月vs. BEV群34.3ヵ月、HR=0.82、p=0.031)および全体(OS中央値:PANI群36.2ヵ月vs. BEV群31.3ヵ月、HR=0.84、p=0.030)において、PANI群の優越性が示された一方で、右側では同程度の有効性であった(OS中央値:PANI群20.2ヵ月vs. BEV群23.2ヵ月、HR=1.09)1)。今回、治療前の血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いて抗EGFR抗体薬の耐性関連遺伝子異常に基づくnegative hyperselectionの有用性について報告が行われた。
ctDNAを用いた遺伝子異常の有無によってhyperselected集団とgene altered集団を比較
ctDNAは治療前に採取された血液検体を使用し、PlasmaSELECT™-R 91(PGDx社)を用いて解析された。Hyperselectionに用いた遺伝子異常はKRAS、NRAS、BRAF(V600E)、PTEN、EGFR細胞外ドメインの変異、HER2、MET増幅、ALK、RET、NTRK1融合の10個とした2-5)。
遺伝子異常を認めないhyperselected集団では左側/右側ともPANI群でOS良好
ctDNAは全体の91%(733/802例)で評価可能であった。うち28%において1つ以上の遺伝子異常を認めた(gene altered集団)、遺伝子異常を認めない72%をhyperselected集団と定義した。原発部位別にみると、左側では21%、右側では50%に遺伝子異常を認めた。各集団における遺伝子異常について表1に示す。全体においてBRAF変異が最も多く(11%)、次にKRAS変異(6%)であった。
Hyperselected集団におけるOS中央値は、全体(PANI群41.3ヵ月vs. BEV群34.4ヵ月、HR=0.75[95% CI: 0.62-0.92])、左側結腸(PANI群42.1ヵ月vs. BEV群35.5ヵ月、HR=0.76[95% CI: 0.61-0.94])および右側結腸(PANI群38.9ヵ月vs. BEV群30.9ヵ月、HR=0.82[95% CI: 0.50-1.35])ともPANI群で良好であった。一方、gene altered集団におけるOS中央値は、全体(PANI群19.0ヵ月vs. BEV群22.2ヵ月、HR=1.14[95% CI: 0.84-1.54])、左側結腸(PANI群23.6ヵ月vs. BEV群26.4ヵ月、HR=1.10[95% CI: 0.72-1.66])および右側結腸(PANI群14.1ヵ月vs. BEV群18.5ヵ月、HR=1.33[95% CI: 0.84-2.11])とPANI群はBEV群と比較して同程度もしくはやや劣る結果であった。各遺伝子異常別のサブグループ解析については表2に示す。
PFSに関してもOSと同様の傾向が示され、全体集団および右側、左側のいずれにおいてもhyperselected集団ではPANI群で良好な傾向が示された(図1)。
結論
遺伝子異常を認めないhyperselected集団において、OSは左側/右側ともにPANI群で良好であった。一方で、何らかの遺伝子異常を認めたgene altered集団においては、左側/右側ともにPANI群はBEV群と同程度もしくは劣る傾向であった。RAS野生型大腸癌一次治療の分子標的治療薬選択において、ctDNA解析による治療耐性関連遺伝子異常に基づいたnegative hyperselectionは、原発部位による分類と比較してPANIが有効な患者集団をより適切に選択することができる可能性が示唆された。
(レポート:愛知県がんセンター 薬物療法部 児玉 紘幸)
References
- 1) Yoshino T, et al.: J Clin Oncol. 40(17_suppl): LBA1-LBA1, 2022 [JCO]
- 2) Douillard J-Y, et al.: N Engl J Med. 369(11): 1023-1034, 2013 [PubMed]
- 3) Douillard J-Y, et al.: J Clin Oncol. 28(31): 4697-4705, 2010 [PubMed]
- 4) Peeters M, et al.: Clin Cancer Res. 19(7): 1902-1912, 2013 [PubMed]
- 5) Mohan S, et al.: PLoS Genet. 10(3): e1004271, 2014 [PubMed]
関連サイト
- ・PARADIGM試験 [ClinicalTrials.gov] [学会レポート]
谷口 浩也先生
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長